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第46話 秘境探索

「ここが蒼炎湖か。昼間だから単なる大きな湖だな」


 今現在、真也は天音を連れて王都から乗り物で通常三日はかかる距離にある、琵琶湖程度の大きさの湖に来ている。


「綺麗ですね、お師匠様」


 天音は湖を指差してはしゃいでいる。残念ながら遊びに来た訳ではないので、真也は頭を撫でるだけだ。今回の目的はこの湖の名前を持つ巨大な貝の魔物、蒼炎貝である。


 話は数日前に遡る。





「今日もお疲れさん。何も問題は無いな? 無ければ解散だ。明日もよろしくな」


「「「「お疲れ様でした」」」」


 ルードの締めの挨拶で店内の人員は解散する。後は帰るだけだ。


「ルードさん、ティリナさん、よろしいですか」


 真也は二人を呼び止めて奥の部屋に移動して打ち合わせに入る。天音と双子は打合せが長くなると悪いので先に帰している。


「何かあったか?」

「何かありましたっけ?」


 二人が同時に首を傾げて同じ事を聞いてきたので、思わず苦笑しながら真也は用件を話す。


「いえ、何も無いから相談しています。そろそろカキ氷の季節も終わりです。そのため次の限定商品を出したいのです。連続で食べ物は何ですから何か良さそうな物は思い浮かぶかと思いまして」


「それもそうだな。……服屋らしく巾着とかの小物をおまけするとかはどうだ?」

「そうですね。……髪留め等はどうでしょう」


 二人ともそれなりに考えていたようで、短い時間で意見が出てきた。


「そうですね、もう少し何かがあると更に良いですね。小物はお客様がこれは欲しいと思える何かがあれば大丈夫そうです。髪留めは女性客にはそれで良いので、対になるような男性客用の品物を考えれば良いでしょう」


 真也の返答に暗くなる二人。限定品と銘打つのならやはり購買意欲をそそるものを作らなければ、単なるおまけになってしまう。真也は特に欠点を指摘しようと思って言った訳では無いが、結果的に限定品としてはまだ足りないと言われたと同じなので、それなりに自信があった二人は落ち込む。


「それもそうだ。限定なんだから欲しいと思えるものじゃなければ駄目だよな……」

「そうですね。男性のお客さまの事も考えないと駄目ですよね……」


 どよーんと言う擬音が聞こえてきそうな二人に真也はまたもや苦笑してしまう。


「方向性は間違っていないので落ち込まないでください。ちなみに私が考えたのは飾りボタンのような服に使える装飾品です。細工しなくても映える形なら使う素材で勝負できます」


 真也の提案に二人は即座に復活し、検討をする。


「ふむ、なるほど。それなら使う素材を吟味すれば確かに限定品になるな」

「そうですね。加工も簡単なものならうちで出来ますし」


 大丈夫そうだと真也はほっとする。服飾は専門家ではないから分からない事が多いのだ。


「細工となると難しいので、素材を単に丸く削るだけが無難と思うのですが、どうでしょうか。それ以外の台座などは素材に合わせてその時に考えましょう」


「そうだな、外に出さないならそれしかないな。そうなるとやっぱり良い物を使う必要があるな」


 ルードは腕組みをして考える。ちなみに外注しない理由は店の限定品だからである。外注して横流しされると確実に笑い者になる。信用は大事だが、必ず守る保障は無いので自分で作れる物の方が無難なのだ。


「王都近隣であれば私が素材を調達してきます。何かありますか。量が取れるものが良いのですが」


「そうだな、丸加工が映えるものといえば蒼炎貝だろうな。ここから南に乗り物で三日ほどの所にある蒼炎湖に棲む貝だ。光に当たると淡く蒼い炎が立ち上っているように見える特級品だ。王族でも持っていない者がいると言われるくらい採取数量が少ないが、一匹辺りの大きさが二mはあるからそれだけで遊んで暮らせる」


 ルードは一度は扱ってみたいが、現在の店の商品としては高すぎる素材を冗談で提案した。専門の採取者でもかなり苦労して採取している素材だ。ちなみに王族すら持っていないと言うのは比喩表現で、実際は確かに高価だがそれなりに流通している。


 真也は蒼炎貝の情報を呼び出して脳裏で確認する。それによると蒼炎貝は蒼炎湖にのみ生息する二m程の蛤の様な形の二枚貝の魔物だ。主な狩り方は夜に潜って出っ張りにロープを結び吊り上げるか、水生の使役魔を使い運ぶのが主流だ。正面から行くと食われるが、後ろから行けば簡単に捕まえる事が出来る。重さも見た目ほど重くは無いので思っているより簡単に運ぶ事が出来る。


 昼間狩りをしないのは、明るいうちは湖に獰猛な青背烏賊(イカ)が多く徘徊している為で、船を浮かべただけで襲い掛かってくる。それと昼間は内部の水流が激しく渦巻いているのでとても潜る事は出来ない。夜になると嘘のように静まって美しい湖面が現れる。蒼炎貝の採取は専門にしている者以外にも、探索者が今も挑戦している。


 ちなみに蒼炎湖の由来は、月光を受けた湖面から蒼い炎が立ちのぼっているように見えるためである。


「分かりました。では明日にでも狩りに行って来ます。いつも申し訳ありませんが、不在の間はミリルとリシルをお願いします」


「……いや、まあ、うん、分かった。無茶はするなよ」

「沢山取ってきてくださいね」


 ルードはあっさり決めた真也に大丈夫か聞こうとしたが、竜を簡単に狩れる事を思い出したので大丈夫だろうと思い直した。ティリナはそもそも脅威がどれくらいか理解していない。


 こうして真也は天音を連れて蒼炎湖までやって来たのだ。今は野宿した後の朝だ。双子は真也が戻るまでルードの所に泊まっている。






「それにしても特定の人が喜びそうな名称だ。もう少しこう、何とかならなかったのか」


「?」


 真也の呟きに天音は不思議そうに首を傾げている。そんな天音に真也は微笑みながら準備を開始する。といっても周囲を探索して誰もいない事を確認して、今後の移動用に目立たない所に転移用の基点をこっそり設置するだけだ。自宅には既に設置しているので、こうしておけばいつでも来ることが出来る。もちろん設置は森羅が行う。


「主様、基点の設置は終わりました」


「分かった。ありがとう」


 森羅からの準備完了の報告を受けて、真也は後は特にする事は無いなと一応確認を行い、さっそく湖に潜る事にした。


「さて、本来なら問題を出したい所だが、今回は力押しだけだから出せないんだなこれが。天音はどうする? 一緒に来るか?」


「はい! 行きます!」


 元気な返事によしよしと頭を撫でる。


「楓と桜はこの辺で遊んでいなさい。くれぐれも人に見つからないように注意する事。良いね?」


 楓と桜は尻尾を振って了解した事を伝える。真也は頷くと森羅に指示を出して湖に潜り始める。潜り方は簡単で、障壁で空気を逃がさない様に包み込んで岸から底を移動するだけだ。移動は森羅が行うので歩く必要も無い。周囲が見えるように光の玉を障壁上部の水中に作ることも忘れない。ちょっとした水中散歩だ。当然内部の空調制御も行っている。


「ふむ、泥が堆積していると思っていたんだが、予想より底が固いな。だがこれなら視界も悪くならないから楽で良い」


 この理由として、日中の湖の中は水流が激しい事があげられる。上と下の水流が分れていて、上は比較的おとなしいが、下は速い流れが渦巻いている。そして巻き上げられた泥は烏賊イカと貝がせっせと体内に取り込んで固めた後に捨てている。中々変な自然環境と生態だが、真也は学者ではないので気にしていない。


 このように水流によって湖が上下に別れているので上は烏賊イカが、下は貝が支配する世界となっている。しばらく歩いていくと真也達より大きい巨大な烏賊イカが複数近づいてきた。出している光に反応したためだ。


 森羅は慌てることなく口の部分を氷結させた氷の槍で貫いて倒すと、どんどん素材をリュックに収納している。もはや恒例行事なので天音は驚かない。その成長を寂しく思う真也だった。




「……?」


「何かあった?」


 しばらくして、天音が不思議そうに辺りを見渡したので真也は確認する。周囲は今の所、変わった変化は見られない。


「……大丈夫です」


 天音は何か音が聞こえたような気がしたが、真也は気にしていない様なので気のせいだと思う事にした。真也は天音の行動に首を傾げたが、大丈夫なら良いかと探索を続行する。


「主様、深くなるにつれて周囲の魔力量が増加していますので、下の湖の魔物は上より強いと予想されます」


「と言うことは烏賊イカより貝の方が強いのか。まあ、厄介かどうかはあくまで人の基準だから魔物には関係ないか」


 軽く話をしながら更に移動すると、光の屈折率が違う所に到達する。ここからが下の湖である。ちなみに烏賊イカは学習したらしく近寄ってこなくなった。中々賢い。真也は気負うことなく移動していく。


 下の湖はかなりの速度で水が流れている。時々一m程の岩が流れに乗っている所もあり、貝が流通しにくい理由が良く分かった。対策や情報なしに潜ればバラバラになるだけだ。夜はそれなりに緩やかになるが、全く無くなる訳では無いので対策は必要となる。ちなみに専門の採取者の防御手段は代々伝わる魔道具だ。歴代の積み重ねなのでどこにも無い貴重なものだ。もちろんこの情報は秘匿されている。


 真也はそんな苦労も知らないでのんきに貝を採取している。森羅のおかげで位置が簡単に分かり、水流も問題にならない。また来るのが面倒だからと、傍から見れば狩りつくす位の勢いだ。それでも魔物は絶滅する事無く、間をおけば元の通りに存在しているのだから、本当に不思議な生態である。


 天音は下の湖に入ってから何かが頭の中に聞こえていたので辺りを見回していた。するとこちらではないかと思われる方向に建物らしきものを発見した。辺りは濁りが無く、明るい光源があるのでかなりの距離を見通す事が出来る。


「お師匠様、あそこに建物があります」


 天音の指す方向を見ると、確かに町の様な石組みがあった。真也は天音を褒めると当然調べる事にする。


「森羅、何かあれに関して情報はある?」


「お待ちください……。資料には噂ですが湖底の町に入ると二度と帰って来れないと言う記述があります。それと伝承になりますが、昔は湖の場所に町があったが、一夜でその場所に湖が現れ町が消え去ったとの記述もあります。これらが事実の場合、過去に何らかの大規模な異変があって湖底に沈んだと推測できます」


「……不吉な情報だな。一応気をつけて調査しよう」


 森羅の情報から、もしかしたら強い魔物でも潜んでいるのかと思い、警戒はしておく事にした。と言っても水中では全部森羅頼みなので、精々状況判断をきちんとしようと思うくらいだ。


 天音は建物に近づくにつれて徐々に音が大きくなっているのが分かった。何かを言っている様に聞こえるが、何と言っているのか聞き取る事は出来ない。ただ、良くない事であることは何となく分かった。懸命に聞き取ろうとしていたその時、強烈に悪い予感が天音を襲った。


「お師匠様、戻りましょう!」


 天音の尋常では無い様子に驚いた真也は町に入る手前で停止する。


「ん? どうかした……な」


 停止した時点で突如町から黒い靄が湧き出し、真也達に向かってかなりの速さで進んでくる。真也にはその靄が自分達を認識して襲い掛かって来たように見えた。


「森羅、全速離脱! 構わん、吹き飛ばせ!」


「了解」


 真也は離脱と攻撃を指示し、天音を抱き上げる。森羅は水流を操作して急上昇を行いつつ、靄に対して強烈な水の流れを叩きつける。町の一部が吹き飛んで水が濁ったが、黒い靄は何事も無かったかのように真也達を追いかけてくる。その移動速度は真也達より速い。


 天音は頭の中に響く声に懸命に耐えている。大きく響いているが内容は聞き取る事が出来ない。既に靄は障壁に取り付く寸前まで近づいている。靄の速度にこのままでは追いつかれると判断した真也は緊急脱出を決め、即座に指示を出した。


「森羅、転移!」


 次の瞬間、視界が切り替わり真也はしりもちをつく。辺りを見渡すと王都の自宅の庭だった。真也は周囲を見渡して異常が無い事を確認し、楓と桜もいる事が分かるとほっと息を吐いた。天音は眉をしかめて真也に抱かれたまま気絶している。


 真也は天音を抱えて家に入ると布団に寝かせて楓達に番を頼み、自分は隣に大の字に寝転がった。森羅はその間に天音を診察している。しばらくじっとしていたが、身体を起こすと逃げるためにかなり無茶をさせてしまった森羅に異常が無いか確認する。


「森羅、大丈夫か?」


「はい、機能に不備はありません。前回と違い、予め基点を設定していたので負荷は微々たるものです。今回は緊急と言う事で特定空間の入替を行いました。あえて言えば楓達を遠距離転移させた為、余分に魔力を消費しただけです」


 森羅のいつも通りの返答に真也は安堵した。もし森羅に何かあれば、それはもう大変な事になる。安心したところで天音の様子を尋ねる。


「天音は大丈夫かな」


「はい。特に問題はありません。おそらく初めて大きな精神負荷を受けた事で急激に消耗したのだと思います。現在順調に回復していますので、明日の朝には目を覚まします」


 その報告に胸を撫で下ろし、ほっと息を吐く。とりあえず現状は問題無いと言う事なので、とりあえずこの事は置いておき、先程の出来事の考察に移る。


「それで、あれが何か分かったか? 魔物とは思えないんだが」


 森羅はその問い掛けに首を少し傾げて答える。


「逃げる方に意識を向けていたので確かな事は分かりませんが、とりあえず非実体の存在である事は確かです。実体があれば行った攻撃に全く影響を受けないという事はありえません。推測ですが思念体のような存在と思われます」


「思念体……。付喪神や幽霊みたいなものか?」


「はい。町の様な場所から出てきたので幽霊ならば地縛霊が一番近いのではないかと思います」


 真也はため息をついた。そういうのは苦手なのだ。


「それにしても隠蔽障壁を張っていたのにどうしてこちらを感知出来たんだろう? 魔物達は気が付いていなかったのにな」


 そう言いながら、真也は最初の失敗を思い出す。音を消し忘れていたので角兎が真也に突進してきた魔物との遭遇第一弾のあれだ。


「隠蔽障壁と言ってもあくまで魔法であり、景色など外部と内部の繋がりがある以上、僅かですが魔力等が外に漏れ出します。完全に遮断すれば別ですが、これはどうしようもありません。推測になりますが、その漏れ出た僅かな魔力や生命反応を示す何かを感知したのではないでしょうか」


 確かにどうしようもないと真也は後で考える事にして次の検討に移る。


「魔物では無いなら、どうして俺達に向かってきたのか分かる?」


「噂から推測しますと、沈んだ町に入れば区別無く襲い掛かるようです。今回は入る前に襲い掛かってきましたが、これは天音が事前に何か反応していましたので何らかの関連があるのではないかと思います」


 真也は天音を見つめる。先程まで苦しそうだったが、今は普通の寝顔に戻っている。その様子に安堵しながら頭を優しく撫でる。


「今まで何にも特別な反応をしていないから霊能力のような力を持っていると仮定するより、相手との関連を疑った方が可能性は高いか。……天音関連と大規模異変から導かれるのは封鎖領域くらいしか思いつかない。他にあるかな?」


 真也は他にも無いか考えたが、どうにも頭がうまく働かない。自分で肩を揉む真也を見て、森羅は後ろに回って真也の肩を叩きながら会話を続ける。


「後は『あれ』にとって天音がおいしそうだった、反応した者だから取り込もうとした、程度でしょうか。町に入る前に襲われましたし、その後もかなりの速度で追いかけてきました。天音が活性化の原因となったのは確実でしょう」


「今は推測しか出来ないか。森羅、あれが思念体の場合、対抗手段はある?」


 森羅を設定したのは真也だから霊に対する対抗手段を完備している事はもちろん知っている。ただ、この世界に来て初めて感じた脅威に確かめなければ安心出来ないのだ。


「はい、大丈夫です。幽霊や呪いの様な存在なら【浄化】で、単なる思念の場合は【精神】の魔法で対処出来ます。最終手段として直接存在情報を解体する【消滅】を使えば問題ありません。ただ全ての魔力を消費しますので、その後に私の機能が全て停止して無防備になります。再起動には三時間ほどかかる予定です」


 その返事に安心してほっと息をはいた。


「大丈夫なら良いんだ。【消滅】は禁じ手にしよう。使わなくてはならない状況で、三時間も放置されたら生きていられるとは思えないしね」


 我ながら威力だけで使い勝手の悪い魔法を考えたものだと頬を掻きながら苦笑し、次の事を考える。


「そういえば思わず逃げ出したけれど、あれの侵入は【障壁】で防げるのか?」


「はい、【障壁】は存在するあらゆるものを遮断出来ます」


 真也はそれを聞くと自分の臆病な心がおかしくなった。


「なら逃げたのは取り越し苦労だったか。調査すれば良かったな」


「いいえ、今回は逃げて正解だと思います。侵入はされませんが、取り込まれてしまうと身動き出来なくなります。それに天音の事もありました。長時間あの場に留まった場合、悪影響が必ず出ていたはずです」


 真也はそれもそうだと頷いて天音を見つめる。あの短時間で気絶するほどの何かを受けたのだから、影響が無い訳が無い。


「とりあえずあそこに行くのは禁止だな。不確定要素が大きすぎる。貝も十分取ってきたからもう行かなくても大丈夫だろう。後は調査か。……森羅、前にルードさんが言っていた忌み子の捨て場所は分かるか? この近くでは無いと思うが」


 真也は湖の靄と忌み子の関係を調べるために、手近な所を調べる事にする。死の呪いとか物騒な噂があるから丁度良いと考えたのだ。これで類似が見られれば対策も明確に立てる事が出来る。


「はい、街の噂話から丁度ここから反対側の住宅街にある事が分かっています。孤児院の近隣と言う事でしたので図書館にあった記録と【探索】で得た地図でそれらしい建物がある場所は分かります」


「流石だな、ありがとう。肩ももう良いよ、大分楽になった。では明日はそこに行って調べてこよう」


 真也は言われなくても情報を収集している森羅を褒める。そして原因をいくらかでも明らかにするために、そこを調べる事に決めた。やる事が決まったので真也も休む事にする。まだ昼前だがとても疲れたような気がするからだ。


「しかしまあ、何だか色々あって疲れたな。少し眠るか。森羅、後は任せて大丈夫?」


「はい、大丈夫です。後の事はお任せください」


「分かった。ありがとう」


 いつも天音は真也の横に侵入してくるので今回は最初から一緒に眠る。目が覚めた時に一緒に居れば安心すると思ったのだ。天音を横に置いて布団に入ると、天音がいつもの様に抱きついてきた。真也は反対の手で天音を撫でると目を閉じて眠りについた。







「やはり天音が朝まで起きないとなると、主様は心配しますよね?」


 残った森羅は首を傾げながら楓と桜に問いかける。楓と桜は尻尾を振って森羅の問いを肯定する。一年以上一緒に居るので主がどのように考えるかは簡単に分かる。それを見て森羅は頷くと、顔の前でポフリと手を合わせる。


「となると、やはり主様も朝まで眠ってもらいましょう。疲れていた様ですし、それが一番良いですね」


 朝になれば解決する事で心配させる必要は無いと判断した森羅は、真也を強制的に明日の朝まで眠らせる事をあっさりと決定した。後の事を任せられたのだから、森羅にとっては当然の選択である。楓と桜も反対しない。どちらも尻尾を振って賛成している。平和が一番と良く分かっているからだ。決して慌てふためく主の相手をするのが面倒だからではない。そんな訳で、真也と天音は仲良く次の日の朝まで眠る事になった。





 朝に真也が起きた時、ほぼ丸一日寝ていた事に首を傾げていたが、それだけ疲れていたんだなと自分で結論を出して勝手に納得している。森羅はもちろん何も言わなかった。


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