表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装戦姫スクランブル  作者: 夢乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/41

037 終盤へ

 マリナは、百合華(ゆりはな)学園の生徒2人を相手取って、防御に徹して凌いでいる。振り下ろされる剣を弾き、突かれる槍の軌道を逸らす。相手の2人は連携があまりとれていないので、何とか凌げている状態だ。そうでなければ、リアクター出力の高い2人を相手に、闘い続けることは無理だろう。


(あたしたちも連携はあんまり取れてないけどねっ)

 内心でそう考えつつ、マリナは振り払われた相手の槍を跳ね上げつつ後退する。

 正直に言って、剣士1人を相手にしていた時よりも、槍士と合わせて2人を相手にした方が、マリナにとっては御し易かった。それだけ、2人が連携を苦手としているということだろう。そもそも、いきなりの戦闘なのだから、それも無理はない。訓練期間は取ったのかも知れないが、実戦経験は今日が初めてだろう。

 対して、井久佐野(いくさの)高校の生徒たちは、約2ヶ月間の訓練期間に加えて2週間弱の実戦経験を積んでいる。その差がなければ、井久佐野高校はすでに敗北していただろう。


 袈裟斬りに振られる剣を、後ろに跳んで躱す。

 闘いながら、マリナは少しずつ戦場を移動している。1人になられた方が厄介なので、2人から離れ過ぎて1人が戦線から離脱しないように誘導しながら。相手はマリナの思惑には気付いていないらしく、狙いを別の生徒に変える様子はない。


 マリナが相手を誘導している目的は、戦場の移動ではなかった。マリナは相手2人を誘導しつつ、コトナが作った岩の柱の1つに辿り着く。

 センサーで近くに敵がいないことを確認し、即座に岩の陰に回り込んで、追って来た2人の視界から姿を隠す。

 すぐに槍からオーキス・リアクターと超伝導スラスターユニットを取り外し、背中に装着、リアクター出力を絞ってオーキス・ジェネレーターをブースターモードへ移行。これでマリナのアーマードギアの出力は、最高12.5GWにもなる。そんな暴れ馬のような出力は扱い切れないので、マリナもそこまで使うつもりはない。


 オーキス・リアクターの出力を10%に上げ、エネルギーの80%を防御に回す。そして隠れた時とは逆側から、岩の柱の前に飛び出す。

 目の前に剣と盾を持った相手がいた。センサーで捕捉していたので慌てはしない。すぐさま槍を突いて攻撃、相手もマリナが岩を回り込むことを予想していたらしく、盾を構える。

 マリナの槍は盾で受け流され、相手は剣を振り下ろす。マリナはそれを、まともに肩で受けた。


 バシュッ。

「えっ!??」

 相手の剣が、マリナの電磁シールドに弾かれる。何しろ先ほどまでとはエネルギー出力が桁外れだ。相手がこちらの『規格』の2倍や3倍の出力を持っていたところで、勝負にならない。大槌のような重量のある武器を持ち出されたらその限りではないが。

 マリナは驚きで動きを止めた相手に対し、片手を支点にして槍を回転させ、石突きで顎をかち上げる。


 バチッ。

「んあっ!」

 電磁シールドが反応したが、出力の上がったアーマードギアの攻撃の前では無意味だ。

 相手がふらついたところへ、さらに槍を振り下ろす。


「げふっ」

 ドゴッ。

 脳天を叩かれた相手は地に伏した。

 マリナは動きを止めることなく岩から離れて振り返る。槍を構えた相手が岩を回って現れ、マリナに向けて高速で槍を繰り出す。マリナは身体に直撃する攻撃を自分の槍で受け流し、身体を掠るコースの攻撃は、敢えて身体で受ける。ビシッ、バシッと槍が電磁シールドに当たる音が鳴る。


(くっ。シールドが強力過ぎるっ!)

 焦る百合華学園の生徒。


「こっちからもいくよっ」

 それまで相手の攻撃を受け、逸らすだけだったマリナが、反撃に移る。相手の槍の受け流しを続けつつ、相手の身体を狙って槍を突く。相手はマリナの手数に対応出来ず、ダメージを蓄積していく。


(こいつの方が出力は小さいはずなのにっ。なんでシールドがこんな厚いのっ。スピードも、速いっ)

(そこっ)

 相手が焦りを募らせる中、マリナは一際力を込めて槍を突き出した。


 ザジャッ。

「きゃあっ!!」

 マリナの槍先は、相手の電磁シールドを貫通して左横腹に突き刺さった。マリナが手を引いて槍を引き抜くと、傷口から血が噴き出る。マリナの大きな槍先に貫かれた割に出血が少ないのは、アーマードギアが傷を抑えているお陰だ。


「動くと出血で死ぬわよ。医療ロボットを待ちなさい」

 マリナは、膝をついた相手に言った。

 どの程度の怪我で死に至るのか、マリナには判らない。けれど、戦線離脱を促すためにも脅しを入れた。もっとも、そうしなくてもすでに戦意を喪失しているようではあったが。


 マリナは相手から視線を外すと、他の戦場に移るべく、背中の超伝導ブースターを展開、空中に飛び上がった。



 ××××××××××××××××××××××



 神峰(かみね)ミコトと弥生(やよい)モモカは激しく斬り結んでいる、モモカの武器は棍なので斬れはしないが。

 ミコトの2本の剣を、モモカは棍を振り回して弾き、隙を突いてミコトの身体を狙う。ミコトは相手の攻撃を躱し、あるいは剣で受け流す。武器の重量とギアの出力の違いで、棍をまともに受けたら剣は簡単にへし折れるだろう。

 それが解っているモモカは、力押しでミコトを攻めるが、決定打を与えられずにいる。有耶無耶のうちに乱戦に持ち込まれたものの、今は1対1で闘っているに等しいのに、勝ち筋が見えず、モモカは内心焦り始めている。


 対してミコトは、落ち着いてモモカの攻撃を往なしている。隙を見て加える攻撃は、棍で悉く弾かれる。アーマードギアで強化された攻撃に反応できるほどに視力はいいようだ。力では負けることは解っているので、無理はしない。

 高速で突き出され、振るわれる棍を、半身になって躱し、剣で受け流し、それを繰り返しつつ周囲の状況も探る。


 ミコトの見たところ、百合華学園の生徒で厄介なのは、このモモカの他には2人ほどだった。その内1人はすでに姿をが見えず、(わたくしの見る目もまだまだですね)と戦闘を続けながら自嘲する。センサーと視界の外にいるだけかも知れないが。

 ミコトは子供の頃から武道を嗜んでいたこともあり、相手の力量を見るある程度の目を持っていたが、それでも実戦経験はこの男子争奪戦しかないのだから、精度は知れたものだ。その彼女の目が強者と見たモモカが、ミコトの2本の剣を棍1本で凌いでいるのだから、ミコトの目もそれなりのものだろう。


 その2人が闘いを繰り広げる場に、小さな影が落ちた。それに気付いたミコトがバッとその場から跳び退く。モモカはチャンスとばかりに追い縋ろうとし、ミコトより一瞬遅く影に気付き、慌てて横に跳ぶ。


 ドゴッ。


 モモカが跳び退いた瞬間、彼女のいた場所に大きな槍の穂先が叩きつけられて地面を抉り、その槍の持ち主であるマリナがその場に降り立った。


「神峰先輩、横槍すみません」

「構わないわ。この方たちを排除できれば構わないから」

「ありがとうございます」

 マリナは槍を地面から抜いて構える。そこへ百合華学園の皐月(さつき)ナノカが剣を交差させて飛び込んで来る。マリナはすぐさま槍で剣を受け止め、押し返す。ナノカは後ろに跳び退ってモモカと並ぶ。


「ヤバいよ。もう私たちしかいない」

「嘘っ!? スペックはこっちが上のはずでしょっ!?」

「事実だから仕方ないよ」

 小声で話す2人の周りを、井久佐野高校の生徒が取り囲む。その数は全部で8人。16対16からここまで差がついてしまうとは、モモカは思ってもいなかった。井久佐野高校男子争奪戦の規約を調べ、オーキス・リアクターの出力が1MWに制限されていることを知り、その2.5倍の出力を持つリアクターを揃えて乗り込んだのだ。苦戦することはあっても、不利な状況になるとは思ってもいなかった。


「もう勝敗は決しているわよ。ここで降参してくれるなら、これ以上の無駄な闘いをする必要がなくなるのだけれど」

 ミコトが、モモカとナノカに対して言った。モモカは口を引き結ぶ。


「ナノカ、この人数を相手に、やれます?」

「勝てるか、って意味なら、判らない。勝つ気があるか、ってことならあるよ」

「その意気や良し、ですね」

 小声でナノカと話したモモカは、ミコトに向けて声を張った。


「勝負はまだ着いていませんわっ。わたくしたち2人で貴女方8人、平らげて差し上げますっ」

 モモカはミコトをキッと睨みつけた。


「そうですか。しかし、これ以上大規模戦闘を行うのも面倒です。こちらから2人出しましょう。2人を下すことができれば、貴女方の勝利を認めましょう」

「おい、いいのかよ」

 温情とも思えるミコトの提案に、大舘(おおたち)リツコが素早く近寄って囁く。


「ここまで勝ち残ってきた皆を、わたくしは信じていますから」

 ニコリと微笑んで、ミコトはモモカたちに視線を戻した。


「どうですか? 否でしたら、すぐに全員で掛かりますが」

「……いいでしょう。その提案、受けます」

 モモカにとって、いや、百合華学園の生徒にとって、この提案にデメリットはない。裏があるのでは、と勘繰ったが、8対2よりも2対2の方が有利に違いない。

 ミコトはウェイスプレートの奥で、口角を上げた。


「よろしいでしょう。それでは、茅吹(かやぶき)マリナさん、鷹喰(たかばみ)エリカさん、やっておしまいなさい」

「はい……はぁっ!?!?」

「ええっ!?!?」

 指名されるとは思ってもいなかったマリナとエリカから、驚愕の声が飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ