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11 踏みにじられた希望と現実

 私は右手にお守り代わりにブローチを握ったまま、寝間着姿で走って警備隊を探した。


 警備隊なら私が前の人生で警備隊長だった時、部下だった連中だ。

 みんな真面目で国の為に働いていた。

 国の事をしっかりと考え、職務に忠実な兵士達。


 彼らなら私を助けてくれる。

 今は走って警備隊に助けを求めよう。

 私は一目散に走った。

 だが、ユピテルは後ろから追いかけてきた。

 女児の力では大したダメージは与えられなかったようだ。


「待ちなさい、ポルクシア」


 私は走った、そして……警備隊を目の前に見つけた。

 助かった、私は走って警備隊に飛びついた。


「助けてください、悪い男に追いかけられているんです」


 私が助けを求めたのは、警備隊のマーロとフーガだった。

 二人共私が警備隊長の時、誰よりも真面目で職務に忠実だった。

 だが……今の私を見る二人の目は、ゴミを見るような目だった。


「触るなっ! 下民が」

「鎧が汚れるだろうが、このガキッ」


 ドガッ。


「うぐぅ」


 私は足蹴にされ、その場に転がってしまった。

 何故だ……彼らは真面目で職務に忠実な兵士ではなかったのか?

 私は蹴られて痛いお腹を抱えてうずくまった。


「痛い……痛いよぉ」


 マーロとフーガはそんな私を見て笑っていた。

 そして私を持ち上げると、右手に握っていたブローチを取り上げた。


「このガキッ! こんな高価そうな物、どこで盗んだ!?」


 そこに最悪のタイミングでユピテルが現れた。


「あ、兵隊の皆様。ご苦労様です、ウチの娘が何かしましたか?」

「このガキ、どこからか高価そうな物を盗みやがった!」

「ああ、それはそれは申し訳ありません、きちんと躾けておきますので。で、それ私の妻に買ったものなんですが返してもらえますか?」


 ユピテルは兵士に銅貨五枚ほどをそれぞれに渡していた


「お。そうかい、では奥さんによろしくな」

「ダメじゃないか、ポルクシア。お父さんを困らせないでくれよ」


 私は絶望を感じた。

 警備隊は私の味方ではなかった。

 賄賂で簡単にユピテルの嘘を本当の事だとしてしまったのだ。

 私は母親の物を盗み出した悪い子供という認識にされてしまった。

 このままユピテルに家に連れて帰られたら……地獄だ。

 それにユピテルにブローチを奪われてしまうと、スピカにブローチを返してあげられなくなる。


 だが警備隊のマーロとフーガはユピテルの嘘を全面的に信じ、私を彼に渡してしまった。

 絶望だ……もう私には助けを求める事は出来ない。

 ユピテルは私の手を引っ張り、家に連れて帰ろうとしている。

 誰か……助けて。


 私はその場にうずくまり、大声で泣き出した。


「う゛あああーーん! 誰かああああぁあぁあぁぁぁぁ! 助けてぇえええ!」


 私の声は夜遅い貧民街の通りに響いた。


「黙れ、メスガキッ! お前はオレの性奴隷になってればいいんだよ!!」

「いやだあああ、たすけてええ、だれかああああ!!」


 私は誰も見ていない夜の通りで、薄い寝間着を破られて押し倒された。


「へへへっ、こんな貧民街で誰もたすけなんてこねえよ。外でヤるのも久々だな!」

「イヤ、嫌だあああ!」


 私は涙と鼻水とで顔をぐしゃぐしゃにして大泣きしていた。


「黙ってれば気持ちよくしてやるよ、オレ無しには生きれない身体にしてやるぜ」


 もう駄目だ……前の人生で他人を踏みにじった罰がこれなのか。

 私は二度目の人生を諦めた。


「そうそう、抵抗しなければ最初だけはやさしくしてやるぜ」

「……」


 その時、ユピテルめがけて石が飛んできた。


 ガッ!


「痛ぇな! 誰だ!?」


 そして次に飛んできたのはパンの伸ばし棒だった。


「ぐへぇ!」

「……テメェ、オレたちの可愛い娘になにをしやがる!」

「なんだと!?」


 今は夜更けだ。

 だが私達の周りには、貧民街の多くの人が寝間着姿のまま集まっていた。

 みんな思い思いの武器を持っている。

 全員がユピテルを物凄い形相で睨みつけていた。


「俺たちの太陽を……許さん!」

「この子をいじめるとアタイが容赦しないよ!」

「出ていけ、出て行かないとお前を殺す」

「のう……引退した身とはいえ、儂は100人殺しの傭兵よ、お前くらい今でも切り刻めるわい」


 なんと……私を助けてくれたのは、貧民街でいつも私が挨拶をしていた人達だった。

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