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143 義を見てせざるは勇無きなり

 アルネブの大声は辺り一面に響き渡り、声を聞いた職員と生徒達が次々にかけつけた。

 どうやらアルネブが気絶したため、認識疎外の魔法は解けてしまったらしい。


「どうした、何かあったのか?」

「なんでもねェよ! テメェら今入ってきたら全員ぶっ飛ばすからなァ!」


 そう言うとカストリアは手に大きな炎を用意して物置小屋の外で生徒や教師を威嚇している。

 スバルさんは私とスピカの服を拾ってくれて、私達に手渡してくれた。


「さあ、時間稼ぎしている間に服を着て!」

「あ、ありがとうございますっ!」


 腕の使えるスピカはどうにか服が着れそうだが、手枷されたままの私は服を着るのができない。


「おっと、そのままでは無理みたいですね、じっとしていて動かないで下さい」


 スバルさんは私に動くなと言うと、腰にある剣に手をかけた。


「!」

「動かないで、手元が狂いますっ」


 スパァン!


 スバルさんは目にも見えない速さで剣を振るい、私の手枷を一瞬で両断した。


 ッチン……。


 そして再び剣を鞘にしまうまでにかかった時間はほんの一瞬だった。


「さあ、早く着替えて」

「は、はいっ!!」


 私はスバルさんに渡してもらった制服を急いで着た。

 流石にカストリアも野次馬や教師の数が増えすぎて、扉の前で抑えきれなくなっていた。


「わりィ、オレもう限界だわ」


 私の方を向き、引きつった笑いを見せたカストリアは群衆に押し倒される形になってしまった。


「ぎえッ! ぐえェッ! ぶえッ!!」


 何人かの生徒や教師に踏まれたカストリアが変な叫び声をあげている。

 そして物置小屋に入ってきた生徒と教師達は、私とスピカ、そして下半身下着姿で失禁したまま気を失っているアルネブを見つけた。


「一体……何があったというのですか?」

「そこのアルネブ子爵がここにいる特待生の二人を脅して物置小屋でいかがわしいことをしようとしていたのです。授業をサボろうとしていたカストルを追いかけていたわたしはその悲鳴を聞いてここにかけつけました。」


 無理のない説明だ。

 だがそれをカストリアがきちんと話を合わせるかが問題だ。


「ああ、それで間違いないぜェ。オレはかったりい授業が嫌になってなァ、誰も使ってない物置小屋で少しサボろうとしていたんだけどさァ。来てみたら誰もいないはずの物置小屋から叫び声が聞こえたんで、扉を蹴破って中に入ったらまァ、そこのアルネブ子爵がそこにいる二人を襲おうとしていたので、許せないから蹴っ飛ばしてやったってわけよォ」


 カストリアは自身が悪者になる形で私達をかばってくれた。


「そ、そうか。それは大変だったな。ところでそこの特待生二人、授業をサボるためにここに来たのではないのだな?」

「は、はい。僕達が教室に向かおうとしていたら、アルネブ先生が特待生には特別教室で授業があると言っていたのでそれに従ってついて行ったらこうなってしまいました」

「なるほど、わかった。そういう事情なら遅刻と無断欠席は無しにしておこう。だが授業を休んだことはきちんと補修を受けてもらう」

「は、はい。ありがとうございます!」


 私とスピカは、駆けつけてくれた先生に対して深くお辞儀をした。


「さて、問題は……アルネブ先生のことですね。本人が気絶しているので聞き出すのができないみたいですが、これをやったのは誰ですか?」


 正当防衛とはいえ、平民が貴族に殴り掛かると有罪だ。

 私は黙っているしかなかった。


「それやったのオレだぜェ」

「カストル! 入学そうそう次々と問題を起こしているのは貴方ですかっ!!」

「すみません、わたしも手を出しました」

「スバルさん。お父上が聞いたらどう思うと思われるのですか?」

「父様ならよくやったと褒めてくれると思います。義を見てせざるは勇無きなりと何時も言っておりますから」


 そうだった。

 前の人生でもアルデバラン伯爵はそういう人だった。

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