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16 スピカと火の魔法

「ポルクシアちゃん、いくら何でもこんなどこの誰の子ともわからない奴が、魔法を使えるわけないじゃないの」


 貧民街の人達のいう事ももっともである。

 この世界で魔法が使えるのは、ごく一部の人間。

 貴族の血縁か、そうでなくても特殊な力を持つ者だけだ。


 貴族以外で特殊な力を持つ者は、その力が分かれば国で保護されるか隔離される。

 それは使い方次第で、戦況を一変し得る可能性があるからだ。


 前の人生で、ビルゴ公爵夫人の生き別れの娘として夫人に取り入ろうとしたスピカは、彼女の血縁なら間違いなく使えるであろう高等魔法を難なく使った。

 その為、多くの血族派の派閥貴族ですら、スピカをビルゴ公爵夫人の生き別れの娘と認定したのだ。

 それに異を唱えたのが、

その時警備隊長の私だった。

 私は仕事柄、盗賊スピカの噂を聞いていたので彼女が偽物だと確信していたのだ。

 魔力や素振り、全てを生きる為に完璧に生き別れの令嬢をやりこなしたスピカを偽物だと判断できたのはただ一つ、銀のブローチが偽物だと証明できたからであった。


 そう、スピカは間違いなく魔法が使える。

 今だからわかる事で、彼女は魔法省のビルゴ公爵夫人の娘で間違いないのだ。


「スピカ、魔法を使ってみるんだ」

「まほう……それができればパンたべていいのか?」

「うん、僕が食べさせてあげるよ」

「アタシ……やってみる」


 スピカは魔法を唱えようとした。

 周りの大人たちは失笑している、どうせできるわけがないと思っているからだ。


「スピカ、頭の中に炎をイメージしてみるんだ、それをあのゴミの山に向かって出してみて」

「ほのお……いめーじ」


 スピカの指に赤い空気が集まった。

 そして、その空気は熱い熱を発し、真っすぐな赤い光になって少し遠くのゴミの山を燃やした。


「「「!!??」」」


 大人たちがビックリしている。


「魔法……しかもあんな遠くに飛ばした!」

「信じられん」


 大人たちはザワザワし始めた、スピカが魔法を使った事を、彼女を取り囲んでいた多数の人が見たのである。


「ポルクシアちゃん、凄いよ。なんでこの子が魔法を使えるとわかったんだ!?」

「えへへへ、カンです。僕のカンってよく当たるんです」


 まさか彼女が魔法省のビルゴ公爵夫人の娘だなんて、言えるわけがない。


「まてよ、この子が魔法使えるって事は、今日も風呂沸かせるんじゃないのか?」

「そうだ、急いでブレッドさんに伝えよう!」

「ポルクシアちゃん、その子を連れてきてくれないか」

「わかりました、行こう。スピカ」


 スピカは何か食べさせてもらえると思って、私に素直についてきた。



「本当にその子が魔法を使えるのかい?」

「ああ、オレ達が見たぜ」

「ポルクシアちゃんが言ってたよ」


 スピカは魔法を使い、ゴミ捨て場に作った炉に炎の魔法を放った。

 彼女の魔法は成功したが、少し火が強すぎるようだった。


「スピカ、火が強すぎるよ、もう少し弱める事できるかな?」

「よわいひ、わかった」


 スピカは少しイメージしただけで、火のサイズを自在に変える事が出来た。

 これは本来、数年修業した魔法使いでようやくたどり着く能力だ。

 普通は火を出したりは出来ても、継続的に強さを変えるなんて高等技術は使えない。


「凄いよ! これ魔法使いのじいさんに伝えてやらないと」

「そうだな、爺さんだけに頼らずに済みそうだ」


 スピカのおかげで、みんながその日お風呂に入る事が出来た。

 そしてスピカはみんなの最後に、私と一緒にお風呂に入る事になった。


「こんなに汚れて、かわいそう」

「……」


 私はスピカを優しく洗ってあげた。

 前の人生で彼女を拷問して処刑した私の償いではないが、幼くして真っ黒に汚れた彼女の身体だけでなく心まで洗ってあげたいと思ったのだ。


 洗ってあげた時にスピカの肌をよく見ると、彼女には打撲一つ無かった。

 彼女は痛みを無意識に自らの魔法で治癒していたのだろう。

 無意識でも魔法が使える、彼女のセンスは本物だった。


 お風呂で全身綺麗になった彼女は、とても可愛らしかった。

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