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第21章:風紀委員が負のオーラを放つのは俺がクズ男なせい、ということにいつの間にかされてました(何故)

 高笑いをやめない光琉(ひかる)を無理矢理中等部へ帰らせ(こんな際でも本日の"放課後デート"の約束について念を押してくるのが、我が妹様クオリティである)、俺も教室へと戻ることにした。


 校庭を横ぎっていると午後一の授業の予鈴が響きわたったので、結局貴重な昼休みをバカさわぎのうちに消費してしまったわけである。クソッ!


 授業開始直前に、ギリギリで教室に滑りこむ。奥杜(おくもり)はすでに着席していた。血糊(ちのり)こそ落とされていたが、髪はボサボサのままだった。俺に気づくと眼鏡ごしにギョロリと目を向けてきたが、何も言わなかった。うん、超こわい。


 その後授業が始まり5限目、6限目と進んでも、奥杜の機嫌は直らなかった。青白くなった顔に不信と疑惑を凝縮した表情をはりつけ、さながら幽鬼のようなオーラを発散しつづけていた。周囲の生徒たちは恐怖からだろう、半分涙目だった。普段真面目な風紀委員が心ここにあらずの態でピリピリしているので、教師たちもやりづらそうだった。


「おい奥杜、この問題を解いてみろ」


 集中力の欠如をさすがに看過しかねたのか、6限目の数学の教師がそう風紀委員を促して黒板を指した。黒板の表面には、複雑な関数方程式とそれに対応する(と思われる)グラフが記述されている。俺などには前世で目にした魔法陣と大して違わないようにみえる、つまりはまったく訳の分からない代物である。


 奥杜はふらつく足取りで黒板の前まで行くとよどみなくチョークを動かし、あっという間に要求されたグラフ上の座標を導いてみせた。「……正解だ」と数学教師がくやしそうにみとめ、クラスでざわめきが起こった。


 怒りで青ざめながらも"()()()()()"とやらをおろそかにしないのだから、さすがというべきか。以後、数学教師が奥杜を注意することはなかった。


「なあ、お前、奥杜となんかあったの?」


 授業が終わりそうじの時間がくると、せっせと窓を拭く俺の元へ石田(いしだ)が近づいてきた。例によって髪をかき上げる仕草とともに、である。掃き終わった床の上にやたら髪の毛が落ちるものだから、ほうき担当の女子が迷惑そうに顔をしかめていた。


 ちなみに先ほどこちらをエンガチョ扱いしてきた件については、当人は都合よく忘却の彼方に追いやっているらしかった。


「……別に何もねえよ」


「だって午前中はいつもどおりだったのに、昼休みに帰ってきた途端不機嫌MAXじゃねえの。しかもどう考えても、怒りの矛先はお前に向けられているぞ」


 ぐうの音もでねえ。授業中も奥杜はこちらにチラチラと、怒りと(さげす)みをないまぜにした視線を送ってきていた。石田ならずとも、俺に原因があると考えたくなるだろう。


「お前、昼は奥杜と一緒だったんだろう? 他の連中も、お前と奥杜の間に何かあったんじゃないかって噂してるぜ」


 そう指摘され周囲のざわめきを気にかけてみると、クラスのあちこちでその”噂”とやらが囁かれていた。


「奥杜さん、一体どうしたんだ? なんかすげえ機嫌悪いんだけど」


「さっき、天代(あましろ)を校舎裏に呼び出していたでしょ。遅刻を責められた天代が逆ギレして、相当酷いことを言ったらしいわよ。眼鏡※※とか、※※※とか」


「そんな程度で、あの鉄血風紀委員様が(こた)えるかね」


「いや、ありゃ天代にコクって玉砕したと見たね。ああいうタイプは一度思いつめるとこじらせるから」


「えー、奥杜っち、ああいうのがタイプ? いがいー」


「甘い甘い、ことはそんな単純じゃないわよ。元々天代くんと奥杜さんは隠れて付きあっていたのよ。でも天代くんは別の女子とも二股をかけていて、それに気づいた奥杜さんが逆上して無理心中をはかったけど失敗して……」


 皆さん想像力たくましすぎない!? 短時間でどんだけ噂がひとり歩きしているんだよ。あと先ほど光琉のデマを信じた奥杜といい、何故どいつもこいつも俺がクズ男だったという結論で話をまとめたがるのか。泣くぞコノヤロー!


「すべて濡れ衣だ! 原因なんて俺は一切知らん、そんな気になるなら奥杜に直接訊けばいいだろうが」


「……できると思うか?」


 石田は心底おそろしそうに身震いした。


 俺は自分と同じく教室内でそうじにいそしんでいる奥杜の方へ視線を送った。風紀委員は黙々と黒板を水拭きしていたが、依然全身から発せられる殺意の波動(?)は衰えていなかった。なるほど、とても質問できる雰囲気ではない。


 教室に戻った当初は奥杜が光琉に吹きこまれた誤解(俺が妹に手を出した外道畜生(げどうちくしょう)であるというはなはだだ不本意な誤解である!)をクラスに吹聴しやしないかとハラハラしていたが、どうやら当人にそんなつもりはなさそうだった。まあ元々むやみに噂話を広めるような風紀委員でもないが、よく考えれば彼女が友人と雑談に興じている姿というものをみたことがない。今も明らかに普段と様子が違うというのに、心配して声をかけるような者はだれもいなかった。皆野次馬根性むき出しで遠巻きに盗み見ては、ひそひそと囁きあうのみである。


 厳格な風紀委員として普段からおそれられているということは、見方を変えればクラスで敬遠され孤立しているということでもある。考えてみれば当然の帰結なのに、うかつにも今まで思い至らなかった。そこまで風紀委員のプライベートを気にかけたことがなかったのである。


 まあ俺だってクラスで口をきくのが隣のナルシストくらいしかいないから、同情できる立場でもないが……しかし前世で異世界を救った勇者と魔導士がそろってぼっち気味というのも、なんだか世知辛い話だなあ。


 前世のよしみもあるし俺から声をかけるべきだろうか、などと考えながら奥杜の後ろ姿をながめていたが、視線に気づいたのかこちらへと振り向くとまたしてももの凄い形相でにらんできたので、あわてて眼をそらした。うむ、ほとぼりが冷めるまで俺からは近づかない方がいいな。触らぬ神に何とやら、だ。


 奥杜から持ちかけられた退魔組織云々の話も結局有耶無耶になったままだが、元々乗り気ではなかったのでそれについてはむしろ好都合である。このまま向こうも忘れてくれるとありがたいのだが。


 さて、そうじを終えホームルームが済むと、下校時間である。石田はダッシュで廊下へと飛び出していった。


「職員室に行ってスマホ取り戻してくる! "魔滅(まめつ)"が俺を待ってるぜっ」


 とのことらしいが、すっかりクソゲーであそぶことがスマホを所有する主目的になっているようだった。今日一日プレイできなかったせいか、両手が禁断症状を起こしたようにふるえていた。大丈夫か、あいつ……


 奥杜もいつの間にかいなくなっていた。ホームルームで担任から「今日の放課後は、風紀委員会の会合だな。よろしく頼むぞ」と声をかけられていたので、そちらへ向かったのだろう。バッグもまだ机にかかったままである。先刻の授業といい、どれだけ激情にかられていても自分の役割はしっかり果たすのだから見上げたものだ。おかげで今日のところは、彼女のこわい視線から逃れることができた。


 俺はといえば、今日の放課後は例の、妹との"約束"がひかえている。正直気は進まなかったが、いつまでもクラスにとどまるわけにもいかなかった。教室に残った生徒たちから一様に白い眼を向けられ、()(たま)れなかったからである。くそう、すっかり"奥杜を(もてあそ)んだクズ男"説が定着していやがる(何でだよ!)。


 明日からの学園生活に思いを馳せると明るい気分にはなり得なかったが、それよりもそそくさと教室を後にする俺の頭を締めていたのは、光琉のことだった。


 やはり年頃の兄妹が街中でデート、というのは、問題ではないだろうか?

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