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129 生々しい悪夢

次でカストリアとポルクシアの幼少時の話が終わります。

その後は皇国学習院編になります。

 オレは生々しい悪夢から目が覚めた。

 アレはあまりにも生々しいものだった。まだオレの手にはあの感触が残っているような気がする。


 だが、今オレのいるのは薄汚れたスラムの安宿でもなければ、力尽きた時の冷たい雨で濡れた地面でもない。

 ふかふかの布団とシーツの用意された豪華なベッドだ。


 前の人生では考えられない環境だ。


 オレは育ての親だったレーダの再婚相手、ユピテルにこの世の地獄を味わされた。

 クズそのものだったユピテルのせいでオレの人生は大きく狂った。


 レーダはユピテルの奴隷にされてしまい、朝晩寝る間もなく働いてはユピテルに酒代と遊び代を搾り取られていた。

 レーダが身体を壊して病気になり、もう起き上がれなくなった時ですらあのクズのユピテルはレーダの服や持ち物を全て売り、酒と遊びにつぎ込んだ。


 レーダが亡くなってからも、ユピテルはオレをこき使った。

 オレが盗みをするようになったのは、ユピテルに命令されたからだ。

 ヤツはオレのことを殴る蹴るした。


 ガキだったオレには大人のユピテルに勝てる方法が無かった。

 だが数年し、反抗できるくらいになった時、オレはユピテルを殺し……家を捨てた。


 それからは住む家も無い路上暮らしの辛い日々だった。

 そんな中で出会ったのが天涯孤独のスピカだったのだ。


 最初スピカはオレとゴミ捨て場の食い物を奪い合う敵だった。

 だがそんなオレ達は、争うよりも手を組んだ方が得だと気が付き、魔法の使えるスピカはオレの行動に従った方が得ができると知って相棒になった。

 その後オレとスピカが男女の関係になったのはいうまでもないだろう。


 オレと相棒になったスピカは二人で裏社会のボスにまでのし上がった。

 そんな中、オレはビルゴ公爵夫人の娘が行方不明だと聞き、見つけた人には莫大な報奨金を渡すという話に乗った。

 行方不明の娘そっくりだという噂を使い、スピカをビルゴ公爵夫人の娘に仕立てるのはそれほど難しいことではなかった。


 だが、それを一人だけ見抜いたのがいたのだ。

 それが俺の生き別れの弟だった警備隊長のポルクスだった。


 ポルクスはスピカを、国家を欺いた大逆人だとして火あぶりの処刑にした。

 オレはスピカの復讐を決めた。

 そしてヤツに美人の彼女がいると知り、双子の姿を使って成りすましたのだ。


 憎い貴族達をズタボロにするために、オレはあらゆる手を尽くした。

 オレはポルクスに成りすまし、ヤツの大切にしていたアルフェナを使い、貴族の男達を騙し、金を奪い何人も破滅させてやった。

 貴族憎しでオレは彼女を徹底的にボロボロになるまで使い、最後はオレの手で殺した。

 ポルクスとオレが最後に殺し合ったのはそれが引き金になった。

 そして、オレはポルクスと相打ちになった。


 その最後でなぜかオレにはポルクスの人生の記憶が流れ込んできた。

 裕福で何不自由無さそうに見えたヤツも人に恵まれず、孤独で寂しい人生を送ってきたと知ったのだ。


 今考えるとあの前の人生が悪夢だったのかもと思えるくらい、今のオレは充実している。

 前の人生ではオレの周りにいたのは恐怖で従う部下と、利権や金ですり寄ってくる薄汚い連中だけだった。


 オレがポルクスと同じ境遇になり、最初にしたことは仲間作りだった。

 貴族を憎む庶民の目、それはかつてのオレの目だった。


 貧乏人達のガキ大将だったバロは、オレを貴族の子供だと憎んだ。

 そして彼の言った一言がオレの前の人生を思い出させた。


「毎日肉入りのスープが飲めればお前なんかには負けない」


 オレはその言葉を聞き、前の人生でのオレと同じ不幸だった奴らを助けてやりたいと考えるようになった。

 その甲斐あってか、今のオレには心から話せる親友、大事な妹、仕事の仲間達がいる。


 今のオレは幸せと言っていいのだろう。

 だが世の中には、まだまだ不公平の中で苦しむ不幸な奴らがいる。


 オレは皇国学習院で勉強し、そういう奴らを助けてやれるようにしたいと考えた。

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