13.和気あいあい ★
突然の魔物の襲撃によって食事の時間を邪魔されてしまったが、ライ達も加わったので追加で人数分の食事を作ることになった。
家に入ろうとしたらライの驚く声が聞こえてきた。
「うえぇぇ!? 立派な家が建ってる!? おいおい、今朝までなかったよな!?」
「ライ姉さん、この家は林太郎さんのお家です。因みに、林太郎さんが建てました」
「リユとお姉ちゃんも一緒に住むよー!」
「はあぁぁ!? 林太郎が建てた!? ってか、一緒に住むってどういうこと!?」
情報に追いついていないのか、ライは混乱している。まぁ、そうなるよな。しかもいきなり同居とか寝耳に水だろうし。
ミリィも驚いていたが、ライほどではなかった。
「アリサの長年の病気をあっさりと治すし、あんな美味しいお菓子も作れるし、仕舞には光の剣でフォレストベアーを倒すし。神様じゃないとできない芸当よね……」
ミリィにジト目で見られる。
う……。やっぱり誤魔化せないよな。仕方がない、正直に話すか。これから暫く住むのに、疑いを持たれたら……な。
「わかった。正直に話す。ただ、その前に昼飯にしよう」
両手をあげて危険じゃないよアピールをすると、ミリィは「ま、いいんだけどね」と付け加えた。
頭から煙が出かかっていたライは昼飯という単語を聞いて復活した。
「よっしゃー! 細かいことは抜きにして林太郎の飯だ! この匂いを嗅いだらお腹ぺこぺこで」
「まぁ、ライの気持ちも分かる気がするわ」
「わかったわかった。直ぐに作るよ」
俺は苦笑しながら家の中へ入ってテキパキと用意していく。と言っても、特製タレと一緒に焼くだけなんだが。フライパンで豚バラ肉を焼いていくと、にんにく醤油に香ばしい匂いが漂う。
「ふぅー! これ絶っ対美味いやつだよな! わくわく」
ライは待ちきれないといった表情でずっとこっちを見ている。その隣ではテーブルに既に用意された料理の前で涎を垂らしているのが一人。
リユだ。尻尾をぶんぶんと振りながら湯気の出ている料理に釘付けだった。正におあずけ状態。
「そう言えば、またこの匂いに誘われて魔物来るんじゃないか?」
「大丈夫だと思うわ。さっきの光の剣を使ってから、この辺一帯の魔物の気配が遠のいているから。きっと生存本能が働いているのでしょうね」
ほー。魔物の勘か? フォトンブラスターが危険だと察知して逃げたのか。
素朴な疑問に答えてくれたミリィはお行儀よく椅子に座っているが、そのお尻にある垂れ下がった尻尾はブンブンと左右に揺れていた。ライとは違って落ち着いている様に見えるが、内心食べたくて仕方がないのだろう。俺は微笑ましくなり「そうか」とだけ返した。
「林太郎さんっ。お野菜切り終わりました!」
「ありがとう。アリサ」
木の皿に丁寧に盛られた野菜の横に、焼きあがったばかりの豚バラ肉を載せて完成だ。
人数分の料理を作り終えてテーブルに着く。
「ふぅー! はやく食べようぜ!」
「ライ? 行儀悪いわよ」
「えへへ、林太郎さんのご飯美味しいから、この料理どんな味か楽しみです」
「わふっ! わふっ!」
「ほらリユ、涎拭き取りましょうね」
皆待ちきれないといった感じで料理を見つめている。ちなみに箸は使ったことがなさそうだったので、代わりにフォークを用意しておいた。
召し上がれと言うと皆はお肉を口の中に含んだ。
皆の尻尾と獣耳がピンと伸びる。
「ふああぁぁぁ! う、うめぇ……。うめぇよー……!」
「……! この味つけ……私凄く好きかも……」
ライは嬉し涙を流し、ミリィは左手で口元を隠しながら目を輝かせる。
「このお肉、脂がのっていて凄く美味しいです……!」
「わふっ! ぱくぱく! もっきゅ、もっきゅっ!」
「これリユ? そんなに口に含んだら駄目よ? 喉につっかえるわよ?」
アリサは笑顔で微笑み、リユに至っては口の中いっぱいに肉を放り込んでいる。お婆さんはそんなリユの口元を拭いてあげていた。
美味しく食べてもらえて、俺の気分もほっこりだ。
「この白いのと一緒に食べると美味いな!」
「本当ね。食べ応えがあるわ。それに濃いお肉の味がちょうどいい塩梅になるわね。この白いのは何かしら?」
二人とも知らないということは、やはりこの世界には米はないのか。ライとミリィは米が余程気に入ったのか、美味しそうに肉と一緒に食べている。
「俺の故郷のお米っていう穀物だよ。主食でおかずと一緒に食べると美味しいんだ」
「へー、あたいらは作物なんてしないからな(もぐもぐ)」
「ちょっとライ、食べながら喋らないでよ」
お行儀のよいミリィはライに注意すると、ライは食べながらゴメンゴメンと手を上げる。
皆よく食べるのでおかわりも作っていく。お腹いっぱいになったのか一息ついたところでミリィが唐突な一言を放ってきた。
「で? アリサ。林太郎と一緒に住むって本当なの?」
「ふえ!? えっと、その……はい」
顔を赤くしてモジモジしだしたアリサの膝の上にリユが乗っかってきた。
「リユがリンタローにお姉ちゃんと一緒に住みたいって言ったのー!」
両手万歳するリユ。その顔は満面の笑顔だ。
「ふーん、リユのお願いか。確かにこんな綺麗な家に一度は住んでみたいよな」
頬杖するライがアリサの方を見る。
「アリサがその服着ているってことは――」
「わーーーー! ライ姉さんストップストップ!」
アリサが両手をブンブン振り回し、ライの言葉を遮った。その様子を見ていたミリィも「ふっ」と笑いながらお茶を飲む。
「ダリアから買った服だっけ? 確か買う時に『素敵な殿方と出会った時に着ます!』とか言ってたわね」
「いやーーーーー! ミリィ姉さんまでーー!」
アリサの顔はもうリンゴのように顔が真っ赤だ。にしても、素敵な殿方……だと。
アリサと目が合う。
「あうぅー……」
照れながら伏し目がちになるアリサ。
まぁ、好意的なのは素直に嬉しい。
「その服、可愛くてアリサに似合っているよ」
お世辞抜きで可愛いと思う。フリフリがついたブラウスのような服に短いふわりとしたスカート。うん、可愛いな。
「あう……」
「婆ちゃん、アリサがダウンしたぞ?」
「了承」
「だよな」
え? 何が!?
このお婆さん、既成事実を作らせようとしてないか!?
くすくす笑うミリィが木のカップを置き、こちらに向いてきた。
「次は林太郎の事を話してくれるのよね?」
「そうだったな」と言うと、ダウンしていたアリサもがばっと起き上がった。
え、そんなに俺の話聞きたいの?
俺は姿勢を正し、事の顛末を離した。この世界とは別の――、魔法のない世界から転移してきたこと。その後にリユと出会ったこと、アリサの病を治したアイテムや、熊の魔物を倒した武器は俺の能力で具現化させたこと。
この力はこの世界に来てから使えるようになったことなど。
話し終えると、リユ以外の皆は口をあんぐりと開けていた。
「ほぇー……。林太郎さん、火の国の出身じゃなかったんですね……。異世界の人だったんですね」
「すまん、信じてもらえないだろうと思って、お婆さんの勘違いに乗っかってたんだ……。その、信じてもらえるか?」
「もちろんですっ! だって、林太郎さんは私の病を治してくれたじゃないですか! それに、魔物から私たちを守ってくれました! 信じますっ!」
「お、おう……」
ふんすっと胸を何故か張るアリスに気をされたのか、ライとミリィが頷く。
「そうね、有り得ないことを起こしているんですもの。私も信じるわ」
「ああ、あんな美味い飯を作れる能力だなんてすげぇよな!」
「あ、いや、飯の材料は能力で出しても、レシピ自体は魔法でもなんでもないぞ? 元の世界じゃ、普通に作ってるからな」
「な、なんだってー! 普段からあんな美味しいご飯を食べているのか……。あたい、林太郎の世界に行きたい」
カルチャーショックを受けているライに、よくわかっていないリユがライの頭を撫でていた。
「ライ姉ちゃんよちよち」
「リユ!?」
「どっちが子供だか分からないわね」
「うっせ。別にいいじゃんかよー」
くすくすと笑うミリィにライが口を尖らせた。
「リユもリンタローのご飯毎日食べたーいっ! だから、あんねっ、皆がリンタローのお嫁さんになれば皆に毎日ご飯つくってくれるはじゅっ!」
「それだ! リユ天才か!」
「ふえ!? り、リユっ!?」
「ふーん、林太郎の嫁ねぇ……」
「了承」
いやいやいや、お婆さん!?
俺がしどろもどろになっていると、ライが笑い出した。
「あっはっはっは、冗談だよ冗談。本気にするなよ? 林太郎ぅ? にしし」
「林太郎には驚かされてばかりだし。これで一矢報いたわね。くすくす」
「へ!? あ、冗談? てっきり、私たちの風習で多重婚するのかと――」
多重婚!?
俺が更に驚いていると、お婆さんが飲んでいたお茶を置いた。
「ほっほっほ、林太郎さん。獣人族の娘は優秀な男に惹かれるの。だから一人の男性に何人ものお嫁さんもいた家族もあったのよ?」
マジか。
「リユおっきくなったら、リンタローのお嫁さんになるー! そんでいっぱいホットケーキ作ってもらうー」
「あっはっはっは、リユは林太郎のご飯が目的か」
「ライ、貴方……人の事言える立場?」
「ぐふっ……」
ミリィの一言がライにクリティカルヒットしたようだ。リユにまた頭を撫でられている。
「結婚はともかく飯なら作ってやるし、レシピも教えるよ? 材料は俺が用意するし」
「あ、はいはい! 林太郎さんのお料理教えてほしいです。お菓子のつくり方も。そしたら、皆に作ってあげられますし。ね、リユ」
「わふっ! お姉ちゃん大好きっ」
「へへ、嬉しいこと言ってくれるじゃねーかアリサ。結婚しよう!」
「ふぇ!?」
「ライ、あんた馬鹿なの?」
皆和気あいあいと楽しそうだ。
皆に作ってあげたいとか、アリサは優しい子だな。
この子たちの生活が豊かになるよう、俺ができる限りのことをしようと改めて思った――。




