第46話 日本の鉄と異世界の鉄
エイホックさんの家からの帰り道。
俺はダンジョンの中でリヤカーを引く。
リヤカーの中には、エイホックさんから受け取った剣や槍など装備品で一杯だ。
上原さんは機嫌が良い。
「上原さん。ご機嫌ですね」
「ええ、これは私の実績になりますから!」
上原さんはリヤカーに満載されている装備品を見て微笑んだ。
なるほど、上原さんの評価が上がるんだ。
それで機嫌が良いのか。
俺は気になったことを上原さんに質問してみた。
機嫌の良い今なら怒られないだろう。
「上原さん。ちょっと気になったんだけど。エイホックさんが言っていた上原さんの依頼って何?」
「ああ、あれはですね。日本の鉄で剣を作ってくれと頼んだんですよ」
俺は上原さんの依頼の意味がわからなかった。
日本の鉄で? わざわざ?
「え? 剣ならリヤカーに沢山ありますよね? エイホックさんの倉庫にもまだ沢山あったけど?」
上原さんは、チチチと人差し指を左右に動かす。
「異世界の鉄で作った剣と日本の鉄で作った剣を比較したいんです」
「えっ? 鉄は鉄じゃ……」
「いえ、専門家によると鉄といっても品質があるそうです。理論上は日本の鉄の方が、品質が良いそうです。製鉄所で生産するから一定の品質が保たれます。ですが、異世界だから何か私たちの世界にない物質が入っていて、高品質な鉄になっている可能性もあります。だから比較するんです」
「そんなことを考えてたんだ……」
俺は上原さんの説明を聞いてビックリした。
剣は剣、鉄は鉄と単純に考えていた。
上原さんは、さらに詳しく話してくれた。
「冒険者ギルド内では、もっといろいろ考えてますよ。エイホックさんの剣と日本製の剣の違いを科学的に調べてみようとか。日本製と異世界製、どっちが良い物なのか多角的に検証します」
「うーん! 俺たち冒険者からすると安くて使い勝手の良い装備がありがたいけどね」
「そうすると、日本製の剣ですね。製鉄所で鉄を生産して、機械を使って剣を打ち研磨しているので、大量生産でコスパが良いです。でも、冒険者として成長すればエイホックさんが鍛えた名剣の方が良いかもしれません」
「確かにね! 属性剣なんて日本じゃ作れないよね!」
「ええ。私個人の予想ですが、初心者冒険者向けの装備は日本製で、上級者向けはエイホックさんたち異世界の鍛冶師が鍛えた装備になるのかなと思います」
エイホックさんの剣は、そのうち手に入らなくなるかもしれないな。
「俺とモッチーはラッキーだったね」
「超ラッキーですよ!」
上原さんは他にも状況を教えてくれた。
政府が動いていて、異世界の領主と交渉を持とうとしているそうだ。
ただ、通貨の交換レートをどうするか頭を悩ませているらしい。
日本の通貨は、紙の通貨や電子通貨だ。
一方で異世界の通貨は、金貨や銀貨だ。
紙の通貨と実物の金や銀を使っている通貨では、なかなか交換レートを決めるのが難しいだろうと政府は考えている。
なので、しばらくは物々交換になりそうだと。
「ふーん」
「狭間さん。話の半分も分かってないでしょう?」
「いや、分かってる! 分かってるよ!」
「本当ですか?」
上原さんがジットリと俺を見る。
いや、わかっているけどね。
でも、上原さんほど深くは理解してないと思う。
「考えるのは上原さん。体を動かすのは俺。それで良いでしょ?」
「はいはい、そうしましょう」
俺と上原さんがじゃれ合うような会話を続ける。
平和で良いな。
コツンと俺の背中に小石が当たった。
モッチーだ。
『ゴブリン!』
モッチーの持つホワイトボードに書かれていた。





