10.いい匂い ★
お婆さんの了承を得たアリサは、そそくさと荷物を纏め始めた。
あっという間に準備できたアリサは「ふぅ……よろしくお願いしますね林太郎さん(ニッコリ」と笑みを浮かべていた。
こ、行動が早すぎる……。
呆気に取られているとリユがスーツをくいくいと引っ張ってきた。
「リユも準備できたー!」
その手に持っていたのは木のオモチャだった。
一緒に住むっと言っても子供の考えはこの家と行き来するくらいの感覚なんだろう。
「リユ? お洋服も持って行かなきゃ駄目よ?」
「わかったー!」
ええー!?
アリサに言われてリユも洋服をせっせと纏め始めた。
お婆さんはほっこり顔でうんうん頷いている。
なんか外堀から埋められていく気がしてならないんだが……。
まぁ、いいか――。
準備できたアリサとリユが手を繋いで傍に寄ってきた。
「林太郎さん、よろしくお願いします」
照れながらハニカムその姿が可愛い。
「お、おう。それじゃー、行くか」
「わふー! 新しいお家ー!」
3人で新築の家へと向かう。
相変わらずお婆さんはほっこり顔で見送ってくれた。
◇
建てたログハウスは平屋建だが、屋根が高い分広々とした空間に仕上がっている。
一人で住むつもりだったので個室は2部屋しかない。なので増築しようとしたがアリサは「リユと一緒に寝るので部屋は一つで構いません」と言われた。
アリサ達が荷物を置きに行っている間に、俺は『管理アプリツール』を開き、ウィンドウに表示されている時間を確認するとお昼ご飯の時間帯だった。
折角だし何か作るか。さて、献立は何にしよう? やっぱ、獣人だから肉メインの料理がいいかな? どうせならインパクトのある味付けがいいか。
『料理対決 ザ・ワールド』から料理の材料をチェックしていると、アリサが部屋から出てきた。
「あれ? リユは?」
「えっと、ベットが凄く柔らかかったので寝転んでます……」
苦笑するアリサ。リユの気持ちも分からないでもない。アリサとリユが寝ていたベット、布だったからなぁ。
「そうか。ところでアリサ、食べ物で獣人の種族にとって食べてはいけない物ってある?」
「いえ、特にはありませんけど?」
無いか。なら、俺が良く作っている『豚バラ肉のにんにく醤油焼き』でも作るか。
豚バラ肉のメジャーな飯と言ったら『生姜焼き』が定番だが、俺は生姜ではなくにんにくを使う。
ゲーム『アプリ』から必要な材料を取り出す。『豚バラ肉』・『醤油』・『塩』・『胡椒』・『にんにく』・『鶏がらの素』・『キャベツ』――etc。
調理台の上に材料を並べていると、アリサが覗き込んできた。
「お昼ご飯ですか? そ、それなら私が代わりに作りますっ」
「朝ごはんご馳走になったからな。今度は俺が作るよ。お婆さんの分も作るから、出来たら呼んできてくれ」
「あ、はい! ところで林太郎さん、これはなんですか?」
アリサが瓶詰めに入った調味料をマジマジ見つめていた。俺はその横で米を研ぎ、土鍋をセットする。
「味付けの調味料だよ。そう言えば、今朝食べた料理は塩味だったけど、もしかして味付けって今まで塩のみ?」
「あ、はい。塩の値段は高くて多くは買えないんです。ここは森の奥地ですから。値が張るみたいなんです。それにしても塩以外にも味を調整するものがあったんですね。」
あー、なるほど。運搬費込みってことかな? 危険を冒してまで商売しに来ているんだ。そりゃ値が張るのも当然か。ん? てことは、今日の朝ごはんは奮発してくれたわけか……。
「大抵は香草などを入れて味を変えたりするんですよ。リユはお肉の塩焼きが好きで、香草を使った料理はあまり食べたがらなくて困ってます」
苦笑しながらアリサは俺の手元を見ている。
味の素となるタネを作っている所だ。特製にんにく醤油に豚バラ肉を混ぜて味を染み込ませる。
「まあ、リユの気持ちも分かるよ。俺も子供の頃は野菜嫌いだったしな」
フライパンに油を垂らし火で温める――。
「ふふ、そうなんですね」
「ああ。――よし、そろそろ焼いていくぞ。油跳ねるから少し離れてな」
熱したフライパンに特製にんにん醤油を漬け込んだ豚バラ肉を落としていく――。
じゅわわわわわ――。
油がはじける音と共に、にんにく醤油の香ばしい香りが部屋全体に漂う――。
「はわわわわわわわっ!!」
匂いを嗅いだアリサは、尻尾と獣耳をピンと伸ばしながら震えていた。
「いい匂いだろ?」
「ふぁ、ふぁい……」
トロンとした顔でフライパンを見つめている。
バタンッ! どたどたどた!
「わふー! 凄くいい匂いがするー! リンタロー! 何作っているのー!」
リユが駆け込んできて、わふわふ言いながら左右にぴょんぴょん跳ねていた。どうやら相当この匂いにやられたらしい。涎が出ている。
「俺特製の肉料理だ。待ってな。もうすぐ出来上がるから」
「わふー! おにくっ!」
待ちきれないといったリユを落ちつかせてから、皿に焼いた豚バラ肉を載せ、千切りしたキャベツも添えてマヨネーズをかける。ご飯もよそい完成だ。
「俺の『特製豚バラのにんにく醤油焼き』だ」
テーブルの上に人数分置いていく。
「はわわわわわわわっ!!」
「わっわっわ!」
目をキラキラさせる二人に俺もほっこりだ。
「アリサ、お婆さん呼んできて」
「あ、はい! 呼んできますね!」
アリサはたたたと小走りで家の外へ出ていった。
「わうぅー……わうぅー……」
リユ涎。涎垂れてるぞ。
ハンカチでリユの口元を拭いてあげているとリユの耳がピンと伸びる。。
「はっ! リンタロー! ま、魔物の声が聞こえたっ」
「なんだって!?」
拙いぞ! ライたちは今は狩りでいない。俺が何とかしなくては!
俺は急いで外に出た――。




