3.しっぽふりふり ★
お腹いっぱいにまでホットケーキを食べた獣人の子に、俺は飲み物を作ってあげることにした。ゲーム『料理対決 ザ・ワールド』から果物の素材『みかん』を5個具現化し、それを絞って先ほど具現化した『湯呑』に果汁を注ぐ。
ちなみにまだお茶はお湯を沸かしていた途中だったので、まだ未使用だ。なので汚くはない。
「ほれ、みかん果汁の飲み物だ」
獣人の子はおずおずと湯呑を両手で受け取り、ちびちびと飲んでいく。
「甘酸っぱくて……おいしぃ」
こちらに笑顔を振りまいてくる。無邪気な笑顔だった。
「あー、嬢ちゃん。お名前は? 俺の名前は犬屋敷 林太郎だ。林太郎って呼んで構わない」
「リンタロー……。リンタロー……。リンタロー。……うん、覚えた。 えっと、あたしの名前はリユっていうの」
リユは名前を教えてくれた後、湯呑を口につけちびちびと飲む。
「リユか。わかった。よろしくな。ってことで、リユちょっと聞きたいことがあるんだが」
お腹いっぱいになった為か、またはお互い名前を交換して顔見知りとなった為か、リユは警戒心を解いているようだった。
まぁ、こんなところに一人でいたら普通怪しいよな。
飲むのを止めてこちらに振り向く。リユは首を横に傾げて「なに?」と言っているような仕草をする。
「近くに村とか町ってあるかな?」
リユの住んでいる村まで案内してといきなり言って警戒されたら困るしな。無難な言い回しでいこう。
丘の上から遠くへ見える街はかなりの距離があるため、この近くに村などがあればそこで情報収集をしたい。酒場などがあれば尚の事オーケー。
異世界の情報収集と言ったら、やっぱ酒場だよな。輩な冒険者、いや、男はいらんか……むしろ見目麗しい女冒険者、エッチな服装の女冒険者とか綺麗なお姉さんに『一杯奢るんで、少しお話いいですか?』と言ってみたい!
フフフ、異世界ロマンの一つだな。
などと邪な考えをしていたら、リユがきょとんとした顔をしていた。
「リンタロー、風の国の人じゃないの?」
風の国? ああ、もしかしてこの国の名前か。なるほど、ここは風の国ね。オーケー了解。
「うん、まぁ、そうなんだ。遠い国から来たんだ」
「ふーん、じゃーリユと同じだね。リユも赤ん坊の時にこの国に逃げてきたんだって、おばあちゃんとお姉ちゃんが言ってた」
「え? そうなの?」
逃げてきた!? なんか重いぞっ!
「うん、リユも自分の住んでいる村から、遠くに行ったことないから分かんない」
「そ、そうなのか。じゃー、しょうがないなー……ははは」
「あ、でもリユの村なら案内できるよ!」
う……。
善意で言ってくれるリユ。目をキラキラさせられ、そう言われると断りずらい。
「そ、そうか。じゃー、案内してもらうかな……?」
「うん! あ、でも。ちょっと待ってて。あたし、薬草を集めなきゃいけないんだった」
「薬草?」
「うん。お姉ちゃん病気で体弱いから、毎日薬草摘みにきてるの」
リユはそう言うと草むらの中に顔を突っ込んでいった。ガサゴソと草むらが揺れる。
「あった! ほら、こういうの! えへへ」
葉っぱだらけになったリユが「やったね!」と満面の笑みを浮かべていた。
「もっと見つけるぞー」
「俺も手伝うぞ」
草むらに潜るリユをしり目に、俺は薬草を探すふりをして『管理ツールアプリ』を開く。
薬草ならファンタジー系ゲームのアイテムに腐るほどあったはずだ。わざわざ探さなくても俺があげればいいか。
えっと、ゲーム『ユグドラシル』っと……。
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アイテム名:薬草
ランク :『 N 』
説明 :
体力を回復する薬。
回復する量はHP10
病に伏せているときに使っても病は治らない。
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お姉ちゃんの為に薬草採取とか、なんか泣けてくるんですけど。
とりあえず俺はいくつ必要なのか分からないから、手のひらの上に20個ほど具現化させた。結構な量だった。重い……。
未だに草むらの中をガサゴソしているリユに声を掛ける。
「おーい、リユー? 薬草こんだけあれば足りるかー?」
草むらから顔をのぞかせたリユの顔が「わぁ!」とほころんだ。
「リンタロー、すごーい! すごーい!」
ふふん、ちっちゃい子に褒められるのはどうかと思うが、悪い気分ではない。
ぶっちゃけズルしたけど。
「こんだけいっぱいあれば大丈夫。おばぁちゃんに褒められるかもしれない」
リユは草むらの中から木製型の背負いの筒を取り出して、そこに薬草を入れていく。
「そうか。よかったな」
「うん、ありがとうリンタロー。じゃー、約束通り村まで案内するー」
「ああ、よろしく頼む」
「まかせてー」
「よし、じゃー出発!」
「おー!」
俺はリユの後ろについていった――。
尻尾をフリフリと振っているリユの後ろ姿に、ほっこりした気分になりながら――。




