第52話 タイガー・ドライバー91
俺と神宮司君が並んで国道246号線を前進する。
246はあちこちに魔物の死体が散乱し、場所によっては魔物の死体が重なり山を作っていた。
前方から新人冒険者五人が血相を変えて逃げて来る。
神宮司君が五人に大声で聞く。
「白騎士の神宮司だ! 前はどうなってる?」
五人のうち二人が足を止めて答えてくれた。
二人とも顔面蒼白だ。
「わーっとゴツイ魔物が出て来て!」
「今、ラーメンの人たちが戦ってます!」
「わかった。僕たちの後ろは安全だから大丈夫。バリケードの中に退避して待機でお願いします」
二人はコクコクとうなずくと、足をもつれさせながらバリケードに向かった。
「神宮司君、ラーメンの人たちって、ラーメン好きみたいなパーティー名の人たちかな?」
「ええ。家系ラーメンスキーですね」
よほど家系ラーメンが好きなのだろう。
「ゆるい名前だけど、大丈夫なのかな?」
「実力はあるので大丈夫でしょう。あ! いました!」
鬼が三匹いて、五人の冒険者が応戦している。
二対一が二組と一対一が一組。
正直、旗色が悪そうだ。
「狭間さん。僕は一対一のところへ。狭間さんは右の二対一のところへ」
「了解!」
神宮司君は剣を構えて走り出した。
「白騎士の神宮司です! 助太刀します!」
「助かった!」
一対一はキツかったのだろう。
家系ラーメンスキーの剣士が、ホッとした声を出した。
さて、俺は右の組だ。
右は魔法使いとナイフ使いの組み合わせ、ナイフ使いは盗賊だろう。
盗賊は身軽に動いて鬼の攻撃をかわし、ナイフで切りつけているが、ナイフでは攻撃力が足りない。
鬼の全身に切り傷があるが、浅手に見える。
もう一人は女性魔法使いだ。
一歩引いた位置に立ち火属性魔法を放っているが、鬼には効いていないようだ。
俺は魔法使いに声を掛けた。
「応援に来たよ。魔法は効かない?」
「ダメです! 少なくとも火属性はダメです!」
「了解。俺が入るよ!」
「お願いします!」
俺は『家系ラーメンスキー』の女性魔法使いから魔法が効かないと聞いて腹をくくる。
正面から突貫し、力で打破するしかない。
ジョブ『魔法使い』の俺としては、はなはだ不本意だが仕方あるまい。
俺はアスファルトを蹴り殺す勢いでダッシュする。
同時に前方で鬼と戦う『家系ラーメンスキー』の盗賊に声を掛ける。
「うおおおおおおおおおお! スイッチィイイイイ!」
「え? うおっ!?」
盗賊は戦闘に集中していて俺の接近に気が付かなかったようだ。
俺が声を掛けると慌てて鬼から離れた。
ギリギリのタイミング。
俺が飛び込むのと盗賊が離脱するのが、ほぼ同時だ。
だが、良いこともある。
盗賊がブラインドになったおかげで、鬼からは俺が見えなかった。
(上手い!)
俺はジャンプして全体重を載せ、右肘を鬼の顔面に叩き込んだ。
フライング・エルボーである。
「ガッ!?」
鼻っ柱にジャストミート。
鬼がうめき、膝が崩れる。
おかげで鬼の顔面が俺の正目に来た。
「エルボー! エルボー! エルボー!」
俺は右肘に体重を載せて、エルボー・パッドを連発する。
鬼の頬、こめかみに体重が載ってパワーマシマシのエルボーを叩き込む。
「エメラルドの波にのまれて死ね!」
俺がガシガシと鬼に肘打ちを叩き込んでいると、視界の端に影が……。
鬼の背後から『家系ラーメンスキー』の盗賊が襲いかかった。
盗賊がスキルを発動。
ナイフが怪しく光る。
「バックスタブ!」
「グオオオオ!」
盗賊のナイフが鬼に深々と刺さった。
鬼は激痛にうめき、頭を下げる。
ダメージが大きい!
チャンスだ!
俺は鬼の両腕を逆フルネルソンで固めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そのまま鬼の巨体をぶっこ抜く。
俺は鬼を高々と持ち上げた。鬼は腕を固められ逆さまの体勢だ。
俺は鬼を持ち上げたまま、助走をつけてジャンプする。
ジャンプした状態から渾身の力を込め、鬼を地面へ向けて叩きつけんとする。
そう、この体勢はタイガー・ドライバー91!
首へのダメージが大きく、あまりにも危険なためプロレスでは滅多に使われない危険度マックスの禁じ手だ。
「タイガー・ドライバー!」
「グオオオオオオオ!」
鬼の絶叫。
だが、容赦はしない。
一撃で決める!
俺は腕力、体重、重力の三要素をニュートンにのせて、鬼を地面に叩きつけた。
叩きつけた場所は、車道を歩道の境目。
コンクリートの段差のある場所だ。
鬼の後頭部が段差部分にめり込み、コンクリートが爆ぜる。
同時にベキリと鬼の首の骨が折れる音が響いた。
勝利! 勝利! 勝利!
俺は勝利の雄叫びを上げた。
「ウイイイイイイイイ!」
ありがとうニュートン!
君のリンゴを忘れない。





