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武装戦姫スクランブル  作者: 夢乃


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029 敗北の味

「やっぱり複数人の対戦は禁止されたね」

「いくらでもポイントを稼げるからね」

 男子争奪戦・予選最終日。1時限目の授業後の休み時間に話しているリコとナオコの元へ、マリナとエリカもやって来た。


「今朝のルール変更も想定して、昨日の対戦を組んだのですか?」

「まあ、そんなとこ。実際にルールが変えられるかは判らなかったけど、まぁ、変わるだろうな、とは思ってたよ」

 エリカの質問に、ナオコは笑って答えた。


「確かにねぇ、あんなことやられたらバトルロイヤルの勝者から無限に高得点を取れるからね」

「いや、バトルロイヤルは無関係に無限に取れるからね。例えば、わたしとナオコがパートナーを交代しながら何度も対戦して、交互に勝利してけば、等比級数的に増やせるのからね」

「あ、そっか」

 マリナの言葉をリコが訂正し、マリナはそれに納得して頷く。実際、2人が対戦を続けながら交互に勝てば、ポイントをほぼ倍々で増やせることになる。


「それと、マリナ、今日はアタシと対戦してよ」

「エリカはわたしとね。ナオコにポイント持たせちゃったから、ナオコの半分しかなくて悪いけど」

 ナオコとリコは、それぞれマリナとエリカに対戦を申し込む。なお、マリナvsリコとエリカvsナオコの対戦は、先週のうちに行なっているので、これから対戦することはできない。


「それは構いませんが、最初から負けるつもりでは挑まないでくださいね」

「もちろん。昨日だって、ガチで勝ちに行ったんだから。負けちゃったけど」

「アタシだって勝つつもりでやるからね。勝ったらマリナに代わって本戦に出てあげる」

「望むところよ。返り討ちにしてあげるから」

 男子争奪戦に参加し、脱落せずに予選最終日まで来た彼女たちの血気は、2週間前に比べて随分とカ上がっているようだ。



 ××××××××××××××××××××××



 午前の授業が終わると、午後は男子争奪戦。マリナは公園でナオコと対戦し、勝利を収めた。


「障害物があればちょっとは善戦できると思ったんだけどな」

 戦闘後に、ナオコはマリナに言った。公園は、これまでの男子争奪戦の、特にバトルロイヤルの影響で荒れに荒れていて、当初よりも障害物がずっと多くなっている。

 そんな中、ナオコは障害物に隠れつつ、遠距離からマリナを狙ったものの、障害物を避けつつ素早く動くマリナに完敗した。


「でも、スプリットレーザーと収束レーザーを切り替えられて、ちょっと嫌な攻撃だったよ」

「そう言ってもらえると、まあいいかな。本当は切り替えじゃなくて両方同時発射できるようにしたかったんだけどね、オーキス・リアクターの出力の関係でそうも行かなくて」

 昨日の対戦では高収束レーザーになっていたナオコのレーザーライフルは、今日の対戦では高収束レーザーと拡散レーザーを切り替えて撃てるようになっていた。しかし、アーマードギア本体用とレーザーライフル用にオーキス・リアクターを2基装備し、出力の小さい方をライフルに使っている。


 今使っているオーキス・リアクターの出力では、拡散レーザーと同時に収束レーザーを使ったとしても、大した威力にはできないようだ。

 かと言って、アーマードギア本体とライフルのオーキス・リアクターを交換すると、動きが鈍くなってしまう。

 ライフルに使うオーキス・リアクターを倍の出力の物に交換し、ギア本体のリアクターをその分小出力の物に交換できればベストだったが、昨日の今日ではリアクターの換装、いや、調達は無理だった。

 それができていてもマリナに届いていたかどうかは不明なものの、より肉薄できたことは間違いないだろう。


「アタシはここで終わるけど、マリナは最後まで頑張ってね」

「もっちろん。優勝目指して頑張るよっ」



 ××××××××××××××××××××××



 ナオコと別れたマリナは、体育館に来た。体育館でも予選の最終日の対戦が行われている。

 一発逆転の目がある男子争奪戦のルールだが、流石に最終日にもなると諦めた生徒も多いようで、リタイアを宣言していなくても対戦には出ていない参加者も多い。今日対戦している人数は80人を切っているだろうか。


茅吹(かやぶき)マリナさんね。わたしと対戦しましょう」

 体育館でほかの参加者の対戦を観戦中のマリナは、後ろから声を掛けられて振り返った。そこには、青地に灰色の模様の入ったアーマードギアを装着した参加者が笑顔で立っていた。その背中には、巨大な剣。網膜に投影された名前は、3年A組の大舘(おおたち)リツコ。もっとも、情報を見るまでもなく、マリナは相手の名前を知っていた。バトルロイヤルでチェックしていたので。


「大舘先輩。はい、いいですよ。やりましょう」

「軽く受けてくれるのね」

「まあ、ポイントは出来るだけ稼いでおきたいですし、先輩はあたしよりポイント多いですからね」

 現在のマリナは、2938ポイント。リツコは3258ポイント。対戦して勝てればポイントは倍以上に跳ね上がるし、負けてもリツコに抜かれるわけではない。


「勝つつもりでいるみたいだけど、そうは問屋が卸さないわよ」

「はい、胸をお借りします」

 互いの合意で対戦は成立し、体育館の戦闘フィールドが1つ空いたところで、2人の対戦が始まった。




 開始の合図と同時に、マリナはリツコ目掛けて突進した。対するリツコは、大剣を構えて迎撃の様子を見せる。

 マリナが槍を突き出す。と同時にリツコが剣を振るった。


(ヤバッ)

 マリナは即座に槍の超伝導スラスターを逆展開、一瞬だけ起動して速度を殺す。目の前を大剣の切っ先が横切った。

 すぐにスラスターを戻してもう一度起動、失った速度を回復して再攻撃。リツコはすかさず剣を立て、マリナの槍を受けて攻撃を逸らす。


 ギャリギャリギャリッ。


 剣と槍で火花が散る。リツコはそのまま剣を振り下ろして牽制、マリナはそれを横に跳んで避ける。

 避けてすぐ、足が床を踏むと同時にマリナは槍を横に振って攻撃、超伝導スラスターも併用して威力を上げる。

 槍がリツコの身体に当たったものの、リツコも槍の動きに逆らわずに床を蹴り、攻撃の勢いを打ち消す。


 横に跳びながら剣を振り被っていたリツコは、マリナの槍が振り切られると同時に、大上段からマリナに向かって跳び込み大剣を振り下ろす。


「はっ」

「くっ」

 裂帛の気合いと共に振り下ろされた巨大な剣を、マリナは槍の穂先を開いた鋏で受け止め、ガチッと挟み込む。剣の勢いに負けて押されるが、石突が床に当たったところで受け止めてる。


「やっ」

 気合いと共に槍を横に倒す。が、リツコも剣をガッチリと持って、微動だにしない。


「くぅぅあっ」

「は!?」

 逆に、リツコが力任せに剣を持ち上げ、マリナの身体が浮き上がる。マリナは背中の低出力超伝導スラスターを起動、槍を持ったまま飛び上がる。

 剣を振り上げようとしていたリツコはマリナの槍により剣を跳ね上げられ、後ろに倒れそうになる、すかさず片手を剣から離してジャンプしつつ身体を回転、後ろ向きになって剣を握り直す。

 マリナも空中で体勢を変え、床に着地。しかし着地の寸前、リツコが片足を上げてマリナの腹部に強烈な蹴りを叩き込む。


「ぐふっ」

 マリナは武器を手放してしまい、後方に吹っ飛ばされる。フィールドの端に届く前に膝をついた体勢で着地、ズズズッと床を少し滑って止まる。

 その間に、マリナの槍を蹴り飛ばして剣から引き剥がしたリツコは、マリナに突進しながら振り被った大剣を振り下ろす。


 マリナは床を蹴ってリツコの剣戟を避けつつ、武器を取り戻すために、床に転がった槍の方向へと跳ぶ。


 ドガッ。


 リツコの剣が床に裂け目を作る。さらに。


 ズガガガガガガッ。


 リツコは床に刺さった剣を無理矢理横に向け、床を抉るようにマリナに向けて斬り上げる。それに気付いたマリナは咄嗟にジャンプ、際どいところで足の下を剣が通り過ぎる。

 着地と同時に槍に向かおうとしていたマリナだが、その間にリツコはマリナと槍の間に回り込んだ。袈裟斬りに振るわれた剣をマリナは避け、続く攻撃も辛うじて避ける。


(このままじゃっ)

 追い詰められる危険を感じたマリナは、横に振られた剣をしゃがんで避け、そのまま前に跳び、リツコの身体に抱き着く。


「ぐっ!!」

 マリナに押されて仰向けに倒れるリツコ。マリナはすぐさま起き上がり、リツコの腹に座って両手首を足で押さえ付け、胸をガンガンと殴り付ける。

 リツコは膝を立てて身体を反らし、ハーフブリッジを作ってマリナを腹から跳ね上げる。


 そんな方法で振りほどかれるとは思っていなかったマリナだったが、これを利用してリツコの後方へ跳んで着地。ひと跳びの場所に自分の武器を認めて槍に向かってジャンプ、腕を伸ばす。


 しかし。


 マリナの前に突き出された剣に、慌てて足を床に踏ん張って停止。刃を喉元に突きつけられた位置で止まる。


「はい、どうする? まだやる?」

 斜め後ろからのリツコの声が聞こえた。マリナはフゥッと息を吐いた。


「いいえ、降参します。はぁ」

 マリナは両手を上げて立ち上がった。


「3A4・大舘リツコ対1A6・茅吹マリナ、茅吹マリナの降参により、大舘リツコの勝利。大舘リツコは2938ポイント獲得。現在6196ポイント」

 審判ドローンが下りて来て、リツコの勝利を宣言した。


「はぁ、負けちゃいました。今まで負けはなかったのになぁ」

 立ち上がったマリナは、リツコに右手を差し出した。


「いい勝負できたと思うよ。茅吹さんのポイントならこのままでも予選は抜けられそうだし、本戦で闘うことになったら、またやりましょう」

 リツコはマリナの手をしっかりと握った。

 実際、マリナの現在の順位は10位以内に入っている。最後まで油断はできないものの、予選を突破できる可能性は高い。


「はい。その時は、今日みたいにはいきませんからね」

「お手柔らかに頼むよ」

 互いにグッと相手の手を握り締めてから2人は手を離した。

 マリナにとっては反省の多い戦闘だったが、それは次に活かせばいい。本戦出場が決定したら、今の対戦だけでなくこれまでのことも含めて反芻しよう、とマリナは決めた。




 間も無く、男子争奪戦の予選は終わりを迎える。

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