第50話 ゆであがったオーガ
魔物の死体処理は、サクサクと効率的に行われた。
俺たち魔石回収チームが、魔物をかっさばいて魔石を取り出す。
魔石を取り出した魔物にはガムテープを長めに貼る。
すると運搬チームが、魔物を運び出すのだ。
初心者冒険者は、ゴブリンやホーンラビットなど小型の魔物を担当し、俺たちキャリアのある冒険者は、オークやオーガなど中型大型の魔物を担当する。
オークやオーガは皮膚が硬い上に脂肪や筋肉がある。
レベルアップして力が強い冒険者じゃないと、さばくことが出来ない。
魔石が取り出せないのだ。
俺はオークやオーガをサクサクと解体して、次の魔物に取りかかった。
一際大きな魔物が国道246をふさいでいる。
俺は思わず大きな声を上げる。
「うわっ! これジャイアントオーガじゃない?」
「おお~オーガの上位種! 超強力!」
モッチーがペチペチとジャイアントオーガの足を叩いて感心する。
「よく倒せたな……」
「お腹に穴が空いてるから戦車の大砲じゃない?」
「あー本当だ! 戦車凄いね!」
ジャイアントオーガの腹には大きな穴が空いていた。
胴体の中心にジャストミートしたようだ。
俺は剣鉈を使って、ジャイアントオーガから魔石を取り出した。
魔石はソフトボール大でとても大きい。
俺は取り出した魔石をモッチーに手渡す。
「モッチー、これよろしく」
「はい。回収。これで焼き肉にビールが付く!」
ヘッドセットに上原さんの声が響く。
「超獣の狭間さんと望月さんは、魔物の運搬に回って下さい。大型の魔物が運搬できなくて困っています」
「狭間了解」
「望月了解」
俺たちは魔石を冒険者ギルドのスタッフさんに届けると、魔物の運搬に回った。
魔物の運搬は大変なことになっていた。
ゴブリンやホーンラビットは、初心者冒険者が台車や担架に載せて運び出している。
オークは巨体で台車にも担架にも載らないので、力のある冒険者が両手両足を四人で持ち、何とか運び出している。
「モッチー、俺たちはオーガだね」
「ですね。私は周囲警戒しています」
「よろしく」
モッチーは魔法使いで力がないので、周囲を警戒してもらう。
ここはバリケードの外なのだ。
魔物が襲ってくる可能性は、それなりにある。
俺はガムテープが貼ってあるオーガの胴体を持ち上げて、体ごとオーガの下に入る。
「ヨイショ!」
体全体を使ってオーガを持ち上げる。
多分、200キロを超えていると思うが、ステータスで強化された俺の体にはどうということはない。
ただ、困ったことに前が見えない。
オーガが覆い被さっているのだ。
「モッチー! トラックまで案内して!」
「はーい! そのまま真っ直ぐ!」
俺はモッチーに誘導されてオーガを運ぶ。
ズルズルとひきずっているが、オーガは既に死んでいるのでお構いなしだ。
モッチーがクスクス笑っている。
なんだろう?
「モッチー、どうしたの?」
「酔っ払いオーガを運んでいるみたい」
「ハハハ」
冗談を言いながらバリケードの外へオーガを運ぶ。
バリケードの外には、砂利トラが列をなしていた。
冒険者が砂利トラの荷台に次々と魔物の死体を放り込んでいく。
俺がオーガを地面に下ろすと、パンチパーマのトラック運転手さんが呆れた声を出す。
「うわ! 大物が来たな! これは一体一台だな。その青いトラックに乗せてくれ」
「はーい」
俺はオーガを持ち上げて、指定されたトラックにドンと載せた。
するとモッチーがゲラゲラ笑い出した。
「小さなお風呂に入っているみたい!」
確かに!
オーガの手と足は荷台からはみ出ていて、風呂に入ってのぼせたオーガといった感じだ。
「わはは! お姉ちゃん上手いこと言うね!」
三人でゲラゲラ笑う。
「運転手さん。オーガはどこで処分するんですか?」
「あー、ゴミ処理場だよ。焼却処分だってさ」
「ダンジョンに放り込めば消えるのに?」
ダンジョンは魔物の死体を吸収する。
死んでから一時間程度で、魔物はダンジョンの床に吸われるのだ。
だから、大量の魔物の死体はダンジョンに放り込めば良いと思ったのだ。
パンチの運転手さんは、電子タバコを吸いながら答えた。
「それな! 俺たちも言ったんだけどさ。ダンジョンの栄養になるとヤバイから、焼却するんだと」
「ああ~」
モッチーが納得しているけど、俺はわからない。
モッチーが説明してくれた。
ダンジョンについてはわかってないことが多い。
魔物の吸収についてもよくわからない。
ただ、ダンジョンが魔物を産み出すにはエネルギーが必要だろうから、死んだ魔物を吸収するのはエネルギーの補充なんだろうという説があるそうだ。
「だから、焼却場まで運ぶのか……。焼却場でオーガが燃やせるの?」
「最近の焼却炉はハイテクらしいからイケるんじゃね?」
パンチの運転手さんが軽い口調で請け負う。
そうかイケるのか。
チラッっとトラックを見るとナンバーが目に入った。
ナンバーは越谷。埼玉県だ。
「運転手さん。埼玉から来たんですか?」
「おうよ。つーか、関東近県の砂利トラに声が掛かってるよ。自衛隊じゃ手が回らないから運んでくれとさ」
現場はここ246だけじゃない。明治通り、山手通り、あちこちで戦闘が行われている。
ここと同じような光景があちこちで繰り広げられているのだ。
「あれ? 普通の二トン車や四トン車はないんですね? なんで砂利トラばっかり?」
「それよ。普通のトラックは血の臭いがつくから魔物の死体は載せられないって断られたんだとよ」
「ああー。砂利トラは良いんですか?」
「まあ、洗えば大丈夫だろ。薬剤ぶっかけりゃ臭いも消えるさ」
「そっか。運転手さん、ありがとう。運んでくれて助かるよ」
「おう! 運ぶのは任せとけよ! どんどんぶっ殺せ! じゃあ、行くわ!」
「「ご安全に~」」
パンチの運転手さんは、ニカッと笑うとトラックに乗り込み、風呂でゆであがったようなオーガをそのままに走り出した。
俺とモッチーは、その様子を見て腹を抱えて笑いながらトラックを見送った。





