第34話 極度の人見知り
上原さんから新メンバーを紹介された。
望月弥生さんだ。
しかし、望月さんは机の下で怯えている。
俺は対応に困り、とりあえず着席を促す。
「あの……こちらの席に座って下さい」
俺が声を掛けると、望月さんはビクンと反応し、素早く立ち上がるとロビーの隅へ移動した。
柱越しに俺の方を見ている。
「ええと、上原さん。望月さんは、どういった人なんですか? あの反応では一緒に冒険するのは難しい気がしますけど?」
「望月さんは、極度の人見知りです」
「人見知り?」
「はい。ですので、冒険者パーティーに加入してもなかなか定着しないんです」
そりゃあんな態度じゃパーティーメンバーも困るだろう。
俺がウーンと考えていると、上原さんのスマートフォンがブルブルと振動する音が聞こえた。
上原さんがスマートフォンを取り出し操作する。
そして上原さんは無言でスマートフォンの画面を俺に見せた。
メッセージアプリの画面で望月さんからのメッセージが表示されている。
『狭間さん。申し訳ありません。初対面なので緊張しました』
どうやらメッセージアプリなら会話が成立するようだ。
俺は上原さんにお願いしてメッセージを返してもらった。
『大丈夫です。上原さんから極度の人見知りだと聞きましたが、パーティー組めそうですか?』
『やる気一万パーセントです!』
物凄く前向きな返事が来た。
ロビーの隅にいる望月さんの方を見ると、さっと柱の陰に隠れてしまった。
とても不安だ。
俺は上原さんに確認する。
「上原さん。望月さんは、コミュ障ってやつでは?」
「いいえ。コミュニケーション障害ではありません」
「男性恐怖症とか?」
「いえ、いえ。本当に人見知りなだけなんです。私とは普通に会話できるようになっています」
「そうなんですか!?」
上原さんによれば、接触回数が増えると望月さんの距離が近くなり最終的に普通に会話できるようになるそうだ。
これまで望月さんと冒険者パーティーを組んだ人たちは、望月さんが慣れる前に望月さんをクビにしてしまったそうだ。
「うーん、それは望月さんをクビにした人たちを責められないですよね……」
「そうなんですよ。私の場合は冒険者ギルドの受付なので、望月さんと嫌でも顔を合わせるので。メッセージアプリで何度も話したら慣れてくれたんです」
俺は望月さんの怯えた表情を思い出す。
あの状態から、よく普通にコミュニケーションがとれるところまで持って行ったなと上原さんの粘り強さに感心する。
「対面でもアプリでもコミュニケーション回数を増やすと良いみたいですよ」
「何だか矛盾しているような……」
俺にどうしろと?
望月さんとパーティーを組む。
やるか、やらないか、俺が迷っていると上原さんが望月さんをプッシュし始めた。
「望月さんは魔法使いで、風属性の魔法が使えます。彼女のウインドカッターは射程が長く、威力もあります」
「戦力としては優秀なのか……、うーん……」
「そうです。それから狭間さんのことを高く評価しています」
「俺を?」
「はい。西新宿の首折り魔って二つ名が凄いとか、魔法使いと前衛職のハイブリッドで凄いとか、色々言ってましたよ」
「おお!」
俺の気持ちがグググン! と上がった。
「それに狭間さんと望月さんは境遇が似てるんですよ」
「境遇が似ている?」
「望月さんは、就職活動をしたけど上手く行かなかったんですよ。頑張ったけど人見知りだから面接が上手く行かなくて」
「あー!」
想像がつく。
面接会場でガタガタ震えていたんじゃないだろうか。
「それで派遣会社に登録して働こうとしたそうですが、派遣先で上手くいかなくてすぐクビに」
「あ~!」
これも想像がつく。
初めて入った現場でコミュニケーションがとれず、派遣先の社員さんを怒らせてしまう涙目の望月さんがイメージ出来た。
胸が痛い。
本人にはやる気もあって、努力もしているけど、どにもならなかったのだろう。
(どうにもならないことってあるよな)
俺は望月さんが、もう一人の自分のような気がしてきた。
俺だって何かの拍子に人付き合いが嫌になって、望月さんのように人と距離を取るかもしれない。
他人事と思えなかった。
上原さんが続ける。
「ですので、狭間さんが面倒を見て下さい」
「わかりました。望月さんと活動してみます」
俺は望月さんを受け入れた。





