14 ポルクシアの考えた事
私はパン屋のおばさんに自分のしたい事を伝えた。
「僕、ゴミを捨てに行って思ったんです。ゴミ捨て場をそのままにしておくと絶対みんな病気になってしまう、それで誰かが死ぬとか嫌なんです」
「ゴミ捨て場……ごみを捨てるのが当たり前だからそんな事は考えた事なかったわ」
前の人生で知っていたが、一応このゴミ捨て場は国の管轄で燃やされる時はあった。
だが、それも年に一度、疫病が流行ってからはそれが出来なくなり、ゴミはたまる一方だった。
それが不潔な環境を悪化させ、疫病の蔓延をさらに広げたのだ。
私が前の人生で警備隊長だった時、街を燃やそうと考えたのはその為だ。
しかし今の考えは違う。
燃やすべきは街ではなくゴミだけだ。
そしてそのゴミを燃やした熱でお風呂を作れないか、私が考えているのはそれだった。
「僕、あのゴミを燃やす事でお風呂を作れないかと思ったんです」
「ポルちゃん、何考えてるの? お風呂なんて貴族様の家にしかないでしょ。それをどうやってあんなところにお風呂なんて作れるの??」
どうやらおばさんは、私がゴミ捨て場にお風呂を作ろうと考えていると思っているようだ
だが、実際は少し違う。
「違いますよー、あんなところにお風呂なんて作れませんよ、臭いもひどいし綺麗になれませんって」
「そりゃあそうだね。でもポルちゃん賢いから何か考えてるんでしょ」
「おじさんって町のリーダーなんですよね。協力してもらえるように言ってもらえますか」
「まあ、内容次第だね」
私はおばさんに、鉄で出来た長い筒を結構な本数用意してもらう事にした。
それとブレッドおじさんには、大きな何十人も入れる穴と排水管を手の空いてる人たちに手伝ってもらって作ってもらう事にした。
「なんだなんだ?」
「ポルクシアちゃんが何か面白い事を考えたんだってよ」
「なんでも貴族様の家にある風呂をみんなの為に作ろうって話だ」
「ほえー、そんな事できるんかい」
貧民街の暇な男達が集まってきた。
彼らは仕事が無くて、日々ぶらぶらしているか賭け事でもしているだけだ。
私はブレッドおじさんの協力でパンを食べさせてあげるから、お風呂を作るのを手伝って欲しいと言ってもらった。
私の作ろうとしたお風呂は、井戸水を汲んでそれを坂の上の方からつないだ鉄の筒に流し、ゴミ捨て場のゴミの所に小さな炉を作ってお湯を沸かしてからそれを下の風呂に入れるといった、簡単な作りの物だった。
つまりはお風呂の薪の代わりに、ゴミを燃やして風呂を沸かそうと考えたのだ。
一週間後、お風呂が完成した。
風呂場になったのはブレッドさんが、借金の片に没収した夜逃げした人の空き家の中だった。
「さて、お湯を流すよ」
風呂の桶の筒を止めていた蓋を外すと、そこからは温かいお湯が流れてきた。
「成功だ! これがあればいつでも風呂に入れるぞ!」
「凄いよ、ポルちゃん。貴族様しか入れないお風呂に、アタシらが入れるなんて夢のようだよ」
貧民街の人達は喜んでくれていた。
厄介な問題だったゴミが、お風呂の焚きつけになってくれたからだ。
私は最初にお風呂に入ってもらう人達をゴミを燃やしてくれた男の人達にした。
彼らが一番汚れる仕事をしてくれたからだ。
彼らはとても喜んでいた。
残念ながらお湯はすぐに真っ黒になってしまったが、他の人もゴミを燃やしてくれたのでお湯は絶えず流し続ける事が出来た。
幸い、この貧民街は港の近くにあり、大きな川が上流から流れてきた地下水で井戸水は豊富にあるのだ。
それなのでお風呂はみんな入っても、水が無くならないくらいに確保できる。
「ポルクシアちゃん凄いよ!
「ありがとう、まさか生きていて風呂に入れる日が来るなんて思わなかった!」
この貧民街では、誰もが水浴びか数日に一度体を拭くくらいしか出来ていなかったので、みんなが薄汚れていた。
だが、このお風呂のおかげでみんなに笑顔があふれた。
「えへへ……」
私は前の人生では味わえなかった充実感を、今確かに感じていた。




