第37話 魔石! 魔石!
二階層の初戦は無事に終了した。
いや、無事というよりは余裕、瞬殺といって良いレベルだった。
望月さんの魔法は、威力、精度ともに十分だ。
俺は強力なパートナーを得たことに気を良くし、ルンルン気分で歩き出した。
すると俺の背中にコツンと何かが当たった。
振り向くと、望月さんが血相を変えて、何かを投げようとしている。
俺の足下を見ると草の中に小石が落ちていた。
どうやら望月さんが、俺に小石を投げたようだ。
何か伝えたいのかな?
「望月さん。何かありましたか?」
俺は望月さんと距離を保ったままちょっと大きめの声で問いかけた。
すると望月さんは、背中に背負っていたリュックから小さなホワイトボードを取り出した。
100円ショップで売っているようなホワイトボードだ。
マジックで何やら書いて、俺にホワイトボードを見せた。
ホワイトボードには赤字で、『魔石!』と書かれていた。
魔石……? 何のことだろう……?
俺が首をひねっていると、望月さんはホワイトボードを放りだして何やらジェスチャーを始めた。
草むらに座り込み、ナイフを取り出して、何かを切り裂いている。
さっぱりわからない。
「望月さん。何のことですか?」
俺が問いかけると、望月さんは天を仰ぎ頭を抱えた。
どうやら俺は重要なことを忘れているらしい。
望月さんが、またホワイトボードに書き込んでいる。
『上原さん!』
続いて望月さんがホワイトボードに書き込む。
『魔石!』
上原さん、魔石?
また、望月さんがホワイトボードに書き込んだ。
『回収!』
俺は望月さんのメッセージを継ぎ合わす。
上原さん……?
魔石……?
回収……?
あっ! そうだ!
上原さんに『魔石を回収しろ!』と注意されたんだ!
俺は頭をかきながら望月さんに手を上げて返事をした。
「オッケーです! ゴブリンの魔石を回収します! ありがとうございます!」
イカン! 忘れてたよ!
俺は腰のナイフを使ってゴブリンの体内から魔石を回収する。
作業をしながら考える。
冒険者パーティーを組むのに、特にスキルであるとか、魔法であるとか、手続きはいらない。
一緒に戦闘を行えば、いわゆる経験値が戦闘に参加した者に入る。
色々と検証が行われたそうだが、近くにいれば経験値が入るそうだ。
経験値といっても、明確に数値化されているわけじゃない。
自衛隊や冒険者が何度も戦闘を行って、戦闘の結果を取りまとめて分析した結果、経験値らしきものがあるらしいと推測されているのだ。
それで、ゴブリンを倒して得られる経験値が10とする。
一人でゴブリンを倒せば経験値は10得られる。。
二人でゴブリンを倒せば経験値は、それぞれ10ずつ得られる。
二等分で5ずつじゃないんだな。
経験値から見るとパーティーを組むメリットはあるし、人数の多いパーティーの方が安全確実だ。
だが、収入で考えると、人数の多いパーティーは考え物だ。
得られた魔石の売り上げを、戦闘に参加した人数で割る。
だから階層の難易度に合わせて適切な人数でパーティーを組むとか、パーティーの戦力と稼ぎのバランスを考えて適切な階層に潜るとか、色々考えなくてはならないらしい。
俺は考えるのは苦手なんだ。
その辺は上原さんに丸投げしよう。
俺は二匹のゴブリンを解体して魔石を二つ回収した。
振り向いて望月さんに声を掛ける。
「望月さん。終りました。いや~危ない、危ない。魔石の回収を忘れて、また上原さんに叱られるところでしたよ。あー……」
「オロオロロロロロ」
望月さんは吐いていた。
あー、戦闘中のグロは大丈夫だけど、戦闘が終るとグロNGになる人なのね……。
俺は望月さんが落ち着くまで、大人しく待った。
次の戦闘では、解体が終るまで後ろを向いてもらおう。





