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8.朝ごはん

 独特な香りの料理が運ばれてくる。お婆さんが用意してくれたのは肉を煮込んだスープだった。

 野菜の代わりに細かくされた葉や茎が入ってる。香りの元はスープに浮かんでいる香草だろう。

 そう言えば昨日、薬膳煮とか言っていたが、この料理がそうなのかな? 匂いは独特だが、見た目は悪くない。


 アリサがスープをよそった木皿を俺の前に置いてくれた。


「林太郎さんどうぞ。お婆ちゃん特製の薬膳煮です。体にいいんですよ」


 ニコニコ顔のアリサ。隣に座っているリユの顔を覗き見ると、頬を膨らませている。

 相当嫌そうな顔だ。リユ、拙いって言ってたな……。


「ううぅ、ううう……。リユ、これ嫌い……」


 そんなにか!?


「リユ、体にいいのよ? しっかり食べないと」

「お、おにくは食べるけど、葉っぱはいや!」


 あー、そう言えば俺も小さい頃は野菜が大っ嫌いだったなぁ……。

 リユを見て子供の頃の自分を思い出す。


「あの。頂いても?」

「ええ、どうぞ」


 お婆さんに勧められて一口啜る。


 うん、あっさり塩味で普通に美味い。肉に香草を乗せて一口でパクリ。肉は臭みがなくて柔らかい。香草はどちらかというと三葉に近い味だ。

 ちょっとした苦みがいいアクセントになっているが、確かに子供のリユにはちょっときつい味かもな。大人になればわかるようになるだろう。


 お袋の味ならぬ、お婆ちゃんの味――。


「美味しいです」

「ですよね!」


 お婆さんの料理を褒められて、アリサもニコニコ顔だった。

 相変わらず隣でリユは「ううぅ……」と唸っている。


 どれ、ここは大人の対応をしますか。


「リユ、料理はしたことある?」

「わふ? ある! お婆ちゃんと一緒にお肉焼いたことあるよ!」

「じゃーさ、リユが頑張って作った料理を食べたくないなんて言われたら、リユはどんな気持ちになる?」

「うぅ……かなしい」

「なら、この料理を作ってくれたお婆ちゃんもリユに要らないって言われたら、お婆ちゃんも悲しい気持ちになると思うよ?」


 リユはお婆ちゃんの顔を見ると、自ずと手を動かし料理を全部食べ終えた。

 ちょっと涙目になっている。俺は無言でリユの頭をポンポンと撫でた。


 頑張って食べたご褒美をあげないとな――。


「リユ? 俺が住んでいたところではご飯の後にはデザートを食べる習慣があるんだ」

「デザート?」

「ああ。昨日の甘い食べ物のことだな。この後、またホットケーキをつくってあげるよ。それに、お姉ちゃんにも食べさせるって約束したもんな」


 涙目だったリユが途端に笑顔になる。


「わふー! やたー!」


 大喜びをするリユの姿に、お婆さんは何も言わずに嬉しそうにスープを啜っている。アリサは「ぽ~」っとこちらを見ていた。


「アリサ?」

「え、あ、ひゃい!? お、おおおお美味しいねお婆ちゃん」


 体調が良くなったアリサはモクモクと食べている。うんうん、食べれるってことは良いことだ。


 俺は釜戸を借りてホットケーキを作っていく。昨日作成した調理場でもいいのだが、折角なのでリユ家の台所で調理した。

 こうして見るとなんかリユ家の家族になった気分になるな。


 足元には左右に体を振るリユがいた。待ちきれないといった風に尻尾もフリフリしながらわふわふ言ってる。できたホットケーキを3人分テーブルの上に並べる。自分の分はない。流石に朝っぱらから甘いものは入らない。


「わぁ、凄く香ばしいくて甘い香りです。た、食べていいんですか?」

「わふー! これ凄く甘くておいしいんだよお姉ちゃんっ」


 「召し上がれ」と手を差す。焼きたてが一番うまいんだよな。


 蜂蜜たっぷりのホットケーキにフォークを差し、口に含んだアリサがふにゃり顔になる。お婆さんも驚いた顔だ。


「凄いフワフワです! 行商人さんが売ってくれるお菓子も美味しかったけど、こんなフワフワなの初めて」


 ほー、月一で来るという行商人はお菓子も売ってるんだ。ちょっと詳しく聞いてみようかな。


「そう言えばその行商って、どんなの売ってるの?」

「んーと、そうですね。生活用品から嗜好品、また武器等持ってきますよ? あと、魔物の素材や薬剤品とか買ってくれるんです。そのお陰で私たちもお金を稼げるんです。その稼いだお金で必要なものを買ってます。といっても、お婆ちゃんやライ姉さんとミリィ姉さんのお陰なんですけどね」


 アリサは苦笑する。


「ダリアさんには感謝しかないねぇ。私らのような村の者にも生活物資をわざわざ売りに来てくれる。他の種族の村にも商売しに行ってるとも言っていたねぇ。

 自給自足では生きるのに限界があるの。ほんにありがたいことよ?」


 改めて俺は窓の外を見渡す。確かにこの村には雑貨屋などの店はない。狩りに使う武器、衣服、調理機材、調味料などはその行商人から買って生活を維持しているのだろう。

 

 お世辞にもこの村の生活は裕福とは言えない。かといって貧しいわけではないようだが、ギリギリと言ったところか。


 お婆さんがこの子たちの未来を心配する気持ちがわかる。


 『強く生きていく』――。


 この世界では自給自足が難しいのでないのだろうか。魔物とかいるっていうし。もし、ライやミリィに何かあったらアリサたちの生活はどうなる?


 その先を考えた時、背筋がぞっとした。


 美味しそうにホットケーキを頬張るリユをみる。


「うまいか?」

「わふ!」


 眩しいほどの笑顔を見せるリユ。そんなリユを見て微笑むアリサ――。


 そんな二人の姿を見て俺は――。

 俺がやるべきことは――。


 と、いきなり家のドアが勢いよく開いた。


「おはよー!! なんか凄く甘い香りがするぞ!」


 そこにはライが仁王立ちで立っていた。昨日と同じ狩りの武器を背中に装備している。これから狩りにいくのかな?

 そう思っていると、ライの後ろからミリィが現れた。


「ライ、貴方ね。いきなり人様のドアをいきなり開けるんじゃなわよ。まったく。皆ごめんね」

「だってよ、婆ちゃん家から甘い匂いがするんだぜ?」

「だぜ?って……はぁ」


 ミリィが呆れたため息を吐く。この子たちにとって甘いお菓子は貴重なのかもしれない。


 月一でしか買い物ができないんじゃ、お菓子を買っても直ぐになくなりそうだし。


「ライ姉ちゃん、ミリィ姉ちゃん! これ、リンタローが作ってくれたの! おいしいよ!」

「マジか!」


 ライが凄い勢いで首を振り俺を見つめてきた。『食いたい!』という物凄い意志を感じる。


「ラ、ライさん達も食べてく?」

「いいのか! お前やっぱ良い奴だな! あ、それとあたいらの事は呼び捨てで構わないぞ」

「ちょっ、ライ――」

「ミリィは食いたくねぇのかよ? こんなにいい匂いさせてるのに? 折角あたいらにも食わせてくれるって言ってるのに? ミリィも甘いもの好きなのに?」

「ぐっ……た、食べたいわよ……」


 顔を俯きながら顔を真っ赤にし、自分の気持ちを吐露するミリィ。


 ライは自由奔放で、ミリィは周りに気を遣うタイプか。

 俺は苦笑しながら2人の分を追加で作りテーブルに置くと、ライとミリィは美味しそうに食べていた。


 ライは豪快に食い、ミリィはゆっくりと味わって食べている。


「うまうま!」

「んっ……お、おいしい……」


 その反応は三者三様だ。


「もぐもぐ、っく、……――ごくん。なな、林太郎。お礼といちゃなんだが、今日はお前に獲物を多く獲ってきてやんよ」

「狩りか。ちょっと興味があるな」

「お、なんだ? 一緒にくるか?」

「ちょっと、ライ。魔物もいるんだから安易に言うんじゃないの」


 やっぱり狩りの途中に魔物との遭遇があるのか。どの身と遅かれ早かれ、魔物と遭遇するのは避けて通れない。

 なら、ベテランの狩人と一緒にいた方が安全性が高まるし、経験にもなるからできれば同行したい。


「ミリィ、だめか?」

「っぐ、わ、わかったわよ。ご馳走になった手前断るのもアレだし……」


 なんか小声でゴニョゴニョ言ってるが、一応OKを貰えた。


「あ、そうだ。お婆さんと話したんだが、暫くこの村に住むことになったから。色々と準備したいから、狩りは今度連れていってくれ」

「え! 林太郎さんこの村に住むんですか!?」


 アリサがテーブルから身を乗り出す。


「あ、ああ。だから、宜しく頼む」

「わふー! リユも嬉しー!」


 なんか凄い歓迎されいる。


 お婆さんは相変わらずほっこり顔だし。


「お、そうなのか? なら、今度狩りに行こうな。ま、今日はアリサがお前と一緒に居たいみたいだしなって、――いだだだだだ、ちょ、ミリィ耳引っ張んなよ!?」

「はいはい、狩りに行くわよライ。――ったく。ま、どこの馬の骨だかは知らないけど、アリサの病気を治してくれたのは事実だし、悪い奴じゃなさそうだし、いいんじゃない? それと、美味しかったわ。ご馳走様」


 ミリィはそう言うと手をヒラヒラさせ、ライの耳を引っ張りながら出ていった。家の外からライの非難の声が聞こえてくる。


 あいつら仲いいんだな。


「リンタロー、今日は何するのー?」


 リユが顔を覗きこんでくる。


「ん? そうだなー」


 俺は『管理ツールアプリ』を開きながら、今日の予定を考えた――。


 

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