第55話 六本木通りで、たらい回し
俺たちは六本木通りに到着したが、警察と冒険者がつかみ合いになっている。
昨日、乱闘騒ぎがあったと聞いたが今日もですか!?
「この争いは関わったら負けだね」
「ですね。見なかったことにして、現場責任者に到着をおしらせしましょう」
「「「「「「「賛成!」」」」」」」
神宮司君の提案に全員賛成した。
モメている現場から少し離れた所にいる若い警察官に神宮司君が声を掛けた。
「お疲れ様です」
「えっ!? あ、はい。お疲れ様です」
神宮司君が挨拶すると若い警察官は怪訝な顔をした。
好青年神宮司君の挨拶は、誰にでも良い印象を与えるが、珍しいリアクションが返ってきたぞ。
神宮司君は警察官のリアクションが気になったようで一瞬驚いたがすぐに用件を切り出した。
「僕たちは、新宿西口冒険者ギルド所属の冒険者パーティー白騎士と超獣です。応援に来ました。責任者の方にご挨拶をしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「え? 応援? 聞いてないですよ……」
「そうなんですか?」
「えーと、西口の冒険者ギルドって言ったよね? ここは東口の担当だから、場所を間違えてない?」
「いえ。六本木通りへ応援に行くように指示されたんですよ」
「うーん。ちょっとわからないですね。冒険者のことは、冒険者に聞いて下さい」
「「「「「「「……」」」」」」」
何だか物凄い塩対応だ。
いきなり嫌な感じだなと思った。
まあ、でも、『冒険者のことは、冒険者に』と言うのは間違いではない。
俺たちはケンカしていない冒険者、かつ話しやすそうな冒険者を探した。
しかし、ここにいる冒険者はやさぐれ感、アウトロー感が凄くて、まともに会話が成立する気がしない。
モッチーは人見知りが発動し、俺の後ろに隠れてガタガタ震えている。
そんな中でも、まあ、何とか話が出来そうな雰囲気の冒険者を見つけた。
紙巻きタバコをくゆらせて、ビルの外壁によりかかってボーッとしている冒険者だ。
「あの手のヤツなら俺が話した方がイイでしょ」
今度はレオ君が話しかけた。
レオ君はヤンチャな雰囲気を持つ冒険者だ。
少なくともなめられることはないだろう。
レオ君がタバコを吸っている冒険者に近づくと、向こうから話しかけてきた。
「見ねえ顔だな?」
「俺たちは西口から来た。よろしくな」
レオ君が手短に事情を説明すると、冒険者の雰囲気が一変した。
厳しい表情で俺たちをジロジロと眺める。
「なんで西口がいるんだよ……。ここは東口だぞ?」
タバコ冒険者の圧。
しかし、レオ君はスルーして話を続けた。
「俺たちも命令で来たんだ。理由は知らないよ。東口のオペレーターはどこにいる? 教えてくれよ?」
「チッ! 向こうのバスにギルドの偉いさんたちがいるぜ。そこで聞いてみな」
「バス? どのバスだ?」
「行けばわかる。派手派手なヤツだ」
俺たちは顔を見合わせる。
六本木通りには、警察の大型バスも沢山止まっているのだ。
行けばわかると言われてもねえ……。
それでも一応情報を提供してくれたので、おれたちは礼を言って別れた。
俺たちは六本木通りを渋谷と逆方向、西麻布の方へ向かって歩いた。
通りには警察関係の車両が沢山止まっている。
「派手派手のバス……」
「あれじゃないッスか?」
「「「「「「「あー!」」」」」」」
西麻布の交差点近くで、派手派手バスを見つけた。
歌舞伎町にあるお店の宣伝をしているラッピングしたバスだ。
あのバスって人が乗ることも出来るんだな。
冒険者ギルドが相手なので、交渉役はレオ君から神宮司君に戻した。
神宮司君がバスの入り口に立つ、スーツを着たヒゲにサングラスの男性に声をかけ事情を説明した。
男性は新宿東口冒険者ギルドの職員だった。
ガラが悪いな……と思いながら、俺は神宮司君とスタッフのやり取りを聞いていたが、押し問答が続いている。
「応援なんてウチは聞いてない」
「そういえば警察の上の方に頼まれたと、こちらのオペレーターが言ってました」
「じゃあ、警察に聞いてくれ。ヨソ者の相手をするほどヒマじゃないんだ」
スーツの男は、バスの中に引き上げてしまった。
俺はスーツ男の対応にイラッとする。
「え~! なんだよ!」
「冷たいッスね」
レオ君も俺に同調する。
モッチーが俺の後ろから首を出した。
「東口ギルドは閉鎖的みたい。嫌な感じ」
「それにしても、あの対応はないでしょう? 神宮司君、どうする? 俺たちたらい回しにされてるぜ。帰るか?」
「うーん、ちょっと待って下さい。上原さんに連絡してみます」
神宮司君がスマートフォンで上原さんと話し始めた。
無線で話すのを避けたのだ。
当然だ。
他の人に聞かせる内容ではないと思う。
警察と冒険者のケンカ、塩対応、敵意を向ける冒険者、たらい回し。
新宿西口ギルド所属の冒険者が聞いたら、間違いなく怒る。
神宮司君が上原さんに質問した。
「依頼を出した人の名前と役職を教えて下さい」





