7.寝起き ★
6話に挿絵追加 2023.11.11
アリサの病気が治った日から次の日――。
行く当てのない俺はリユの家に泊まらせてもらっていた。最初は女性だけの家に泊まるのはどうかと思ったが、「貴方はアリサの恩人よ。遠慮しないで」とお婆さんに引き留められたのだ。
アリサの方を見ると照れながらモジモジし、リユに至ってはワイシャツを握って「リンタロー、行っちゃうの?」と寂しそうな顔。
しばらく考え、お言葉に甘えることにした。
早朝、目が覚めるとお婆さんは釜戸で湯を沸かしているところだった。
離れた場所ではアリサとリユが仲良く同じベットで寝ている。昨日の夜「お姉ちゃんと一緒に寝るー!」ってリユがはしゃいでいたっけ。
寝ている2人のモフモフの耳が、時折ピクピクしている姿が可愛い。
「あら、林太郎さん起きた?」
お婆さんが振り向く。
「おはようございます」
「よく寝れた? 白湯ありますけど飲む?」
「あ、頂きます」
椅子に座り白湯をいただく。朝ごはんの支度を終えたお婆さんもテーブルに着いた。
リユ達が起きるまで、お婆さんから話を聞く。
お婆さんの話だと、この村には家が3軒しかない。一つはリユ達の家、残り2軒はライとミリィの家らしい。てっきり、リユ達が2人の事をお姉ちゃんと呼んでいたから姉妹かと思ったが、どうやら違うようだ。
仲睦まじい姿に勝手に姉妹と思い込んでいた。
ライたちも火の国から逃げてきたみたいで、先にライの家族が。次にミリィの家族が逃げてきて、最後にリユ達の家族が移住してきたそうだ。
元々廃屋だったらしいが、住めるようになるまで大変だったらしい。
ライの父親とミリィの兄が居たらしいのだが2年前に狩りの途中で魔物に襲われて亡くなり、今ではライたちが狩りをしている。
「あの子たちには助けられてばかりでね。良い子たちなのよ」
うん、わかる。リユとアリサが慕っているんだ。面倒見のいいお姉さんなんだろう。
「アリサも病に伏せる前は家庭的でね、よく家事を手伝ってくれたわ」
うん、わかる。物腰の柔らかい雰囲気からして、優しい子なんだろう。
「リユはやんちゃだけど、気の利く子よ」
うんうん、わかるわかる。アリサの為に気を配っている。ここの人たちは良い人たちだ。
俺がうんうん頷いていると、お婆さんが一拍置いて姿勢を正す。
「林太郎さん、この村に住み着く気はない? 貴方も行く場所がないなら、どうかしら?」
うんうん、俺は住む場所もないし――、うん?
お婆さんの提案に面食らう。
異世界に転移した身としては、このチートスキルを駆使して色んな国に回ってみたいと思っていたんだよな。
どうしようか考えていたら、お婆さんが口を開く。
「私も歳でね、そろそろお迎えが来てもおかしくはないの」
窓から差し込む朝日がお婆さんの皺くちゃになった手を照らす。
塵埃が光によってキラキラと反射している。
人生の重みを感じさせる手だ――。
「林太郎さんが居てくれたら、あの子達もきっと強く生きていけるわ」
ああ、そうか――。
お婆さんはリユ達の事が心配なんだな。
強く生きていけるように……か。
「えっと……」
言葉を選びながら答える。
「そう言ってもらえるのは嬉しいです。ただ、ずっと居られるかわからないですけど……」
折角できた縁だし――。
リユ達の為に何かしてあげるのも良いのかもしれないな――。
「暫くの間、お世話になろうと思います」
「――そう、宜しくね」
お婆さんは優しく微笑んだ。
「林太郎さん、お話を聞いてくれてありがとうね。さてと、アリサたちを起こしましょうか。朝ごはんにしましょう」
お婆さんはゆっくりとベットに歩み、優しくアリサとリユを揺り起こす。
「わふ……お婆ちゃんおはよう……。ふぁ~……ふぁ!? り、林太郎さん!? そ、そうだった! 林太郎さんもいるんだった!」
アリサは「あわわわわ!」と言いながら寝癖を手櫛で梳き始めた。
「お、おはようございます。林太郎さん……」
俯きながら照れた表情をするアリサに「おはよう」と返す。
「リユ、リユちゃん、そろそろ起きて。朝ごはんよ?」
「わぅ~……わぅ~……すぅ……すぅ……」
中々起きないリユ。困ったお婆さんは「しょうがない子ねぇ」と言いながら釜戸へと戻っていった。
「ふふ、リユは朝が弱いんです。いつもご飯の匂いで起きてますから」
「あー、何となくわかる気がする」
焼き魚の匂いにつられて俺の所に寄って来たくらいだからな。
俺はリユの頬をぷにぷにと突く。しかしリユは起きる気配がなく、「わぅわぅ」唸ってる。
「わう~……おにく~……がぶりっ」
「ぐあああああ!」
噛まれた。
「り、林太郎さん!!」
「わふ? りんふぁろー?」
起きたリユは寝ぼけた顔で俺の指をあむあむと齧ってくる。
「まじゅい……」
解放された指には歯形がついてちょっと血が滲んでいた。
うう、頬をつつくんじゃなかった。
目をごしごしと擦るリユに「おはよう、リユ」と朝の挨拶をすると、寝ぼけた声が返ってきた。
「おあよー、リユおしっこ」
リユはベットから降りるとフラフラと外へと出ていった。
「り、林太郎さん。大丈夫ですか? その、リユがすみません。指、見せてください」
「大丈夫大丈夫」
寝ている人間に悪戯するもんじゃないね。
アリサは俺の右手を両手で包み、顔の高さまで上げて傷の具合を見てくれた。
「大丈夫だよ。まぁ、ちょっとまだジンジンするけど」
「しょ、消毒します。ぱくっ――」
いい!? え、ちょっ! マ!?
リユに噛まれた指を今度はアリサが口に咥えた。
「……んっ、……ちゅ」
アリサの舌の感触が指に伝わってくる。
ドキドキしながらアリサの顔を見ると顔を真っ赤にしている。
血を舐め取った後、アリサはベットから降りて沢山の草が入っている籠から数枚の葉を千切ると、俺の指に巻いてくれた。
「や、薬草を巻いておきました。直ぐに治ると思います」
「あ、ありがとう」
お互い気恥ずかしくて顔をそらしてしまう。
「あらあら、まあまあまあ」
釜戸の前でほっこり顔のお婆さん。
「すっきりしたー! あれ? お姉ちゃんとリンタローどしたのー? 顔真っ赤だよ?」
戻ってきたリユが首を傾げた。
「な、ななななんでもないよリユ? お、お婆ちゃんお手伝いするね」
アリサがそそくさとお婆さんの元へと寄っていく。
「わふ? 変なお姉ちゃん」
俺とリユはご飯ができるまで椅子に座って待っていた――。




