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第40章:俺が一番妹をうまく扱えるんだ!……とは言わないが(当惑)

 俺が乱気流の剣で土僕(ゴーレム)たちを喰いとめている間に、防衛ラインの内側では奥杜(おくもり)が魔法を完成させたようだった。


()は荒々しき者なり 大地揺るがせ 四海を波立たせ……以下略!」


「以下略!?」


 横暴にも突然詠唱を切り上げた奥杜に思わずツッコミの声をあげてしまったが、直後に魔力が膨れあがり、次いで風が爆発する。


「"風裂(ふうれつ)"!!」


 俺たちを中心として、突風が放射状に拡がった。風の領域型魔法だ。周囲の屹立(きつりつ)する土僕を吹き飛ばすほどの威力はなかったが、俺が砕いて一時的に土塊(つちくれ)へ還っていた者たちは無抵抗のまま、土埃(つちぼこり)となって舞いあがる。


 あれなら再生するにしても、再び土僕の姿に戻るのはここから大分離れた地点になるはずで、その分時間が稼げる。状況と必要に応じて、最適の魔法を奥杜は選択したのだ。


 とはいえ、それで気を抜けるわけでもない。”風裂”の突風に踏みとどまった土僕どもが、すでに俺が定めた防衛ラインをわらわらと侵食しようとしている。それらを逐一、瀬戸際で粉砕していかねばならない。奥杜とて、領域型魔法を連発することは不可能だ。"風刃(ふうじん)"や"風弾(ふうだん)"など、比較的発動が容易な魔法で敵を迎え撃つしかない。


 しかも、前方だけに意識を集中すればいいわけでもない。光琉(ひかる)に背を向けて剣を振るっていると、突如後ろに新たな魔の気配があらわれる。防衛ラインの内側の地面から土僕(ゴーレム)が這い出し、光琉を襲撃しようとしている! あわてて振り向いて一薙(ひとな)ぎに砕いたが、今度は防衛ライン外側の土僕に背を向けることになってしまった。


 その内の一体が、俺の後頭部目がけて爪を振るってくる。魔物の動きは”魔覚”で捉えたものの態勢が整わず、払いのける余裕はなさそうだった。思わず前世のくせだった舌打ちがついて出る。


「"風弾"!!」


 奥杜が放った風の塊が俺の背後からの襲撃者を撃ち、その動きを止める。俺は瞬時に姿勢を修正して向き直ると、再び動き出す間をあたえず、土僕を頭から両断した。


 一瞬、”聖山”ハガルでオークたちを相手にした時のことが頭をよぎった。いや、あの時だけではない。前世のサリスとカーシャは、このようなコンビネーションで無数の魔物を(ほふ)ったのである。


「あぶないところだったわね」


 奥杜が次の術のために魔力を練りながら、声をかけてくる。


「ああ、助かったよ」


「生まれ変わっても、私たちの呼吸はピッタリね。どう、やっぱり聖女なんかより、私の方が勇者のパートナーにふさわしいでしょ?」


「おい、あまり挑発的なことを言うな」


 そんな台詞が今の光琉の耳に入ったら、精神集中が乱れて魔法の発動を阻害するのではないか。そういう懸念をおぼえてあわてたのだが、


「むっきー、人が動けないと思って好き勝手言ってくれちゃって! 見てなさい、さっさとこの土僕(ゴーレム)たちを片付けたら、次はあんたの番だからね!!」


 ヒステリックに叫んだかと思えば、妹の身体を包む光は一層輝きを増した……集中力を削ぐどころか、かえって発奮材料になったようである。


 横目で風紀委員の様子をうかがうと、一瞬ペロリと舌を出すところが目に入った(めずらしいものを見た)。どうやらはじめからこの効果を狙って、敢えて挑発的な発言をしたらしい。


 すでに奥杜は、俺よりも光琉の操縦が上手いのではないだろうか。そう考えるとくやしい気もするが……あるいは、魔法を使う者同士にのみ通じる呼吸のようなものがあるのかもしれない。


 戦況は刻々と不利になっていく。いくら土僕を砕いても、敵はすぐに再生する。光琉が戦闘に参加できない以上、こちらに奴らを沈黙させる手段はない。しかも土僕たちは依然、地中から新たに生まれ続けているのだ! 脅威は減ることなく、逆に増える一方。状況はさながら悪夢だった。


 どうやら土僕たちを操る召喚士(サモナー)は、土僕の出現場所を大雑把にしか指定できないようだ。それとも距離があるので、俺たちの位置関係を性格に把握していないのか。もし現場を俯瞰(ふかん)でき、土僕を目的の地点にピンポイントで出現させることができるなら、光琉の足元の土から直接土僕を生み出して奇襲させればいいだけの話だ。


 敵の限界が見えたことはこちらの利点だが、あくまで気休め程度のものだ。時折はランダムに防衛ライン内の地面から土僕が出没するから、結局背中を気にしつつ外側の敵と対峙し続けねばならないことは変わらない。極度の集中力を要求され、神経が消耗する。


 土僕(ゴーレム)たちは、明らかに光琉を集中的に狙っている。敵もこちらの意図を察したのか? いや、そうではない。出現した直後から、物言わぬ土の兵士どもが光琉を目指して群がってくるのは感じていた。妹が奴らにとって極めて危険な浄化魔法の使い手であるにも関わらず、執拗に接近を試みてきた。俺や奥杜は、その間に立ちはだかった障害物に過ぎない。


 そもそもこの一連の襲撃自体が、"光の聖女"を標的として仕組まれたものだった。そう考えるべきだろう。今朝、霊人(レイス)があらわれた時にも言及したとおり、魔の種族にとって聖女の魔力は極上の蜜なのだ……


「!……っざけんなよ!!」


 俺の渾身(こんしん)のひとふりが、土塊の身体を砕き黒い霧へと変える。すでに広場一帯には、土煙が充満していた。時間が経つほどに、口の中のざらつきが増していく。俺の呼吸が荒くなっているのだ。


 これしきの戦いで疲弊してしまうとは、我ながら情けない。サリスだった頃は一晩中魔物と斬り結んだこともあったが、その時でさえ息ひとつ乱さなかったはずだ。光琉と同じで、俺も前世の勘をまだ充分には取り戻していないということか? それとも単純に、サリスと天代(あましろ)真人(まさと)の体力に雲泥の差があるだけだろうか。


 どちらにせよ、俺の迎撃能力が次第に下がっていくことには変わりない。奥杜も四方からの波状攻撃に、魔法の発動が追いつかなくなってきた。当初半径3メートルを想定していた防衛ラインは2メートルに後退し、1メートルとなり……とうとう俺と奥杜、そして精神集中状態の光琉の3人が、背中合わせにならねばない処まで押しこまれた。


「天代くん、傷は大丈夫? もうボロボロじゃない」


「そっちこそ」


 この乱戦の中、当然、無傷というわけにはいかない。俺も奥杜も、制服は至る箇所が破れ、そこからのぞく皮膚には血がにじんでいる。周囲を埋める土僕たちは"雲霞(うんか)の如く"と形容したくなるほどで、もはや何体いるのか数える気にもなれない。


 体内を氷塊が落ちていくような気がした。判断を誤っただろうか。無謀な作戦を実行し、自分ばかりか光琉と奥杜をも窮地に追いこんでしまったのでは……


「お待たせっ!」


 俺の非生産的な思考を払いのけるように、大きな声が耳元で響く。振り向くと妹がこちらを見てにっと笑い、次いでそれまで組み合わせていた両手を解いて勢いよく頭の上に掲げた。


 途端、上空数メートルに輝く大きな輪が現出し、周囲を淡く照らし出した。俺はそれを見て天使の頭に乗っかっているという同形状のものを連想したが、光琉に言わせれば「大きなドーナツみたい」とでもなるかもしれない。


 四方を囲む土僕(ゴーレム)たちの中に、後じさる気配が生まれた。霊媒(れいばい)の本能が、危険を察知したのだろうか。しかしもはや、逃れる術はない。


「"聖輪(せいりん)"!!」


 上空の輪が一層輝きを増し、広場全体の薄闇を外縁へと押しのけていく。降り注ぐ光は明るいがまぶしくはなく、俺たちを包みこむような優しささえ感じられたが、土僕たちにとっては無形の災厄以外の何物でもなかった。


 ”浄化”の力を宿した光を浴びた土僕たちの身体が、水をかけられた飴細工のごとく次々と溶け崩れていく。聖光は密集したすべての土僕に例外なく行き渡り、俺たちの周囲に突如として膨大な土煙が巻き起こると、後には大小無数の土塊が残るだけだった。広場のコンクリートの地面は、黒いペンキを無秩序にぶちまけられたように土で汚れている。


 やがて光の輪が消失した時、俺が見渡すかぎり立っている土僕の姿はひとつも存在しなかった。新たにコンクリートの下から這い出てくる様子もない。”聖輪”が放射した光は土僕だけでなく、()()()()()()()浄化したのだ。もはやその土に霊媒が宿ることは、不可能だろう。


「ふへへ、どんなもんですかっての!! ねえねえにいちゃん、見て見て、あたしってデキルオンナでしょ? 何か言うことないの?」


 すぐ調子にのる光琉が、例によってつつましやかな胸をそらしてくる。あれだけの戦いの直後だというのに、元気なやつだ。


「ああ、大したもんだよ。人間、何かひとつくらい長所があるもんだなあ」


「こんな時くらい、素直にほめてくれてもいいんじゃない!?」


 むくれて抗議してくる我が妹様。まあ実際、()()()に値するだけの働きはしたのである。奥杜の方を見ると、彼女も脱帽するしかないというように肩をすくめてみせた。


「そうね、ちゃんと(ねぎら)ってあげたら? あれだけの土僕(ゴーレム)を一瞬で消滅させてしまうなんて、ほんとに凄いことなんだから。フェイデア中を探したところで、同じ芸当が可能な浄化魔法の使い手は滅多に見つからないでしょうね」


「む、あんたはヨケーなこと言わなくていいのよ。"敵に塩をまかれる"ほど、おちぶれちゃいないわ!」


「それを言うなら”敵に塩を送る”、な? 敵に塩をまくのはむしろ当然だ……というか、そもそもだれが敵じゃ」


 うむ、ツッコミを入れるだけの余裕があるというのは、大変結構なことだなあ。


 光琉はなおもむくれ続けていたが、突然ハッと気づいたように顔を上げると、


「そうだ、今のうちに土僕(ゴーレム)を操っていた奴をとっちめてやらなきゃ! この一帯の地面は浄化したけど、また別の場所で土僕を作ってあたしたちに送りこまれたんじゃ、たまったもんじゃないわ!」


 さすがは元聖女というべきか、こと魔法が絡むと鋭敏な洞察力を発揮するようだ。召喚士の魔力は依然、北西の方角に感じられる。光琉はそちらを目指して、俺たちが止める間もなく土が散乱する広場を駆け出した。


 俺の"魔覚"が違和感に襲われたのは、その時である。


 先ほど発動した"聖輪"により、周辺には光琉の聖なる魔力(字義的に矛盾するようだが、そう表現するしかない)が充満している。その中に、白紙の表面に零れた一点の黒いシミのように、異質な魔力が混じっているのを感じ取ったのだ。その場所は……


「光琉、あぶない!」


 俺が叫ぶと同時に、光琉のかたわらに固まっていた土の小山が突如弾けた。その中から、一体の土僕(ゴーレム)が立ち上がる。全身の所々が崩れ落ちてボロボロだが、動きはさほど鈍っていない。


 仲間の身体を盾にすることで"聖輪"の光を遮り、かろうじて消滅を免れた土僕がいたのだ。そしてその土僕は今、禍々(まがまが)しい爪を頭上に高く掲げている。その爪が届く距離に、光琉がいる!


 不意をつかれた妹に、迎撃の魔法を発動する余裕はなかった。認識が事態に追いつかないのか、ただ目を見開いて突然あらわれた襲撃者を凝視したまま、固まってしまった。その停滞は一瞬のことだったが、戦場では致命的な一瞬だった。


「よせ……やめっ」


 俺の叫びは、途中で(かす)れた。無防備に身をさらす光琉へと、土の魔手が振り下ろされる。風切り音が鳴り……


 薄墨(うすずみ)のような宵闇(よいやみ)の中に、鮮やかな紅が散った。

5日連続更新挑戦企画、第3回目をお届けします。

我ながらとんでもないところで引いてしまいました……


次回も明日更新予定です。

さすがにこの展開で長くお待たせするほど、私も人非人ではありません。

編集がんばらなきゃ……(終わってないんかい!)


またお付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  引き継いだ能力に今の所差があるように見えるのはただ単にメルティアの聖女としてのチカラがずば抜けていたからかな。  同じ割合減衰したいるとしても元の分母がデカい、みたいな。  それとも積極的…
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