128 そして門をくぐる
私は嫌な悪夢から目が覚めた。
それは物凄く生々しい悪夢だった。
いや、正しくは悪夢ではない。
私の前の人生の最後の姿だった。
前の人生の私は、とても性格の悪い選民思想の塊だった。
他人を信用できず、自身ができることをできない相手を全部見下す天才肌の鼻持ちならないエリート。
今考えると、そんな奴に誰も心から友達になろうとか恋人になろうとか思うわけがない。
そんな中、一人だけ私に心を許していたのがアルフェナだった。
継母の連れ後で血のつながらない妹。
いや、父親が同じだと血はつながっているのかもしれない。
それでも貴族はお高くとまっているが大抵の女性は下半身はゆるいのでやはり血のつながりは無いのかもしれない。
確実に血がつながっている確証を知る方法はこの世界には無いのだ。
それでもアルフェナは私を兄と慕ってくれていた。
だから前の人生で孤独だったとしても私はどうにか生きていられたのだろう。
だからこそ、カストルがアルフェナを利用して殺したと知った私は彼を憎んだ。
彼の部下、身内、シンパ、治安維持の名の下にその全てを皆殺しにしたのだ。
今考えると最低最悪の貴族そのものだ。
カストルだけではなく、前の人生では私は大抵の人間から憎しみの目を向けられていた。
それは妬みやそねみなどもふくまれていたのだろう。
前の人生で私は人が嫌いだった。
自身にすり寄ってくるのはその地位のおこぼれが欲しいか、単に見た目だけで私の妻になりたいという女達。
本当の私を心から見てくれる人なんてアルフェナ以外誰もいなかった。
だが、私は今の人生でやり直すことができた。
レーダ母さん、スピカ、ブレッドさん夫妻に街のみんな、シリウス爺さんにレグルスとイア―ソン、レイブンさん。
前の人生では決して巡り合えなかった人達だ。
いや、巡り合えていても前の人生の私なら全て敵に見ていたかもしれない。
今の私はこの人達のために生きているといえる。
私を本当に大切に思ってくれている人がいるからこそ、私もその人達のために頑張る事ができる。
今の私は幸せなのだろう。
それは金ではない。金ははっきり言ってほとんど持っていない庶民だ。
でも金よりも大切な仲間、周りの人達がいる。
私の頭を正しく使えれば、金を生み出すことはこの年齢でも容易にできる。
だがあえて私はそれをしないと決めた。
下手に金があると今まで優しかった人が豹変する可能性もあるのだ。
現に前の人生で私は凄惨な殺人現場を何度も見た。
周りの人達に聞くと大抵、それは金周りが良くなった途端に事件に巻き込まれるといった形が大半だった。
もしお金を稼ぐなら、みんなのためになることをしたい。
私が今の人生で皇国学習院への入学を希望したのはそのためである。
皇国学習院卒業生は、この国で人生の未来を約束されたのも同然と言える。
それだけのステータスを所有することができるのだ。
前の人生で私が皇国学習院で学んだのは、貴族社会での常識や学力だけだった。
人間関係の構築や、自身の未来に何が必要かなどは、前の人生での皇国学習院では学べなかった。
多分特待生の私には、貴族のマナーや常識は教えてもらえないだろう。
だが、そんなものは前の人生で一通りマスターしている。
これからの私の学校生活は、前の人生に比べて過酷なものになるだろう。
だが、今の私にはスピカやシリウス爺さんがいる。
「スピカ、行こう!」
「うんっ。ポル……一緒に頑張ろうね!」
そして私とスピカは、皇国学習院の門をくぐった。
その時は気が付かなかったが、そんな私を遠くから白い猫は見守っていた。
運命の歯車は、第二章に向け、ゆっくりと回り始めたのだった。
『ポルクシア・スパーダ』
『スピカ・カニスマイヨル』
この春からこの二人は皇国学習院の特待生になった。




