第51話 ジャンピング・ニー!
魔物の死体を片付け始めて一時間が経過した。
しかし、国道246号線は、まだ片付かない。
道路に山積みになっている魔物の山は、夜襲が激しかったことを物語っていた。
俺とモッチーは、魔物を運ぶ担当だ。
俺が大型の魔物を運び、モッチーが誘導する。
何体目かのオーガの死体を砂利トラに放り込み、運転手さんとちょっと立ち話をしていると悲鳴が聞こえた。
「何だ!?」
「バリケードの向こう!?」
バリケードの向こう、つまり魔物の死体を片付けている現場で何か起こったらしい。
「モッチー戻るよ!」
「了解!」
俺とモッチーはダッシュで騒がしい現場へ向かった。
バリケードの向こう側が見える。
新人冒険者がパニックを起こして、こちらへ逃げてきている。
神宮司君が声を張り上げていた。
「魔法を使うな! 同士討ちになる! 剣を抜け!」
神宮司君の視線の向こうには、マッチョな人型の魔物がいる。
肌の色は赤銅色で角が生えている。
「ホブゴブリン? 亜種かな?」
「鬼じゃない? 西口ダンジョンには出ないけど、他のダンジョンでは出ると聞いたことが……」
「鬼ね……。赤鬼ってところか……」
俺とモッチーは走りながら魔物を分析した。
しかし、どこから出て来たのだろう?
人並みに逆らってバリケードへ向かうが、なかなか進まない。
ヘッドセットに上原さんの声。
かなりあせって早口だ。
「魔物が出現しました! 新人冒険者はバリケードの中へ退避! 中堅以上は前線に出て! 同士討ちに気をつけて! 魔法や矢は打たないで下さい!」
「こちら狭間! 魔物は鬼ですか?」
「こちら神宮司! 鬼です! 狭間さん! 早く前線に! 新人冒険者がつかまりそうです!」
「わかった! モッチー! 先に行くよ!」
俺は思いきってジャンプした。
自衛隊の車両の上を足場にして、逃げてくる新人冒険者の頭上を飛び越えてゆく。
自衛隊も混乱していて、バリケードを閉じようとしているが冒険者が逃げてくるので閉じれない。
まだ、バリケードの中に多数の冒険者がいるので、機銃や大砲も撃てない。
(接近戦で倒すしかないな)
俺はバリケードを越え、着地すると同時にアスファルトをめくり上げる勢いで右足に力を入れた。
ドンと音がして、俺の体が加速する。
加速する世界の中で、逃げる新人冒険者の女の子が見える。
大学生くらいかな?
べそをかいて必死に足を動かしている。
後ろから鬼。
赤銅色の肌、盛り上がった筋肉、背丈は約三メートル、装備は胴丸に金棒。
いかにも強そうだ。
俺はスピードを落さず走り込み、逃げる冒険者とすれ違った瞬間、左足で踏み切り宙を飛ぶ。
右足で膝蹴りを狙う。
鬼は突然目の前に現れた俺に驚いた。
回避行動を取ろうとしたのだろう。
動きが鈍くなった。
「遅い!」
反応が遅い。遅すぎる。
ゴッ! と鈍い音。
俺のジャンピング・ニーパットが、鬼のアゴをカチ上げた。
鬼は膝から崩れ落ちる。
俺は着地すると同時に鬼の角をつかんだ。
自動車のハンドルを回すように一気に首をひねる。
「ガ……」
鬼は意味不明の声を漏らし、俺に首の骨をたたき折られて地に倒れた。
さらに進む。
神宮司君が剣を持って鬼とやり合っている。
鬼は大きな金棒を振り回しパワーで押す。
尋常じゃない力だ。
金棒が振るわれる度に、ぶうん、ぶうんと鈍い風切り音が響く。
直撃したらヤバイ。
防具を着けていても、確実に骨をもっていかれるだろう。
神宮司君は冷静だった。
相手の金棒を着実に受け止め、受け流し、隙をうかがう。
鬼が焦れて大振りになった。
神宮司君は体捌きで金棒をすかすと、がら空きの首に剣を叩き込んだ。
神宮司君は十分な力と剣速をもって、鬼の頭部を切り落とした。
「神宮司君。さすがだね」
俺は神宮司君を褒めるが視線は前方から動かさない。
まだ、他の鬼が暴れているのだ。
「鬼はどこから現れたの?」
「狭間さん。鬼は死体の山に隠れていました」
「魔物の死体の山に?」
「そうです。完全に不意打ちです」
「頭が回るのか……。厄介だな……」
俺は眉根を寄せた。
オーガやオークに負けない体格とゴブリンキングの賢さ。
かなり危険な魔物だ。
「狭間さん。二人やられました。すぐに後送しましたが、かなり血を吐いていたので厳しいかもしれません」
神宮司君の声が固い。
悔しさがにじんでいる。
俺も怒りと悔しさがごちゃ混ぜになった気持ちが込み上げてくる。
「わかった。早いとこ片付けよう!」





