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13 スピカとの再会

 パン屋のおばさんと一緒に寝させてもらった私は、泣き疲れて寝てしまった。

 次の日、パン屋のおばさんがついて来てくれて家に帰ると、家にはレーダ母さんがいた。


「ポルクシア? どこ行ってたの、母さん心配したんだからね」

「まあまあ、レーダさん。実はね」


 おばさんは昨日の事を言うのだろうか、私は不安になってしまった。


「夜ね、ユピテルさんの所に兵隊が来て、どうやらあの人脱走兵だったそうなんだよ。それでまた戦場に戻る事になったのよ。それで、家に一人だと物取りが出そうで怖いってポルクシアちゃんがうちに来たから泊めてあげる事にしたってわけよ」

「そうだったんですね。それはそれは、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 レーダ母さんが深々と頭を下げて、パン屋のおばさんにお辞儀をしていた。

 どうやら昨日私がユピテルに襲われそうになったのは黙ってくれているようだ。


「物取り! 実際入っちゃったみたいねえ、家の花瓶が割れてベッドのシーツがグチャグチャになってたから。それに貯金も無くなっちゃってたわ」


 ユピテルは家の金を盗んでいったらしい。

 まあこれが手切れ金になるならまだマシかもしれない。

 このままアイツに居座られたらレーダ母さんも私もアイツの奴隷にされていたんだ。


「それは大変だったねえ。レーダさん、もしよかったらポルクシアちゃんに店で働いてもらえないかね、可愛い子がパンを売ってくれたらうちも助かるし、働き次第できちんとお金も出すよ」

「え、でもまだうちの子6才ですよ?」

「母さん、僕、算学なら割り算も出来るよ!」

「え!? 流石はポルクシア様、素晴らしいです」

「様? どういう事だい」


 レーダ母さんはつい褒める時、にメイドの立場からの私への態度になってしまったようだ。


「い、いえね。まさかこんな街でこれ程頭のいい子供がいたらそりゃあ様もつけたくなりますわよ、ホホホホ」

「六歳で割り算まで!? ポルクシアちゃんみたいな子を天才って言うんだろうね」

「えへへへ」


 私は照れ笑いでどうにか誤魔化した。

 まさかこの中身が、成人男子の性格と頭脳だとは誰も思うまい。



「焼き立てのパンはいかがですかー」

「一つ下さい」

「はい、銅貨1枚になります」

「可愛い看板娘だね、また来るよ」

「ありがとうございましたー」


 私はパン屋で働くことになった。

 普段は足し算と引き算程度の買い物客しかほとんど来ない。

 貧民街なんて所詮そんなもんだ。


「うんしょ、うんしょ」


 私は焼きそこないの生地と焦げてしまって売り物にならないパンを、ゴミ箱に捨てた。

 そこで再び彼女に出会ったのだ。


「ううう……」


 まるで野良猫のような視線、ボロボロの服にボサボサの髪で隠れた目。

 そこにいたのはスピカだった。


「うわっ!」


 スピカはゴミ箱を持っていた私に体当たりした。

 流石に重いゴミ箱を持っていた私はバランスを崩し、転倒してしまった。

 その隙を狙い、スピカは散らばったゴミの中から、焦げた焼き冷ましのパンをおもむろにつかむと逃げ出した。


「待って! スピカ!」

「!」


 スピカの動きが一瞬止まった。

 しかし一度振り返ると、彼女は再び姿を消してしまった。

 私は散らばったゴミをゴミ箱に入れてゴミ捨て場に持って行った。

 ゴミ捨て場には凄まじい異臭が漂っていた。


「これはダメだ!」


 私はこのゴミ捨て場が伝染病の温床になると実感した。

 このままではこの貧民街の私を助けてくれた人たち全員が、伝染病で亡くなってしまう。

 今こそ私の知恵をこの人達の為に使いたい。

 考えた私は次の日、パン屋のおばさんに話しかけてみた。


「おばさん、お話があるんですが」

「どうしたんだい? ポルちゃん」


 おばさんは私の事を親しみを込めてポルちゃんと呼んでくれた。

 このおばさんなら、話を聞いてくれるかもしれない。


「実は、僕、やりたい事があるんです」

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