第60話 諸行無常
キュラキュラキュラと独特の音を響かせて自衛隊の戦車が前進する。
午後になり国道246号線の部隊は前進を始めた。
六本木通りの部隊もいろいろともめごとがあったが、警察の部隊と冒険者たちが協力して前進を始めたそうだ。
『東口ギルドの冒険者を外して西口ギルドの冒険者を入れても良い。警察を外して自衛隊を入れても良い。隣の246は上手くやっているし、現に隣の西口ギルドの冒険者の方が強い』
上の方からこういわれて、東口ギルドの冒険者も警察も尻に火が付いたらしい。
戦車の後に自衛隊の歩兵が続き、次いで俺たち冒険者だ。
246と骨董通りの交差点から宮益坂方面へ進む。
246の左右は大学があるのだが……。
自衛隊の爆撃によって廃墟と化している。
「有名大学の跡地だね」
「まあ、お金持ち子弟が通う大学だから、すぐ再建するんじゃない?」
「確かに!」
俺とモッチーは、警戒しつつも軽口を叩く。
ずっと土地を魔物に占拠されるより、瓦礫の山になっても土地が利用出来るようになった方が良い。
前方から散発的に自衛隊が小銃を撃つ音が聞こえる。
恐らくゴブリンだろう。
ゴブリンなら銃弾一発で沈黙する。
オークだと皮下脂肪が多いので、小銃を連発するのだ。
無線から上原さんの声。
「新人冒険者は自衛隊の倒した魔物から魔石を回収して下さい。戦車より前に出ないように気をつけて下さい」
冒険者集団の中から新人冒険者の一団が動いた。
新人冒険者たちも、やっと仕事だと張り切っている。
ゆっくりと歩く速度で戦車が進み、俺たちは後をついていく。
再度、無線から上原さんの声。
「白騎士は進行方向左側の大学の中を探索し、残敵の有無を確認報告して下さい。超獣は右側の大学の中をお願いします」
「白騎士、神宮司、了解です」
神宮司君が無線で返事をし、冒険者パーティー白騎士の五人が左の大学――跡地にしか見えない瓦礫の山へ向かった。
「超獣、狭間、了解」
俺も上原さんに無線で返事をすると、モッチーを連れて右側の大学へ向かった。
「見事な瓦礫の山だな」
「自衛隊の爆撃凄い」
ここは国際機関もあった場所だ。
以前、派遣の仕事で冷蔵庫を配達した。
大学といってもオシャレな青山に建つピカピカのオフィスビルみたいな外観で、働いている人たちも小じゃれた雰囲気に感じ、俺の住む世界とは別世界だと思った。
でも、こうなって瓦礫になってしまうと……。
「モッチーなんだっけ? 中学の時に国語で習ったヤツ……。源氏じゃなくて、平家かな?」
「諸行無常?」
「それ!」
まさに今目の前の光景は諸行無常だ。
俺たちは大学跡地に魔物の生き残りがいないか探索した。
建物の中にいた魔物は、爆撃によって四散するか、崩落したビルに押しつぶされていた。
グチャグチャになっていて魔石の回収は無理だ。
「モッチー、これは無理だ。魔物が挽肉になってる。魔石はあきらめよう」
「私はグロ無理だから」
「あー、ごめん。撤収しよう。上原さんに報告するよ」
モッチーは、遠い目で空を見上げている。
グロを見ないようにしているのだ。
俺は無線で上原さんに報告を入れる。
「こちら超獣の狭間。右側の大学に魔物の生き残りはいませんでした。爆撃で魔物はグチャグチャになっていて魔石の回収は不可能です」
「オペレーター上原です。報告ありがとうございます。本隊に戻って下さい」
「了解。戻ります」
俺とモッチーは、大学を後にして246へ戻った。
青山を抜けていよいよ渋谷だ。
俺たち246部隊は、宮益坂へ差し掛かろうとしていた。





