031 男子争奪戦・本戦開始
広い市営競技場のグラウンドに設置された演壇に、井久佐野高校の校長が立った。演壇の前には、男子争奪戦・予選を勝ち残った16人の生徒が、アーマードギアに身を包んで、8人ずつ前後2列に整列している。
「全校生徒の皆さん、保護者の皆様、そして観覧にいらしてくれた市民の皆様、お待たせしました。本日より4日間、2×××年度、井久佐野高校男子争奪戦本戦を行います。
本年、井久佐野高校に入学した男子生徒との1年間の交際期間を賭けて、本校生徒300人中213人から、2週間の予選で高ポイントを獲得した16人が本戦を闘います。彼女たちに大きな声援をお願いします。
本戦に勝ち残った参加者の16人の皆さん、最後まで正々堂々と闘い抜いてください」
校長の声が競技場に広がる。
続いて、本戦に進んだ16人の参加者が順に演壇に上がり、一言ずつ意気込みを述べる。
「最後に、本校に11年振りに入学した男子生徒、鞘守セイジくんから、本戦を闘う生徒の16人の生徒にエールをお願いします」
司会を務める教諭の声に、演壇の横で待機していたセイジがオズオズとした様子で演壇に上がった。
「ええっと、皆さん、優勝を目指して頑張ってください。ぼくは、優勝席で待っています」
顔を真っ赤にして、ごく簡単に挨拶したセイジは、恥ずかしそうに演壇を下りた。それでも、観客席からは拍手が送られる。アーマードギアを着た16人の生徒たちも演壇を下りるセイジに向けて拍手を送った。
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選手たちが一旦グラウンドを離れ、演壇も片付けられると、いよいよ男子争奪戦の本戦が始まる。16人によるトーナメント戦とはいってもやや変則的で、初日はくじ引きで8戦が行われ、2日目は残った8人が再びくじを引いて対戦相手を決める……という形式を取っている。
一回戦は、3A4大舘リツコと2B20竜胆スミレ。
青地に灰色の模様の入ったアーマードギアの肩に大剣を担いだリツコ。
深い緑色に紅いラインの入ったアーマードギアに身を包み、斧を地面に立てたスミレ。
電磁シールドに囲まれた競技場の中央、向かい合って立った2人の間に、審判ドローンが浮かぶ。
「一回戦、開始!」
ドローンが戦闘の合図をすると上空に退避する。開始の宣言と同時にスミレが剣を振り被り、リツコは斧を斬り上げながら、双方突進、上段から振り下された剣と地面から振り上げられた斧が2人の間で激突する。
ガギンッ。
剣と斧が火花を散らす。スミレの大剣が跳ね上がり、リツコの斧が横に弾かれる。リツコはその勢いのまま身体を回転させ、反対側からスミレを襲う。
スミレは大剣を両手で構えて斧を受け、それだけでなく弾き返す。
ギィンッ。
身体を逆回転させるリツコにスミレは急接近、剣を横薙ぎに振るう。リツコは回転の途中で背を向けながらもスミレの動きを察知、地面を蹴って距離を取る。
最初の場所から少し動いた場所では、最初とほぼ同じ距離を取って、互いに武器を構えて対峙する。
しかし一瞬の後にはまた打ち合う。最初よりも速い動きで剣と斧が、2度、3度と打ち合わされる。
「うっりゃあああああああっ」
一進一退が続くかと思われたその時、リツコの気合が迸り、斧の横で超伝導スラスターが起動、アーマードギアの膂力にスラスターの勢いが上乗せされ、スミレの大剣を弾き、その勢いのままスミレを攻撃する。今度はスミレが横に跳び退き、リツコの斧を躱す。
広い競技場の中央付近で闘う2人の様子は、競技場の各所に空中投影されたスクリーンに映されている。観客たちは闘いの様子を固唾を呑んで見守っている。
数回のスラスターの起動の後、リツコはアーマードギアだけで斧を振るようになった。斧のスラスターのエネルギー源は、オーキス・リアクターではなくオーキス・キャパシタだったようだ。
勢いの落ちたリツコの斧を、スミレが大剣で弾く。
「てやっ」
「くあっ」
少し前まで、スラスター無しの斧と対等に渡り合っていたスミレは、補助がなくなったと見るや一気に攻勢に出た。それまでオーキス・リアクターの出力を抑えていたかのように動きが変わり、リツコを追い詰めていく。
「くっ」
バキンッ。
リツコは斧からオーキス・キャパシタとオーキス・ジェネレーターをパージした。それらが地面に落ちる前に斧を振り、斧頭と柄で切り離したモジュールをスミレに向けて弾き飛ばす。
しかし、それらを切り離したことは、リツコにとってマイナスに働いた。
「もらったっ」
飛んでくるオーキス・キャパシタとオーキス・ジェネレーターを物ともせず、アーマードギアの電磁シールドで弾きながらリツコに突進したスミレは、大剣を下から斬り上げた。リツコは咄嗟に斧で防ぐ。しかし。
ガァンッ。
「あっ」
重量の減った斧ではスミレの大剣を抑えきれず、リツコの手を離れて空中に舞う。
体勢の崩れたリツコの胸にスミレの蹴撃が決まり、吹き飛ばされたリツコは地面を削りながら倒れる。
ドシャッと離れた場所に落ちる斧の音と同時に、倒れたリツコの喉元にスミレの剣先が突きつけられ、勝負は決まった。
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続いて第2戦は、緑地に紺色のアーマードギアの両手に鉤爪を装着した2C1蒼旗アンナと、漆黒のアーマードギアに身を包んだ双短剣を構える2E7霧崎シノブ。
ドローンによる戦闘開始の合図と共に、シノブの姿が消えた。少なくとも、観客席からはそのように見えた。しかしアンナは相手をしっかりと把握しており、振り返り様に上げた左手の鉤爪でシノブの短剣を受け止める。
ギィンッ。
同時に右手の鉤爪をシノブ目掛けて突き出すが、シノブはすでに離れている。それを追って、アンナも地を蹴る。
見えなくなった2人が一瞬だけ競技場に姿を現し、短剣と鉤爪が打ち合わされる。
観客席からも視認に苦労するような2人の素早い動きを、競技場全体を撮影しているカメラとその映像を処理しているコンピュータはしっかりと認識し、人々は空中に映し出されている映像から目を離せない。
広い競技場を所狭しとと縦横無尽に駆け回る2人。あちこちで剣と爪が打ち合わされ、火花が散る。千日手になるかと思われた戦闘だったが、局面に変化が現れたのは、戦闘が始まってから、5分ほど経過した時か。
「!?」
それまでシノブの動きを完全に捉え追随していたアンナが、相手の姿を見失う。そのアンナに、上空から落ちて来たシノブが襲いかかる。
「うぐっ」
シノブはアンナに肩車するように、両脚をアンナの腕に絡み付けて自由を奪い、両手の短剣を首筋に突き付ける。そのままアンナの降参で終わるかと思われたが、アンナは後方へ勢い良く倒れた。
「ひゃっ!?」
背中から地面に叩きつけられたシノブから、アンナは素早く逃れて立ち上がり、攻撃に移る。シノブは突き下される鉤爪を転がって避け、脚を振り上げて跳ね起き、短剣で鉤爪を受ける。2人は連続して両手で相手を攻撃し、両者の間に火花が飛び散る。
スッと体勢を落としたシノブが両手を地面につき、両足でアンナの足を蹴り倒した。
「あっ!」
見事にひっくり返るアンナ。その上にシノブは跳び乗り、両足でアンナの両手首を踏み付け、さらに踵と爪先から刃を出して地面に縫い付ける。その上で両手の剣をアンナの首筋に突き付ける。
「今度はさっきみたいにいかないわよ」
フェイス・プレートの奥でニヤリと笑みを浮かべ、剣先を首筋に押し付ける。バチッと電磁シールドが反応したものの、刃はアンナのアーマードギアに届き、首筋を圧迫する。
「くっそ。仕方ない、降参、する」
アンナが負けを認めたことで、第2戦も終了した。
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「いよいよね。調子はどう?」
控え室で、マリナのアーマードギアのモニターをしながらレイカが聞いた。
「絶好調です」
マリナは手を握ったり、膝や肘を曲げたりと、身体とギアの調子を確かめながら答えた。
「対戦相手の副崎さんは、バトルロイヤルの時に勝っているのよね?」
「はい」
「でも油断しないようにね。相手も本戦まで来ているんだから」
「解ってます」
マリナの本戦最初の対戦相手、副崎ネリイはバトルロイヤルで遠方からの狙撃で参加者を倒していた。その彼女を倒したマリナだが、今回はそう簡単にはいかないだろうと思っている。負けるつもりはさらさらないが。
「あ、そろそろみたいですね。行ってきます」
控え室のモニターに映る競技場の様子を意識していたマリナはウェポンパックを持って控え室を出た。
競技場の中央で対峙したネリイは、両手にそれぞれ小銃を持っている。普通の小銃に比べると銃身が短く、近距離戦での取り回しを意識しているようだ。さらに、腰には2丁の拳銃も装備している。
マリナもウェポンパックを展開し、槍にして両手で持つ。
「今日は前の時みたいにいかないわよ」
「前と同じにぶちのめします」
互いに煽る2人の間に、ドローンが浮かぶ。
そして、審判ドローンから試合開始の宣言がされる直前、それは起きた。




