第25話 ドワーフの鍛冶場
俺たちはダンジョンから見えた村に到着した。
村の名前はヨッコ村で、どうやら日本とは違う世界――異世界の村らしい。
だが、言葉は通じるので、調査隊の面々は早速動き出した。
まず自衛隊の隊員二人が報告に引き返す。
そして自衛隊の隊長吉田さんが、村長さんと話し出した。
俺は手持ち無沙汰になり、ドワーフのエイホックさんに話しかけた。
「ねえ、エイホックさん。ドワーフってことは、やっぱり鍛冶師なの?」
俺はマンガの知識で質問をしてみた。
俺のそばで冒険者ギルドの上原さんがなぜか頭を抑えている。
なぜだ? ドワーフといえば鍛冶師だろう!
エイホックさんは、ニカッと笑った。
「おう! 鍛冶師だ! 俺たちドワーフは鍛冶場で産まれ、鉄を鍛える槌の音を子守歌にして育つからよ! 生粋の鍛冶師よ。まあよ。見たとおりじじいだが、これでもちょっと有名なんだぜ!」
「へえ! それは凄いね! 名工ってヤツだね!」
「そうそう! ガハハ! さて、そろそろやるか……」
エイホックさんは、腕をぐるりと回した。
エイホックさんの目つきが変わった。仕事をする男の目だ。
鍛冶仕事をするのだろう。
エイホックさんが家に入って行こうとするので、俺はエイホックさんの逞しい背中に声を掛けた。
「ねえ、エイホックさん。鍛冶仕事を見ても良いかな?」
「好きにせえ。邪魔するんじゃねえぞ」
エイホックさんは振り向きもせず家に入っていった。
「おお! ドワーフの鍛冶が見られる!」
俺が興奮してエイホックさんの後を追うと、上原さんがついてきた。
「ちょっと、風間さん! 図々しいですよ」
「良いじゃないッスか。ドワーフの鍛冶仕事なんてアニメの世界ですよ! 上原さんも見てみたいでしょう?」
「まあ、冒険者ギルドとしては、有力な武器が手に入るかもしれないから見てみたいです。村長さんは自衛隊の吉田さんと話しているみたいですし」
「上原さんは村長さんと話さなくて良いの?」
「まずは国レベルの交渉をしてもらわないと。多分、おっつけ外務省から職員が来ると思います。私の出番は外務省の後ですね」
「うわ! 面倒臭い!」
俺は口を歪める。
せっかく異世界なんて素晴らしいシチュエーションなのに、色々制限がついて行動しづらいなんて!
上原さんが気の毒だ。
上原さんは澄ました顔で答える。
「まあ、国レベルの交渉は国に進めていただくとして……。民間レベル、特に個人レベルであれば、取り引きをしても問題ないのですよ」
「そうなの?」
「今は規制が何もない状態ですし、関税なんかもありません。今のうちに先行して取り引きをしてしまった方がお得になる可能性があります。ということで、行きましょう!」
上原さんは、俺を引っ張ってエイホックさんの家に入った。
どうやら、上原さんは今の状況を最大限に利用するようだ。
頼もしい!
エイホックさんの家の扉を開けると、広い土間になっていた。
土間の奥に赤々と火が燃えている。
炉だ! ここで鉄を鍛えるのだろう。
エイホックさんは炉の前に陣取り、左手に鋏、右手に槌を持ち鍛冶を始めた。
エイホックさんが鋏で挟んだ金属を炉に突っ込む。
見る見るうちに金属が赤く変色する。
見るからに熱そうだ。
やがてエイホックさんは、金属を炉から取り出し右手に持った土でトンカントンカン叩きだした。
俺は小声で上原さんに話しかけた。
「これが鉄を鍛えるってヤツだね」
「凄いですね……。初めて見ました。冒険者ギルドに武器を提供している日本のメーカーだと機械を使っているので、こういう職人技は感動しますね」
「うん。凄いよね」
俺はしばらくエイホックさんの仕事を眺めていたが、飽きてしまって土間の中を観察し始めた。
土間の壁には色々な物が吊るされている。
鍛冶道具もあれば、剣や槍もある。
入り口近くにはテーブルと樽が置いてあって、無造作に武器防具が置かれていた。
鎌や包丁など農具や日用品も置いてあった。
「ふう。ちと休むか。茶でも入れるかのう」
エイホックさんが、鍛冶仕事を一段落させてお茶を淹れだした。
無骨な鉄瓶から、これまた素っ気ない木のカップにお茶が注がれる。
俺と上原さんに、木のカップが差し出された。
エイホックさんのゴツゴツした手で差し出されたお茶をいただくと、なかなかの味だ。
「これ、美味しいッスね!」
「本当ですね! スッキリした味で飲みやすくて好きです!」
上原さんも気に入ったらしい。
エイホックさんが嬉しそうに笑った。
「そうかい。旨いか。この近くで採れるハーブの茶だ。疲れがとれるのさ」
「「へ~!」」
エイホックさんのハーブティーを飲んでいると、何だか体がぽかぽかしてきた。
「エイホックさん。私は冒険者ギルドの上原と申します」
「ほう。ギルドの職員さんかい。剣でも何でも買っていってくれよ」
上原さんの目がギラリンと光った。
上原さんがエイホックさんと、色々話し出した。
エイホックさんの専門は武器や防具だが、村人のために包丁や農具の鍛冶もやっているそうだ。
エイホックさんとしては、ご近所付き合いの親切でチョイチョイと作っている感覚らしい。
エイホックさんが取り扱う金属は、銅、鉄、鋼、ミスリル、オリハルコン。
俺はエイホックさんの言葉に興奮した。
「ミスリルやオリハルコン! スゲエ!」
「まあ、オリハルコンは滅多に手に入らん。ミスリルはこの近くで鉱石が採れるから、打つことがあるぞ。ほれ、そこの壁に飾ってある剣がミスリルの剣だ」
「「へ~!」」
「まあ、正確には地金は鋼だ。刃と一部にミスリルを使っとる」
「ミスリルというと魔力を通す?」
「そうだ。魔法剣士が使う剣だな。もっとも魔法剣士は少ないから、壁の花になっちまってる」
「「ほお~!」」
俺と上原さんは、エイホックさんの説明に感嘆する。
ミスリルなんてファンタジックな金属が実在して実用化されているとは!
異世界凄いな!
俺はふと思いついた。
エイホックさんに俺のスキルやジョブを相談したら何か良い武器を作ってくれるのでは?
とはいえ、タダで相談にのってくれるとは限らないので、俺はエイホックさんのご機嫌を取るために持ってきた荷物の中からチョコレートを取りだした。





