第36話 二階層の戦闘:ゴブリン二匹
俺は望月さんと新宿西口ダンジョンに入った。
駅前に設置されたゲートをくぐり、ダンジョンの入り口を通る時に二階層と念じる。
すると、一瞬グラリと平衡感覚がなくなり、ダンジョンの中にいた。
一階層から上がってくる階段が、すぐそばにある。
無事二階層に転移出来た。
俺が周囲をキョロキョロ見回していると、望月さんも転移してきた。
すぐに俺と距離をとる。
『ササッ!』
という擬音が聞こえそうな勢いだ。
俺は苦笑しながらも、内心仕方ないと望月さんの行動を受け入れる。
別に俺を嫌っているわけではなく、人見知りだから距離を取っているだけだと理屈がわかっているので腹は立たない。
「じゃあ、出発しまーす!」
俺は振り返って、五メートルくらい後ろにいる望月さんに声を掛けた。
望月さんは、『コクコク』とうなずいている。
俺は二階層を歩み始めた。
二階層のボス部屋が正面奥にあるので、ボス部屋がある方向へ歩く。
二階層も一階層と同じフラットなエリアだ。
所々に丘や林があるが見通しは良い。
これなら魔物から奇襲を受ける心配はない。
二階層の魔物はゴブリンが二匹出現する。
一階層は一匹だけだったので、敵の戦力は倍になっている。
さらにゴブリンが手に持つ武器が変化する。
棍棒、ナイフ、剣、槍を持っているのだ。
持っている武器はランダムなので、ゴブリンと遭遇してから臨機応変に対応する必要がある。
ナイフ、剣、槍は、ボロイそうだ。
ナイフや剣は錆びや刃こぼれしていて切れ味は悪い。
槍は、木の槍で先端を尖らせただけ。
このあたりの情報は、神宮司君が作ってくれたサイトに書き込みがあった。
情報共有が非常にありがたい。
俺は心の中で神宮司君や描き込んでくれた冒険者たちに感謝した。
歩いているとすぐにゴブリンと遭遇した。
武器は、『棍棒、棍棒』の組み合わせだ。
俺は内心ホッとする。
切れ味が悪いとはいえ、やはり刃物は怖い。
もちろん棍棒も危険だがパワー勝負になるので、俺との相性は良いと思う。
俺は振り向いて望月さんを確認した。
望月さんは表情がキリリとして、ゴブリンをにらみつけている。
(おっ! やる気一万パーセントモードだ!)
俺は望月さんを頼もしく思う。
すぐにハンドサインを出す。
『俺は左をやる』
『了解』
俺と望月さんが手早くハンドサインを交換すると、ゴブリンたちも俺たちに気が付き声を上げた。
「ギギ!」
「ギー!」
多分、『この野郎!』、『ぶっ殺す!』とか威嚇しているのだろう。
うるさいから、さっさと倒してしまおう。
俺は背中に背負っていた荷物を下ろし身軽になると、ダッシュでゴブリンに接近した。
俺が急接近したことに、ゴブリン二匹は驚いている。
まず向かって右のゴブリンにケリを見舞って転倒させた。
続いて左のゴブリンにショルダーチャージをぶちかます。
ゴブリンが棍棒をつかんだまま、宙を泳ぐ。
追撃!
俺は左のゴブリンが地面に倒れると同時に組み付いた。
「ふん!」
ゴブリンのクビをねじ折る。
「ギ……」
ゴブリンは小さく鳴いて絶命した。
残りは右のゴブリンだ。
右のゴブリンは俺のケリが効いたのか、棍棒を杖にしてヨロヨロと立ち上がっている。
「ウインドカッター!」
望月さんの鋭い声が聞こえた。
ほぼ同時に『ザシュッ!』と音がして、右のゴブリンの首が切断された。
「おお! 凄い!」
俺は望月さんの風魔法の手並みに感嘆した。
望月さんは、四メートルくらいの距離に近づいて魔法を放っていた。
魔法の射程距離は三メートル前後と上原さんが言っていたので、四メートルは射程距離が長い方だ。
さらにゴブリンの首にウインドカッターを正確に命中させて一撃で切り落とした。
コントロールも良い!
望月さんは、優秀な魔法使いだと思う。
これは頼もしいパーティーメンバーをゲットしたなと俺は小躍りした。
俺は親指をグッと立てて、望月さんに笑顔を向ける。
「望月さん! ナイスです! 凄い魔法ですね!」
すると、望月さんは『アセ! アセ!』といった様子で、俺から距離を取った。
俺は望月さんの行動にちょっと苦笑いしたが、最初の戦闘が非常に順調なことに満足した。





