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武装戦姫スクランブル  作者: 夢乃


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35/41

035 一進一退

 ドガガガガガガガッ。


 拳と拳が打ち合わされる。


(くっそっ。力押しだと負けるっ。けど力押ししかできねぇっ)

 拳崎(けんざき)ジュリは内心焦りながらも、相手の拳を拳で撃ち墜とす。リアクター出力の違いでスピードも手数も相手の方が遥かに上。それでも辛うじて対等にやり合えているのは、2週間の実戦経験の差か。それでも、このままではジリ貧だ。


(1発、1発でいい、コイツの身体に入れられれば、何とか……一か八か、やるか)

 恐らく相手は、このままジュリを力と手数で押し切るつもりだろう。オーキス・リアクターの出力に2倍もの差があれば、単純な力押しでならば、多少の経験の差など時間で押し潰される。アーマードギアを纏っていても、肉体に疲労は溜まっていくのだから。あまり長引かせるわけにはいかない。

 大振りの拳に最小限の動きで自分の拳を合わせながら、ジュリは相手の隙を図る。


(ここっ)

 一瞬空いた相手の胸元。その瞬間を見逃さず、ジュリは左足で地を蹴り右膝を曲げて相手の顎を強襲。


(はぁっ!?)

 ずっと拳しか使っていなかったジュリが膝蹴りをかましてくるとは思っていなかった相手は、ジュリの攻撃を避けようと頭を反らす。体勢を崩し、バランスの崩れた中途半端な両手の攻撃は、ジュリにより難無く撃ち落とされた。それでも膝の軌道から頭部を逸らすことには成功する。

 しかし。

 ジュリは曲げていた膝を勢い良く伸ばし、相手の顎を蹴り上げた。


「ふがっ!」

 さらに、振り上げた足を振り下ろして踵落としによる追撃。


「げふっ!」

 スドッと地面に這い蹲る百合華(ゆりはな)学園の生徒。ジュリはすぐさま彼女に馬乗りになり拳を構えるが、相手はそれきり動かなくなった。

 強力な電磁シールドを纏っていようと、頭を上下に激しく揺さぶられたら中身までは無事ではいられない。おそらく脳震盪を起こした相手は、しばらく意識も戻らないだろう。

 ジュリは救護ロボットを呼び、立ち上がる。


 ピピッ。


 後ろから高速で近付くオーキス・リアクターに井久佐野(いくさの)高校の識別チップの反応がないため、アーマードギアが警告音でジュリに知らせる。ジュリはその場から跳び退き、両腕でガードを固めつつ振り返る。

 ジュリが完全に振り返る前に、彼女の身体は棍で身体が吹き飛ばされた。


「くうっ!」

 ジュリは片膝をついて着地、倒れることを避ける。そのジュリに、百合華学園の生徒が棍を連続で槍のように突く。

 ジュリは拳で棍の連撃を悉く弾く。先の太くなった棍と拳の応酬。棍の速度は拳よりやや遅く、ダメージを負っているにも関わらず、ジュリは先ほどの相手よりも余裕を持って敵の攻撃を撃ち落としている。しかし、リーチの差からジュリの拳は相手に届かない。


(くそっ、懐に跳び込めればっ)

 ジュリは相手の攻撃に対応しつつそのタイミングを計っていたが、相手の方が一手早かった。真正面に突き出された棍に拳を合わせた時、棍がガバッと6つに割れた。


「はぁっ!?」

 ジュリの拳は、分割された棍の中央に突き出た拳大の突起に当たり、それを砕いた。しかし棍の勢いは落ちることはなく、6分割された棍はジュリの身体をガッシリと掴む。


「くそっ」

「さよならっ」

 ジュリは自分を拘束する棍の先2本を掴んで引き剥がそうとするが、身体を固く掴んで離せない。そして相手の言葉と共に棍の先端が弾丸のように射出され、ジュリの身体はほぼ水平に宙を飛んだ。

 切り離された棍の根元には超伝導スラスターもあるらしく、ジュリを捕らえた棍の爪は速度を増して飛んでゆく。そして競技場の端まで行けば……。


「ぎゃあああああああっ」

 バチバチバチバチバチバチッ。

 競技場を覆う超強力な電磁シールドに背中から押し付けられたジュリの悲鳴が響き渡った。

 それほど時間がかからず、超伝導スラスターは電力を使い果たし、棍はジュリを掴んだまま地面に落ちた。アーマードギアの電磁シールドもあるので無事ではあるだろうが、動かない。いや、ヒクヒクと痙攣している。戦闘はもう無理だろう。




「よし。次ね」

 ジュリを仕留めた百合華学園の生徒は、背中に装備していた棍の先端を外して、手元に残っている本体に装着を始めた。背中にはもう1本、予備の棍がある。

 その作業中、2本のレーザーがその生徒を襲う。


「なっ!?」

 1発はアーマードギアの胴体に当たって電磁シールドで相殺され、もう1発は手にしていた棍の先部分に当たって取り落とした。すぐに落とした棍に手を伸ばすが、3射目、4射目とレーザーが撃ち込まれる。

 拾うことを諦めて、短くなった棍だけを構えてレーザーの射線の元へと向き直る。


 その視線の先には、両手のレーザーガンで狙いを定める双潟(ふたかた)ツルギの姿があった。

 ツルギは、コトナが露出させた岩盤を背にするように立ち、レーザーを撃つ。その射撃の正確さから、先に潰そうと判断した百合華学園の生徒は、短くなった棍を構えてツルギへと突進する。

 ツルギは両手の銃から1発ずつレーザーを発射すると、岩盤の陰に隠れた。それを追って岩盤の後ろに回り込む百合華学園の生徒。

 ツルギの場所はセンサーで判っている。ツルギを視認する前から短くなった棍を振りかぶり、振り下ろしながらツルギの前に出る。


 ガチンッ。

 ドビュゥッ。


 ツルギは右手に持った銃の刃で棍を受け流し、左手の銃で射撃。バチッという音と共に、相手のギアの表面でレーザーが弾ける。

 ツルギはすぐに岩盤の裏へと回り込む。相手の視界から外れた一瞬でパッと宙に跳び、岩盤の柱の上に乗る。しかしそれは妙手とは言えなかった。


「そこっ」

 相手がセンサーに意識を払わず素直に岩を回り込んでくるものと想定していたツルギに、下方向から棍が勢い良く突き出される。


 ドスッ。

「うくっ」

 投げ飛ばされた棍に胸を突かれ、ツルギの動きが一瞬止まる。その隙に相手もジャンプ、ツルギの乗っている岩の上に跳び乗る。避けようとするツルギの頭が、相手に掴まれる。

 ツルギは両手の銃を相手の腹に銃口を突き付ける。刃が電磁シールドに当たってバチバチッと音を立てる。そのまま引金を引く。


 ビシュッ。


 しかしレーザーは相手の強力な電磁シールドに防がれた。


「落ちろっ」

 相手がツルギの頭を掴んでその身体を地面に叩き落そうとする。ツルギは咄嗟にアーマードギアと銃を繋ぐケーブルで、相手と自分を縛りつける。


「何をっ」

「道連れよっ」

 狭い岩の上で崩れたバランスは、そう簡単には戻せない。足が岩に触れたと瞬間、ツルギは思い切り岩を蹴った。

 絡み合った2人は逆さまになって頭から地面に落ちる。


「ぐうっ」

 ツルギにとって幸いと言っていいのかどうか、相手の方が背が高かったため、相手が先に頭を地面に打ち付ける。いくら電磁シールドが強力でも、2人分の体重の衝撃を一点に受けて、百合華学園の生徒は意識を失った。

 ツルギは衝撃を受けることを免れたものの、運悪く倒れた相手の下敷きになった。上に乗った相手の身体を持ち上げようとするが、自分で巻いたケーブルで縛り付けられているため、相手の身体を引き剥がすこともできないし、立ち上がることも無理だ。強力なケーブルは、ツルギの力ではアーマードギアの補助があっても引きちぎれない。

 ギアからケーブルをパージしたが、何重にも巻いたケーブルは緩まない。


(残念だけど、ここまでかな)

 力を抜いたツルギの耳に、戦闘の音が遠く、近く聞こえている。


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