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133 人生二度目の答辞

 まさかこの入学式でカストリアが盛大にやらかすとは、流石に私も想定外だった。

 入学試験全科目満点で入学した最優秀生徒が、答辞で現体制批判をするなんて前代未聞だ。


 カストリアは教師と警備隊に羽交い絞めにされ、そのまま講堂から退去させられていった。

 その際、カストリアは私の方を向き、何か目くばせをしてきた。

 何を言いたいのかは大体想像がつく。

 私も退去させられるカストリアの目を見て小さくうなずいた。


「よォ。後は頼んだぜェ!」


 そしてカストリアは講堂から外に連れ出された。


「え、答辞にハプニングがありましたので別の者に答辞を続けさせます。ポルクシア・スパーダ、前へ」


 私は全く何の準備も何もしていないのに、退場させられたカストリアに代わり、いきなり教師に答辞を押し付けられてしまった。

 確かに私は前の人生で答辞を任されたので、その内容は大抵覚えている。

 だが、それをそのまま言うのは私にはできない


 なぜならそれは、私がヘミニス伯爵の息子だったから言えた内容である。

 だが今の人生では私は平民の特待生、ポルクシア・スパーダだ。


 貴族らしくなど言えるわけもない。

 だからと現体制批判をした日には、私はカストリアとは違い、即退学だ。

 カストリアは注意こそされるであろうが、あの立場では謹慎か反省文程度で済むだろう。


「ポルクシア・スパーダ。答辞を読みなさい」


 中にはクスクス笑っている貴族がいる。

 私がまともに答辞を読めるわけがないと思っているのだろう。

 特待生制度自体を批判しているような門閥貴族はいくらでもいる。


 ここで私が失敗すればそれをダシにして特待生制度そのものを廃止に持って行こうと考えているだろう。

 そんな連中の満足のために私は踏み台にはされない。

 良いだろう、平民と貴族の二つの人生を生きた私だからこそ言える答辞を読んでやる。


「答辞、私は栄えあるこの皇国学習院に、初の特待生として入学させていただきました。貴族の皆様の恩情に心より感謝致します」


 この出だしの挨拶で、貴族共の大半は満足しただろう。

 私は彼等、彼女等に身分をわきまえた存在という第一印象を与えた。


「私は特待生として入学するため、人一倍の勉強、努力をしました。その甲斐あって無事この場所で入学式を迎えることができたのです」


 これはコネや一芸、裏金で入学した連中への皮肉だ。

 奴らは努力なぞ無くても親の権力や財産で入学が約束されている。

 

「私はお金を持っていません、地位もありません。そして親も育ての母親だけです。生活レベルは最底辺、ここにいる貴族の人達には想像もつかないほどの低所得でどうにか生活できていました。そんな私がここに入れたのは、そんな私でも応援してくれた方々がいたからです。私はシリウス前学長のおかげで、特待生の制度を知る事ができました」


 この発言で私はこの国最強の魔法使いだったシリウス男爵の関係者だと印象付けた。

 下手に私に敵対的な態度を取ったらシリウス男爵を敵に回すことになると思わせれば勝ちだ。


「そして、特待生になるため、勉強しました。中でも苦労したのは……国語の勉強でした。平民は本を読む機会が殆どありません、下手すると一生文字を知らずに人生を終わらせる人もいます。しかし私はシリウス前学長の蔵書を見せてもらい、数か月で文字を覚え、勉強をしました」


 本当は前の人生で文字を学習しているので、それはあくまでも演技だ。

 だが数か月で貴族の息子でも覚えるのが大変な国語をマスターしたというイメージを与えた方がいい。


 案の定、私の答辞を聞いてざわざわし始めた貴族が何人も出てきた。

 彼らは平民に学をつけるのを嫌がる門閥貴族だと言っているようなものだ。


 だが、父さんのヘミニス伯爵は黙ったまま私の答辞を聞き続けてくれていた。

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