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147 馬と乗り手の関係

 エニフは馬の後ろに私を乗せて、馬はゆっくりと歩き出した。


「大丈夫か? バランスに気をつけないと落馬するからね」

「は、はい。大丈夫です」


 私はエニフを後ろから抱きしめる形になった。

 少しだけ育った胸がエニフの背中に当たる。

 こういう感覚を感じるというのは、やはり今の私は女の子なのだなと思った。


 プラスケットの背中側に乗っていたスピカも同じような状態だった。

 やはりプラスケットの背中から胸を押し当てて抱きしめる形になっている。


 エニフよりはプラスケットは落ち着いた様子だった。

 あの様子だと、馬の二人乗りは何度も経験があるのだろう。


「でもお嬢さん達、乗馬部に興味を持った理由って何?」


 まあ普通はあまり乗馬を女性が好まないのがこの国の貴族だ。

 乗馬は騎士の嗜みであれど、女性が馬に乗るという習慣はあまりない。


 プラスケットの後ろに乗せてもらおうと考えている女子達は、むしろ下級貴族の娘が多いのだろう。

 馬に乗る男性を褒めることで少しでもいい階級の貴族とお近づきになりたいといった魂胆が大半だ。

 そう考えると、エニフ達に私達もそういう女と一緒と思われたのかもしれない。


「僕が乗馬に興味を持ったのは、馬が可愛いと思ったからです」

「馬が? 可愛い?? こんなに大きくて落馬したらケガするような馬が??」


 エニフはどうも私の返答がおかしいように感じているらしい。


「だって、目がクリッとしてて可愛いと思うんです。人間よりも純粋な目で、ただ前に走ろうとしているひたむきさ、そういうのが好きなんです」


 これは取ってつけたような返答ではない。

 現に前の人生で私は人と接しているよりも、愛馬のアルジルの背中に乗って遠出をしている方がよほど満たされていた。

 馬は打算ですり寄ってくる人間と違い、孤独で満たされない私の気持ちを受け止めてくれていた。

 だから私は前の人生でも馬にまたがっていたくらいだ。


「ハハハ、良い返答だ。乗馬に興味があるって女子は大抵実際に馬に乗るとキャーキャー騒ぐだけで馬を労わろうって子はいなかった。キミは今もこの馬に負担をかけないように乗ろうとしているだろ。馬には乗り手の気持ちが伝わるんだよ」

「よう、エニフー、そっちはどーだ?」

「プラスケット、こちらのお嬢さんは問題なさそうだ。それよりそっちはどうだ?」


 プラスケットの後ろに乗っているのはスピカだ。

 スピカは前の人生で凄腕の盗賊だったので、元来の運動神経は悪くない。いや、悪くないどころかその辺りの貴族連中とは比べ物にならない素質を持っている。


「いや、それがこっちのお嬢さんもよー、馬を怖がるどころか、馬が何を考えているのかを見抜いているようなくらいだ。凄い素質があるぜー」

「そうか、今年の一年生は見込みがありそうだな」

「そうだなー、あの入試でパーフェクトを出したカストルってヤツも自前の馬で見事なテクニックを見せてくれたからなー」


 どうやらカストルはアルジルの兄弟のプロプスを乗りこなしているようだ。

 私の前の人生では、今と反対にプロプスが、乗り手がいないまま競馬場に払い下げになってしまい、骨折の末死亡という不幸な目にあっていた。


「あの、エニフさん。お願いがあるんですが良いですか?」

「良いけど、どうしたんだ?」

「僕、後ろじゃなくて一人で馬に乗ってみたいんです」

「おいおい、危険だぞ。素人が一人で乗れるほど甘いもんじゃないんだから」


 エニフの言っているのはもっともだ。

 だが、このまま乗り手がいないままでは、アルジルはここにいられなくなってしまう。

 それなら私があの子を助けてあげたい。


「バロ……さんでしたっけ。あの厩舎にいる馬、乗せてもらえますか?」

「おいおい、アレはカストル様の馬だぞ。許可なく勝手に乗せるわけにはいかないからな」

「何だ何だァ。面白そうじゃねェか。よう、ポルクシア。テメェ、アイツに乗れるってのかァ?」


 話が聞こえていたカストリアが、私をニヤニヤしながら見ていた。

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