039 最後の最終戦
エリカと交代してグラウンドの中央に出たマリナは、百合華学園の弥生モモカと相対した。
(神峰先輩、力押しでって言ってたってことは、オーキス・ブースターのこと知ってるんだよね。知ってるって言うか、気付いてる。まあ、先生たちにも気付かれたし、今日も力任せに闘ってたのを見れば、判るよねぇ。まあ、いいや。とにかく今は、相手に集中)
ミコトの言葉の裏を推測していたマリナだが、位置に立つと気持ちを切り替えて、前に立つモモカを観察する。
モモカの棍は中央がやや細く、両側は太くなっており、取り回しと攻撃力を兼ね備えるための造りになっている。
(あまり仕掛けがあるようには見えないけど……伸びるくらいはするかも)
マリナは槍を構え、予想する。
マリナの槍からは、オーキス・リアクターと超伝導スラスターのユニットを外してある。そのため、それらを装着した状態よりも取り回しやすいものの、超伝導スラスターを使ったトリッキーな攻撃は不可能だ。
武器の重量は、見た目だけでもモモカの棍の方がある。オーキス・ブースターを使って電磁シールドの出力を上げても、アレで殴られては無傷ではいられないだろう。
エリカとナノカの対戦と同じく、開戦の合図は副崎ネリイが務めた。空に向けた銃口から、レーザーの射線が伸びると同時に、マリナとモモカは同時に相手に突っ込んだ。2人とも、突きで相手の胴を狙う。
片や穂先の鋭い槍。
片や重量のある棍。
どちらも直撃すればただでは済まないことを理解している2人は、身体を捻って相手の攻撃を避けつつすれ違う。
ザシュッと足を踏み締めて前進を止め、振り返って棍を構えるモモカ。それに対し、マリナは振り向きざまに槍を大きく振り、攻撃に繋げる。その位置での攻撃はモモカには届かない、と思われたが、マリナは一瞬だけ超伝導スラスターを起動、槍を振りつつ間合いを狭める。
槍先がモモカの横腹に届くと見えた瞬間。
ギィンッ。
モモカは辛うじて、棍でマリナの槍を受け止めた。マリナはすぐさま槍を引き、間髪入れずに連続攻撃。モモカは、突かれる槍先を棍ですべて防ぐ。2人の間に火花が散る。
マリナの攻撃を完全に防いでいるモモカだったが、少しずつ焦りが混じる。マリナの攻撃を防ぐのに手一杯で、攻撃に転じられない。その上、1撃1撃が重い。
このままマリナの攻撃を防ぎ続けていては、槍が胴体に届く時までそう遠くない。電磁シールドはあるが、防ぎ切れるか判らない。
(ここは一旦、距離をっ)
モモカはマリナの槍が真正面に来たタイミングで、棍を縦にしてまっすぐに受け、マリナの攻撃の力も使って後方に跳ぶ。
距離を取られたマリナは一旦攻撃の手を止める。モモカは間髪を入れずに、自ら取った距離を一気に縮め、マリナに向けて棍を振るう。電磁シールドで弾くといっても、大質量の攻撃は弾く前に身体に届く。それを理解しているマリナは、振るわれる棍を避ける。
モモカは続けて棍を振り、マリナはひたすらに避ける。嵐のように振り回されるソレに、掠るくらいならともかく、当たったら致命的だ。槍で受けても、破壊されるか吹き飛ばされるのがオチだろう。
しかしマリナもこの攻撃を甘んじて受け続けるわけもない。モモカが棍を振り上げようとした瞬間に体勢を落とし、超伝導スラスターを起動、地を這うようにモモカの足元を抜け、すれ違い様に槍で足を薙ぐ。
バシュッ。
「くっ!!」
モモカは体勢を崩すものの、倒れずに踏みとどまる。マリナは身体を反転させつつスラスターも使って起き上がり、無防備となったモモカの背中目掛けて槍を突く。
マリナの殺気を感じたのかどうか、モモカは前方に転がって槍の攻撃を躱した。
立ち上がりざまに振り返ったモモカは、振り下ろされる槍を棍で受け止める。
ギギャンッ。
マリナはモモカを力で組み伏せるべく、腕に力を込める。モモカも押し返そうと力を入れるが、押し返せない。そればかりか、マリナの力の強さに片膝をつくことになる。
(なんでっ!? こちらの方が、リアクターの出力は上のはずっ!)
しかし現実は完全にマリナに力負けしている。このまま力比べを続けても分が悪いと判断したモモカは、瞬間的に力を抜くと同時に超伝導ブースターを起動、一気に後方に跳び退き、さらに上空へと飛び上がる。
(飛んだ? そう言えば、飛空船から降りて来る時、スラスターで降下速度を調整してたかな。でも、空ならこっちだってっ)
マリナも背中の超伝導スラスターを最大展開、ジャンプすると同時に起動してモモカに迫り、考える暇を与えない。
「なっ!?」
迫り来るマリナに対し、モモカは棍を構える。マリナは槍を構えてモモカに突進、攻撃を加えつつすれ違っては急反転、連続してヒットアンドアウェイで攻撃を加える。
(こんなに自由に飛べるなんて、聞いていませんっ)
モモカは内心で悪態をついたが、それは自身の情報収集不足を認めることに他ならない。マリナは、バトルロイヤルにてかなりの距離を飛行して見せているのだから。
空中に留まっても不利と判断したモモカは、マリナの槍を受け流すのと同時に超伝導スラスターを切って垂直降下、着地前にもう一度スラスターを起動して軟着陸した。マリナも少し離れた場所に着地する。
「実力差は歴然ですよね。降参してくれると、楽なんですけど」
マリナがモモカに言った。実際のところ、2人の実力にそれほどの差があるわけではない。訓練期間が長いこと、実戦を経験済みだったこと、そしてオーキス・ブースターによるアドバンテージがあったから、多少は優位に闘いを進められていただけだ。
それでも、マリナの方が多く攻め手に立っていたから、傍目には大きな実力差に見えただろう。
「そうはいきませんわっ」
言うなり、モモカはマリナに向かって棍を構え、跳び込んでいく。マリナはモモカの棍を受け流すべく、槍を構える。
2人の距離がまだ互いの間合いに入るよりかなり前、モモカは棍を勢い良く振った。明らかなミス、とマリナだけでなく周囲で観戦している生徒たちも思った。
しかし。
ドシュッ。
「えっ!?」
モモカの振った棍がマリナを向くのと同時に、棍の先が勢い良く飛び出しマリナに迫る。マリナが槍で棍の先を弾き飛ばす。その時には、彼女の眼前に棍を振りかぶったモモカが迫っていた。
「はっ!!」
振り下ろされる棍を間一髪躱すマリナ。モモカは、ワイヤーで繋がった棍の先を引き、鞭のようにマリナに飛ばす。横から迫る重量のある棍を、マリナは前に跳んで避ける。さらに身体を低くし、ワイヤーをくぐってモモカに急接近。モモカは片手で手にした棍を振り下ろすが、勢いのないその攻撃をマリナは難なく躱す。
下から振り上げた槍を、身体を仰け反らせて躱すモモカ。マリナはさらに一歩踏み込んで槍を振り下ろす。モモカは棍で受けるが、マリナの槍の勢いを殺しきれない。
「くうっ!」
マリナの槍はそのままモモカのフェイス・プレートを直撃した。モモカは仰向けに倒れる。
マリナはここぞとばかりに槍先を開いてモモカの首に突き立て拘束する。さらに、モモカの手を踏み付けて棍を手放させる。
「くっ」
「降参してください。くれますよね?」
「何をっ……まだよっ。ぐはっ!!」
マリナはモモカの腹を力一杯踏み付けた。電磁シールドがあっても、上から踏み付けられては弾けない。いや、小質量の物なら弾けるが、人の身体は無理だ。
「く、くぅ、負けを、認めます……」
モモカの言葉に、マリナは足を退かし、槍を引き抜いた。
「先輩、勝ちましたっ」
マリナはミコトを振り返り、槍を天に突き上げて勝利を報告した。




