5.美味しいもの ★
家の裏手に空きスペースがあるとのことでリユとやってきた。お婆さんは家の中でお姉ちゃんを看るために残っている。
リユはどんな料理を作るのか見て見たいとのことで着いてきていた。
「リンタロー、ここで料理するの? 釜戸は家の中だよ?」
「場所取るからな。ここで料理するぞー」
「また焚火かなー?」
「焚火よりもっと便利なものだよ」
俺はゲーム『料理対決 ザ・ワールド』から何種類もある調理台の中から目当ての物を取り出す。
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アイテム名:石窯付きシステムキッチン(異世界仕様)
ランク :『 N 』
説明 :
オーブン付きの火力コンロ。石窯の上に魔法のコンロが2つあり、火の精霊の加護により料理人の意思によって火力調整ができる。
調理台とシンクは黒の大理石でできており、蛇口の水は水の精霊の加護により流し放題。
排水処理は魔法陣により、どこかの火山マグマに排出される。
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おおぉう……。異世界仕様……。『管理ツールアプリ』ぱねぇっす!
よし、これを屋外に設置して、ゲーム『マイクラフト』のアイテムでまた屋型天井の建物を作る。
流石に四方に壁がないのはどうかと思い、腰壁を柱にくっ付けていく。なんか屋台のお店みたいな感じになったな。
ある程度設備を準備しているうちに夕日が沈み、辺りが暗くなってきたので屋型の隅と調理台の上に壁用の燭台を設置する。
優しい燭台の火が辺りを照らし、いい雰囲気を醸し出していた。
「お、おー……。行商屋さんのお店みたい……。かっくいー!」
そう言えば行商人が月一で訪れているって言ってたな。……ふむ、運び屋。キャラバンか。
このスキルのアイテムを売り物にして、異世界で移動販売とか楽しそうだな。近未来武器は売りたくないけど、ファンタジー系の魔剣とか付加武器とか高く売れそう。
まぁ、売るとしても当たり障りのないものになりそうだけど。
「へい、お嬢ちゃんいらっしゃい! 今日のおすすめ商品はこれだ!」
準備で待たせるのも可愛そうなので、ゲーム『アプリ』の『町の駄菓子屋さん』を起動。アイテム商品である『ペロペロキャンディ』を取り出す。
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アイテム名:ペロペロキャンディ(イチゴ味)
ランク :『 N 』
説明 :
1ペロでMPが1回復する。
中々溶けないので食べきるのに噛み砕かない限り1週間はかかる。
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これは昔懐かしい駄菓子屋さんの経営者になって、販売するというフリーゲームだ。中々に懐かしい気持ちにさせてくれるのだが、ちょこちょこ挟み込まれる広告が大変うざいのである。
「わふー! ぱくっ……。 あまーい! リンタローこれ甘いよ!」
「そうだろう、そうだろ。それ食べてちょっとまっててな」
しっぽをフリフリさせてキャンディを食べている間に俺は、材料を具現化させていく。
作るご飯は病み上がりの胃に優しい『雑炊』だ。ただし、只の雑炊じゃないぞ。海鮮をふんだんに使った雑炊だ。
漁師飯で海鮮物を使った『いちご煮』に似せた海鮮スープにご飯をいれてひと煮立ちさせる。テレビで見て一度は作ってみたいって思ってたんだ。
只悲しいかな、海鮮物って高いんだよな。だけど、この『アプリ』があればお金を気にしなくて料理ができるのが素晴らしい!
よし、必要な材料は用意したぞ。
まず先に米をといて、土鍋で米を炊く。
その間に昆布で沸騰の手前まで出汁を取って、かつお節入れて出汁を取ったスープに海老、アワビ、ホタテ、シイタケをぶっこむ。少し煮たたせて味を確かめる。うん、うまい!
土鍋もいい具合に炊けてきたので火から下げて暫く蒸らしていく。
満足いく味に頷いているとリユが見上げてきた。
「ねー、リンタロー。お姉ちゃん元気になるかな?」
キャンディを食べるのを止め、耳としっぽを下げたリユが見つめてくる。
「リユ、お姉ちゃんと一緒に美味しいもの食べたいから、これ返しゅ。リユがまんする……」
もしかしたら自分だけ美味しいものを食べていることに罪悪感を感じてしまったのだろうか。
だとしたら俺は浅はかなことをしたのかもしれない。こんな小さい子に悲しい気持ちにさせてしまった。
この子は家族思いの子なんだな。
俺はリユの目線の高さまでしゃがみ込み、頭を撫でた。
「大丈夫。お姉ちゃんは絶対に良くなるよ。元気になったお姉ちゃんにも同じのあげるから大丈夫。みんなで同じの食べような」
「……う、うん!」
わしゃわしゃと頭を撫でる。リユが落ち着いたところで料理に戻るか。
さてと、後はスープに米を入れて軽く煮たたせて――。
「おーい! リユ―! 今日の分の獲物を狩ってきたぞー! って、なんだこりゃ!?」
後ろの方から若い女性の声が聞こえてきた。
「あ、ライ姉ちゃん! ミリィ姉ちゃん! おかえりー!」
うわっ! キャンディを持った手を振り回すな! 髪の毛にくっつくぅぅ!
ぶんぶん振り回す手から離れて声のした方へと立ち上がると、若い獣人の女性が2人いた。恰好からして狩人のような服装をしていた。にしても少し露出があってちょっとエッチな感じがする。
勝気な子はショートのポニーテールで、凛々しい顔つきの子はセミロングの髪型。二人とも美人だ。
恐らくリユが言っていた狩人はこの2人の事なのだろう。
だって、右手に血まみれのウサギみたいのを何匹か持ってるんだもん。うっぷ。
「あん? あんた誰だ?」
「男……? いつもの行商人の連れの方かしら? でも商人とは違う変わった服装ね」
なんとなく警戒されている感が否めない。
俺はリユの方へと視線を向ける。
「リンタローだよ。お姉ちゃんの病気を治してくれてるの。あと、ご飯も作ってくれてるの」
「ん-? 王都の医者か?」
「確かに、いいお召し物のようね。生地がしっかりしている」
セミロングの子が近づいてきてスーツに触る。
この子、まつげ長いなーと思っていたら、お婆さんが家から出てきた。
「リンタローさん、アリサが……アリサが起きました! もう、健康的な顔つきになって!」
お婆さん涙目。薬が効いたようで良かった。リユのお姉さんの名前はアリサって言うのか。
本人からは名前を聞いていなかったが、咳き込んでてそれどころじゃなかったからな。
お婆さんの言葉を聞いて、リユは家の中へと駆けだしていった。後を追いかけていくと、リユはベットの上で起き上がったアリサに抱き着いていた。健康的な顔つきになり、リユの頭を優しく撫でている。感動的な場面だった。
「具合はどうですか?」
「あ……。林太郎さん、ありがとうございました。あの薬を飲んで寝て起きたら体の調子が凄く良くなって……。なんてお礼を言ったらいいか」
涙目でほほ笑んでくるアリサ。相当苦しかったのだろう。元気になって良かったと思う。
「アリサ、本当に大丈夫なのか? 起き上がって……」
「はい、ライ姉さん」
「うそ!? 今朝まで具合酷かったのに……」
「もう大丈夫ですよ。ミリィ姉さん。林太郎さんの薬のおかげです」
ライとミリィは互いの顔を見る。そしてお互いに相手の頬を抓った。
「ミリィ! いひゃいいひゃい!」
「ライこひょ! いひゃひゃひゃ! ちゅねるなちゅねるな!
二人の変顔をみてアリサはクスクスと笑っていた――。
リユも元気な姉の姿を見て笑っていた――。
俺は2人の笑顔を見た後、料理の仕上げの為に外に出た――。
――元気になって良かった良かった。




