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武装戦姫スクランブル  作者: 夢乃


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36/41

036 激戦

「はっ」

 潮乃(しおの)アスミは大きな斧を振り抜いた。相手は跳び上がってその攻撃を躱し、振り被った大剣を落下しながら振り下ろす。

 アスミは後ろに跳び退る。アスミがいなくなった地面に叩きつけられる大剣。大剣を持った百合華(ゆりはな)学園の生徒はアスミの手に握られた斧の柄に、斧本体がなく、伸びている鎖を見た。


「っ!」

 アスミが両手で握った柄を思い切り引く。同時に柄から伸びている鎖が巻き上げられる。

 背後から勢い良く飛んで来る斧を避けようと、アスミの相手は足に力を入れる。しかしその力を解放する前に、背中を斧が急襲した。


「ぐうっ」

 ドサッと前のめりに倒れる百合華学園の生徒。しかしすぐに跳ね起きる。そこへアスミが斧を振り下ろしている。


 ドガッ。


 相手が半身になることで躱されたアスミの斧が、地面に突き刺さる。アスミはすぐに斧を引き上げようとするが、相手が振り下ろす剣の動きには一瞬間に合わない。

 アスミは咄嗟に斧から切り離した柄で剣を防ぐ。しかし重い大剣と高出力のオーキス・リアクターの力を受け止め切れず、地面に膝をつく。斧の柄を切断されなかったのは奇跡に近い。

 押し返すのは無理と判断したアスミは、柄で剣を受けたたま後退。柄と大剣が擦れて火花が散る。


 ズンッと目の前に落ちる大剣からさらに一歩跳び退ると同時に立ち上がり、アスミは両手で持った斧の柄を振り回す。鎖で繋がれた斧をモーニングスターのように振り回し、全周攻撃。今相手にしているのは正面の1人だけだが。

 リアクター出力に差があっても、回転力を乗せられた戦斧を叩きつけられては無事では済まない。百合華学園の生徒は剣を構えたまま、ジリジリと後退しつつ、隙を窺う。

 アスミも振り回す斧で相手を牽制しつつ、タイミングを計る。そして。


(ここっ)

 振り回されるアスミの斧の先が、ガシャッと回転して刃の向きが変わり、それによって少し伸びる。


 ガキッ。

「あっ!」

 伸びた斧の先が大剣の先に当たり、弾き飛ばす。アスミはすかさず両腕を上げ、斧の軌道を変えて上から相手に振り下ろす。

 鎖でリーチが伸びた重量のある斧が、ズドォッと重い音を立てて斧が再び地面に刺さる。相手は、アスミの攻撃を横に素早く避けていた。

 相手が剣を取り戻すうちに追い打ちを、とアスミは鎖を収納しつつ、地面に喰い込んだ斧を回収するために前に跳ぶ。しかし相手はアスミの思っていなかった行動に出た。


 跳ね飛ばされた大剣にチラリと目をやった百合華学園の生徒は、剣を取り戻しに行かずに鎖と柄を掻い潜ってアスミに肉薄した。


「っ!?」

 ドドドドドドドドドッ。

 アスミの身体に相手の拳が連続で叩き込まれる。アスミは斧の柄を使って攻撃を防ぐものの、防ぎ切れない。アスミは柄を握ったまま後ろへ飛び退く。収納しかけた鎖がジャラジャラと伸びる。

 相手は武器を取り戻そうとはせずに、アスミを追い縋って拳による攻撃を続行。アスミも鎖でが伸び切り、それ以上後退できなくなる。


(くっ!)

 不利を感じたアスミは、身体を沈めて相手に向けて転がる。手に持ったままの斧の柄、そこから伸びる鎖を相手の片足に絡み付ける。

 そのまま少し離れて柄を思い切り引く。


「あっ!」

 ドザッ。

 相手が俯せに倒れる。アスミはすかさず跳ね起き、柄を放り出して相手の背中に馬乗りになる。背中に装備されたオーキス・リアクターを両手で掴み、押し潰そうと力を込める。しかし、頑丈に作られたリアクターは、アーマードギアで握力を強化された手でも、握り潰せる物ではない。

 それなら、と力を込めて背中から引き剥がそうとする。相手もされるがままになっているはずもなく、両手を地面について身体を持ち上げる。

 出力の高いオーキス・リアクターを搭載したアーマードギアは、背中に跨ったアスミなど物ともせずに持ち上げる。アスミは両脚で相手の身体を掴み、片手で首を掴んで押さえ、リアクターを剥がしにかかる。


「このっ!!」

「これでっ!!」

 身体を起こした相手が後ろ向きに身体を倒してアスミを地面に叩きつけようとする。アスミは力いっぱいオーキス・リアクターを剥がし続け、そしてバリッと少しだけ剥がした。

 ドザッと2人は絡み合ったまま仰向けに倒れ、百合華学園の生徒の身体からは力が抜けた。

 アスミは足の力を抜き、上に乗った相手を剥がして横に転がし、身体を起こした。リアクターからのエネルギー供給がなくなっても身体を動かすこと自体はできるはずだが、動く気分ではないようだ。


 アスミは倒した相手のことは放っておき、すぐさま斧の柄を拾って鎖を相手の足から外し、鎖を収納しながら斧を回収した。



 ××××××××××××××××××××××



(押されているわね。ギアの性能はこっちが上のはずなのに)

 百合華学園の皐月(さつき)ナノカは、槍蔵(やりくら)キョウコの突いた槍を右手の剣で受け流し、住崎(すみさき)ユイの振り下ろした薙刀を左手の剣で弾きながら、全体の戦況にも目を配っていた。

 まだ決定的なほどに数に差ができているわけではないものの、戦闘不能となった生徒の数は明らかに井久佐野(いくさの)高校よりも百合華学園の方が多い。


 百合華学園の生徒たちを率いる立場でやって来た弥生(やよい)モモカにチラリと目を向けると、井久佐野高校の神峰(かみね)ミコトと1対1の激しい戦闘を行なっている。

 戦闘が長期になると、百合華学園の生徒の方が不利になる。オーキス・リアクターは井久佐野高校の生徒が使っているリアクターの2.5倍の出力があるが、高出力になるほど燃費が悪いというオーキス・リアクターの特性に足を引っ張られる。

 そのためにも、1対1で16戦を力で押し切る予定だったが、ミコトによって強引に乱戦に持ち込まれた上に、長期戦に持ち込まれる前に数まで減らされては、目も当てられない。


 キョウコとユイは、互いの行動を阻害しないようにナノカに対して攻撃を加えるものの、ナノカはオーキス・リアクターの出力を小さく抑え、最小限の動きで2人の攻撃をいなしている。

 このまま2人で攻撃を加えていても決定打には至らない、と考えた2人。互いにチラリと視線を見交わしたことで、同じ考えであることを確信する。


 キョウコが槍を連続で突き出す。その悉くをナノカは躱し、1本の剣で軌道を逸らす。薙刀を横薙ぎに振るったユイが、ナノカを中心に円を描いてキョウコの後ろに姿を隠す。キョウコの突きがさらに速度を増す。

 キョウコの攻撃は激しくなったものの、ユイからの攻撃がなくなったことで、ナノカは余裕を持って攻撃を捌く。

 キョウコの攻撃は、ナノカの頭部から太腿辺りまで、広範囲に及んでいる。アーマードギアの補助によって機関銃の連射速度よりも速いのではないかと見える連続攻撃を、ナノカは片手の剣だけでいなす。


(これだけ攻めても全力を出さないなんてっ)

 心の内に湧き上がりかける焦りに、キョウコは強い意志で蓋をする。これは1対1の闘いではない。

 キョウコの後ろから影が跳び上がる。もちろん、ユイだ。ユイはナノカの後方へと空中を跳び、薙刀を振り下ろす。しかし。


 バチンッ。


 ナノカの剣に難無く防がれた。


(なんなのよ、この人っ。おまけにまだ全力じゃないしっ)

 内心、ユイは毒付きつつも、キョウコと反対側から突き攻撃。ナノカはそれでも凌ぎ切る。


(いつまでもこうしているわけには、いかないわねっ)

 ナノカは抑えていたオーキス・リアクターの出力を一気に上げる。


「はっ!?」

「えっ!?」

 キョウコとユイは、自分の手から武器が消えたことに驚愕する。手が痺れている。次の瞬間、目の前からナノカの姿が消える。


「「っ!!」」

 ほとんど同時に、キョウコとユイのオーキス・リアクターが動きを止める。突然重くなったアーマードギアに、2人は膝を地面につく。


「お疲れ様。お2人はこれまでですね」

 キョウコとユイを見下ろして、ナノカが言った。がすぐにその場から跳び退く。

 どこからともなく出現した霧崎(きりさき)シノブが、両手に握った短剣を振り切った体勢で構えている。


「あなた、別の2人と闘っていませんでした?」

「もう仕留めたわよ。次はアナタねっ」

 シノブの姿が搔き消える。次の瞬間、振り返ったナノカがシノブの短剣を受け止めている。続けて繰り広げられる剣戟の撃ち合いに、キョウコとユイは(これは勝てないわね……)と自分たちの敗けを納得していた。


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