第56話 来てはみたけれど……
今回の依頼を誰が出したのか?
神宮司君は、上原さんから依頼を出した人物の名前と階級を聞き出した。
相当偉い人だったようで、依頼人の名前を出すとすぐに警察の現場責任者に会うことが出来た。
だが、現場責任者も困惑していた。
「戦力が増えるのはありがたいが、どうしたものかな……」
俺たちが話しているのは、警察が設営したテントの中だ。
六本木通りを進行する警察部隊の偉い人たち五人が目の前にいる。
五人は腕を組み眉根を寄せ、ヒソヒソ話し合っている。
この五人は結構偉い人らしいのだが、どうも歓迎されている雰囲気ではない。
かといって俺たちを邪険に扱うことも出来ず困っているという印象だ。
俺は神宮司君に耳打ちする。
「何か、ダメっぽいね」
「そうですね……。まあ、それでも『依頼を受けて冒険者が現場に来た』という事実は、これで出来上がりましたので、上原さんは困らないかと」
なるほど。
確かにアリバイ作りは出来たな。
上原さんが困らないなら、このまま国道246号線の部隊へ帰っても良い。
ただ、気になることとしては、全体の進行だ。
「あとは渋谷奪還作戦全体への影響がどうかだよね」
「そこは気がかりですね。六本木通りが遅れると、僕たち246も遅れが出ます」
「うーん……」
俺たちは黙って偉いさんたちの議論を見守った。
十分ほどして、偉いさんたちの一人が口を開いた。
「えー、新宿西口冒険者ギルドから派遣された冒険者のみなさんは、北西エリアの制圧をお願いいたします」
「北西?」
偉い人たちが引っ込み、現場の人が説明を始めた。
どうやら警察の部隊にとって、俺たちは招かざる客だったようだ。
とはえい、警察のかなり上の人が現場に引っ張って来た戦力なので追い返すことも出来ない。
そこで、『六本木通りから246へ帰るついでに、魔物を狩って欲しい』という作戦指示になったのだ。
「なるほど。北西エリアの制圧とは、そういう意味でしたか」
神宮司君が納得してうなずくと、現場の警察官さんは苦笑いした。
「そうなんだ。せっかく来てもらったのに悪いけど、西口ギルドは東口ギルドとライバル関係でしょ? 警察が西口ギルドに肩入れしていると誤解されては困るからね。警察としてもこれ以上東口ギルドの冒険者と関係悪化は避けたいんだ」
「そういうことでしたら指示に従います。僕らも手ぶらで帰るわけじゃないので大丈夫でしょう」
「みんな悪いね」
「気にしないで下さい。じゃあ、僕たちは骨董通りの先を右に曲がって、246へ帰ります」
「うん、そのルートなら大量に魔物が出ることはないと思う。よろしく」
打ち合わせを終えて、俺たちはテントから出た。
みんな無言で何ともいえない空気だ。
俺は空気を入れ換えるつもりで、前向きなことを口にした。
「まあ、でも、頼まれたとおり六本木通りに来て、魔物を倒すわけだから良いんじゃない? モメてる現場から帰れるしさ」
俺の発言に神宮司君が乗っかる。
「そうですね! 前向きに考えましょう。少なくとも無駄足にはなってないですし、狭間さんの言う通り、ちょっと六本木通りは雰囲気が悪いですからね。上原さんに連絡しておきます」
神宮司君はスマートフォンで上原さんに連絡を取りだした。
モッチーもレオ君も、白騎士の他のメンバーも、『まあ、さくっと来て、さくっと帰るから良いだろう』と話し出した。
六本木通りを渋谷方面へ歩く。
六本木通りもボロボロで、周囲の建物は倒壊し、道路もあちこち穴が空いている。
ただ、首都高はあまり壊れていない。
首都高は壊さないように、警察が気をつけているのだろう。
周囲を観察しながら歩いていると、前方で横に広がっている冒険者の一団がいる。
人数は五人。
ガラ悪し!
俺、神宮司君、レオ君が前に出た。
同じ冒険者といえども、あちらは新宿東口ギルド――別のギルドの冒険者だ。
注意は必要だ。
俺たちが左へ避けると、ガラの悪い冒険者たちも左へ。
右へ避けると、右へと動いて、俺たちを通せんぼする。
ついに、五メートルの距離まで近づいた。
俺たちは足を止め、レオ君が一歩前に出た。
「俺たちは西口ギルドの冒険者で、これから246へ帰るところだ」
「……」
レオ君がガラの悪い冒険者たちに声を掛けたが、連中は無言でニヤニヤ笑ってる。
レオ君が続ける。
「なあ。何か用かよ?」
「いやあ、随分良い女連れてると思って! 俺たちにも分けてくれねえかな?」
うはっ!
チンピラ冒険者展開来た~!





