034 激化する戦場
ドビュビュビュビュビュビュッ。
戦闘を有利に進めていたリツコを、無数のレーザーの雨が襲う。
「んなっ」
リツコは即座に攻撃を中断、その場から跳び退く。大剣使いの相手は、味方の入った優位を無駄にすまいとリツコを追って跳躍する。
リツコはレーザーの射線を外すように移動しながら、その射点を探した。そこにいたのは、両肩と両脇にガトリングレーザーガンを装備した百合華学園の生徒の1人。よく見れば、巨砲で競技場の電磁シールドを破った生徒だ。
(また重武装なのがいるな。しかも一撃が強いっ)
4基ものガトリングレーザーガンを連射しているにもかかわらず、1射1射が強力だ。1発や2発程度ならともかく、連続して受けたらリツコのアーマードギアの電磁シールドではいくらも保たないだろう。
「やっ」
そこへ横から振り下ろされる大剣。リツコは足を止めて剣戟を受け、自分の剣に角度を付けて流す。そして足を止めたリツコに襲い掛かる無数のレーザー。数発を受けたものの、致命傷となる前に地を蹴る。
リツコが跳んだ方向は、大剣使いを挟んでガトリングレーザー使いの反対側。間に味方がいれば乱射はできないだろうと踏んだ。リツコの狙い通り、レーザーが途切れる。
すかさずリツコは目の前の敵に剣を振り下ろす。横に構えられた剣がリツコの大剣を受け止める。
ガキンッ。
ビシッ。
受け止めた大剣に僅かにヒビが入る。リツコは一気に畳み掛けるべく、大剣を斬り上げ、横に薙ぎ、斬り下ろし、連続で攻撃。さらに自分の立ち位置を微調整して、ガトリングレーザーガンの射線上に出ないようにする。
(くっ、このっ)
リツコと対峙している百合華学園の生徒は焦っていた。井久佐野高校の男子争奪戦では、オーキス・リアクターの出力が1,000kWに制限されているという情報を知っていた。そして自分のアーマードギアのリアクター出力は2,000kW。常に最大出力を出し続けるわけではないものの、力押しで負けることは無いはずだ。にもかかわらず、剣の打ち合いになると押されている。
おまけに、急遽用意した武器は強度が足りなかったのか、ヒビが入ってしまった。しかも打ち合うたびにヒビが大きくなってゆく。ヒビの大きさに比例して、彼女の焦りも膨らんでゆく。
そして。
バギンッ。
「あっ」
ついにリツコは相手の大剣を叩き折った。
「これで、終わりだっ」
リツコが大上段に振りかぶった大剣を振り下ろす。しかし、そうはならなかった。
「んあっ!?」
ドビュビュビュビュビュビュ。
背中から無数のレーザーを浴びて、百合華学園の生徒はつんのめるように倒れる。空いた空間からリツコに襲い来るレーザーの射線。
(味方を巻き添えにするかよっ)
リツコは攻撃を中止して大剣を盾のように構え、その場から横に跳び退く。リツコを追ってレーザーがクレイ舗装を穿ってゆく。しかしそれも長くは続かない。
ドドギューーーンッッ。
響く銃声。同時にリツコを狙うガトリングレーザーガンの2基、右肩と右脇のそれが破壊される。
「えっ!?」
その隙を逃さず、リツコは彼女に肉薄、相手も残った武器でリツコを狙うが、右側の武器が無くなってバランスを崩す。乱れた射線を掻い潜って近寄り、左脇のガトリングレーザーガンを斬り上げる。
バチッと電磁シールドに弾かれつつも斬り上げ、続けて斬り下ろす。ガギンッと音を立ててレーザーガンに大剣の刃が喰い込む。切断まではできなかったものの、もう撃てないだろう。
「くっ!」
腕を振って鈍器のように振るわれるガンから、リツコはさっと避ける。そこへさらに銃声が2発。
「ぎゃっ」
「あいっつっ」
4基のレーザーガンを持った少女が右腿と左脛を撃ち抜かれて崩れ落ち、立ち上がろうとしていた大剣の生徒が脚を押さえて倒れた。
「リツコのお陰で2人まとめて沈められたね」
両手にライフル……レールガンを持った副崎ネリイがリツコの傍に立った。
「余計なことしやがって」
「そんなこと言わない。敵はまだいるんだから、行くよ」
「解ってるよっ」
2人はすぐに残る敵を駆逐すべく、その場を離れた。倒れた百合華学園の2人を運ぶためのロボットが近付いて来た。
××××××××××××××××××××××
「ていっ」
物里ナグリはメイスを相手に振り下ろす。相手は左手の大きな盾でメイスを受けると、右手の短槍を突き出しての攻撃。ナグリはメイスをグルンと回して柄で槍を跳ね上げ、左からメイスを横に薙ぐ。
相手は後ろに跳んで攻撃を回避、ナグリはすぐに攻撃方法を突きに変えて追い討ちを掛ける。しかしそれは、頑丈な盾で防がれる。
(硬すぎっ。コイツは足で掻き回すしかないっ)
盾の横から突かれる短槍を掻い潜り、相手の右側に回り込んでメイスを振る。
バチッ。
背中を強襲したものの、強力な電磁シールドで相手へのダメージは大したことは無いように見える。
盾を持つ意味ある?と思いつつも、自分に対して正面を向こうとする相手の横や後ろに回り込むように移動し、ナグリは攻撃を続ける。相手も短槍を突き、薙ぐが、ナグリはそれを避け続ける。
ナグリは避け、相手は受ける。それだけ見るとナグリの方が優位に立っているように見えるが、電磁シールドが強力で有効打を与えられない。それでも多少のダメージは蓄積されているはず、と攻撃の手を緩めない。
しかし、ナグリは目の前の相手に集中し過ぎた。
ドギャッ。
「いぎっ!?」
ナグリは背後から首筋を殴られ、その場から吹き飛んだ。センサーの警告で電磁シールドを強化し、攻撃の途中で回避行動に移っていたものの、間に合うものではなかった。
ズザザッとグラウンドを滑って止まったナグリは、両手を地面について頭を上げる。立ち上がってもいないのにふらつきを感じ、頭を強く振って起き上がり、振り返る。
「助かった。ありがと」
「2人で倒すよ」
「うん」
百合華学園の2人は闘い慣れてはいない様子だ。男子争奪戦の本戦に残った井久佐野高校の生徒なら、対戦相手が倒れたら即座に追い打ちをかけるだろう。
しかし2対1は分が悪い。しかも殴り飛ばされた拍子に武器を手放してしまい、離れた場所に落ちている。
相手は短槍と盾、もう1人は大槌。おまけにオーキス・リアクターの出力はどちらもナグリより大きいだろう。武器なしでまともに相手はできない。
しかしナグリは、敢えて2人に向かって走り出す。敵に背を向けるより、意表を突いた方がいいと判断した。大槌を持った相手の懐に入ろうと、体勢を低くして拳を固め地を蹴る。
ナグリがメイスを拾いに行くと考えていたのか、百合華学園の2人の行動が一瞬遅れる。しかし、殴り飛ばされて距離ができていたことに加え、殴られたことでナグリの動きも精彩を欠いていた。盾を構えた相手が前に出て、ナグリの防壁になる。
そのまま目の前の相手を攻撃するか、横に回り込んで後方の大槌使いに攻撃するか、ナグリは一瞬悩んだ。その間に相手との距離が縮まり、選択の余地を無くしたナグリは盾を殴り付ける。
しかしどっしりと構えられた盾は微動だにしない。ナグリはその場で飛び跳ねると両足で盾を蹴り付けた。その反動で、落としたメイスに向けて跳ぶ。一拍の間を空けて、大槌を持った相手がナグリの後を追う。武器を持たれては面倒だ、と考えたか。
ナグリの手がメイスを掴んだ。向きを変えて、追ってくる相手に対峙する。しかし、目の前にはすでに下段から振り上げられる大槌が目の前にあった。
咄嗟に、取り返したメイスで槌を防ぐ。
「くきゃっ!!」
メイスでは大槌の大質量を押し留めることは出来ず、ナグリは振り上げられた大槌で再び吹き飛ばされた。空中へと飛ばされたナグリは、かなり離れた場所へドサリと落ち、動きを止めた。受け身を取る様子もなかったことから、グラウンドに叩き付けられる前に意識を失っていたらしい。
「死んでない、よね?」
「……多分。力一杯ヤっちゃったけど」
「……仕方ないよね」
「……うん、仕方ない」
「まだ終わりじゃないんだから、気持ちを切り替えよう」
「そうだね」
ナグリを下した2人は、次の戦闘に向かうべく、競技場の中央へと振り返った。




