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武装戦姫スクランブル  作者: 夢乃


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28/41

028 プレゼント・ポイント

「考えたんだけどさ、2人に協力しない?」

「うーん、確かに、わたしたちじゃ予選突破は厳しいもんね。でもわたし、最初の内にヤっちゃったよ?」

「だからね、アタシたち2人で協力すれば」

「それって認められるのかな?」

「規約には違反してないよ」

「うーん、確かに。盲点だね。あ、だったら他の子にも協力してもらったら」

「それも考えた。でもねぇ、すぐに規約改定されそうじゃない?」

「ああ、あるある。なら、1日で2人とやるのね」

「そのつもり。どう?」

「いいと思う。でもその前に……」

「あ、なるほど。じゃ、それをやって次の日に」

「そうだね」



 ××××××××××××××××××××××



 男子争奪戦も残すところ2日となったその日、マリナが登校すると、リコがそそそっと寄って来た。


「マリナ、今日の午後4時に、わたしと対戦しよう」

「え? いきなりだね。でも、リコとは先週、やっちゃったよね?」

 リコはニコッと笑ってマリナに顔を寄せた。


「実は、ルールの穴を見つけて、対戦できる方法を見つけたんだよね。見つけたのはナオコだけど」

「そう? なら別に、いいよ。手は抜かないからね」

「オッケー。じゃ、申請はこっちでやっておくから」

 リコはそそくさと去って行った。


(でも、ルールの穴ってなんだろう? それになんで時間指定? しかもそこそこに遅い時間。その辺に穴の秘密があるのかな?)

 立ち去るリコの背中を見ながら疑問に思ったマリナだが、すぐに考えるのをやめた。どうせ、時間になれば判るのだから、と。




 授業が終わり、午後になって1戦を闘ったマリナは、リコとの約束の時間までは他の人の戦闘を見学して時間を潰した。特に、決勝に残りそうな参加者の戦闘スタイルは直接見ておきたい。


 現在、男子争奪戦の参加者は128人にまで減っている。負傷や装備の破損、あるいは戦闘を続けることの恐れもある。特にバトルロイヤルの終了後、リタイアが相次いだ。

 バトルロイヤルに参加した生徒は、2日ほど、リタイヤしていなくても欠席者が相次いだ。バトルロイヤルで破損した装備の修復に時間がかかっていたようだ。

 昨日からは彼女たちもほぼ復帰し、見学者もそれまでに比べて増えている。


 見学中も、マリナに対戦を申し込む参加者がいたが、「先約があるから」とマリナは断った。


 そして15:50。マリナは校庭でリコと合流した。リコと一緒にナオコもいたが、マリナは気にしなかった。バトルロイヤルでチームを組んだことで仲が深まっていたし、底辺を這っていたのに突然トップ集団に上がったという共通点もある。

 ちょうど、6面ある戦闘フィールドの1つで対戦が終わり、予約していた対戦はそこで行われるようだ。


 フィールドの整備が終わり、マリナはリコと共に戦闘フィールドに入った。ナオコも一緒に戦闘フィールドへと入る。


「ナオコ? 対戦者以外は戦闘フィールドへ入っちゃ駄目だよ」

「だ~いじょうぶ。アタシも対戦者だから」

 ナオコはニッと笑う。


「え? リコ、どういうこと?」

「言ったでしょ、ルールの穴って。これがその答え」

 男子争奪戦で、同じ参加者との対戦を繰り返してのポイント加算を防ぐためのルール。


 ・同一カードでの対戦は期間内に1回に限る


 しかし、対戦は が1対1でなければならない、という制限のないことに気付いたナオコは、2対1であれば同一カードではない、と運営にゴリ押しして、リコ&ナオコvsマリナの対戦を実現したのだった。

 バトルロイヤルという特殊な戦闘を除けば、初めての2対1の対戦に、周りの観戦者もざわめいている。


「2対1の対戦ね。確かに、ルールの穴だね。でも、2人ならあたしに勝てると思ったら、大間違いだよっ」

「マリナこそ、わたしたちに負けるようじゃ本戦を勝ち抜けないよっ。その時にはわたしたちが本戦で暴れてあげるからっ」

 少し離れて対峙する2組の間に、審判ドローンがやって来た。


「1A11芹澤(せりざわ)ナオコおよび1A10志津屋(しづや)リコ対1A6・茅吹マリナ、勝負、開始」

 開始の合図と同時にマリナは2人との距離を詰める。2人の武器はレーザーライフル。近距離戦には向かない上、遠距離では電磁シールドでほぼ無力化できるので、近~中距離の得意なマリナの第1手としては、近付くのがベストだ。

 対する2人はマリナに向けて銃を構え、ナオコがリコの陰に隠れるように移動する。

 リコは、突撃するマリナに銃口を向けたまま、引金を絞る。


 シュバババババババッ。


「なにっ!?」

 マリナは思わず足を止めて槍を盾にし、リコの銃口から放たれた無数のレーザーを受ける。出力は弱いものの、分散されたレーザーの面攻撃により、マリナの視界がほとんど塞がれる。リコは武器をスプリットレーザーライフルに持ち変えていたようだ。

 マリナは射線から逃れるために横に跳躍する。その瞬間、鋭いレーザーの射線が1本、脇腹を掠める。


「えっ!?」

 身体にはダメージはなかったものの、アーマードギアにジュビュッと削られたような傷が付く。横への移動が遅れていたら、腹部に直撃していただろう。


(電磁シールドを貫通したっ!? 何でっ!?)

 それはリコではなく、ナオコの攻撃だった。リコはレーザーを分割・分散する銃に持ち変えたように、ナオコはレーザーを1点に集中、出力そのものを変えずにレーザーの貫通力・攻撃力を上げたようだ。

 その上で、リコが前衛で相手を牽制、その後ろからナオコが攻撃力の高いレーザーで大打撃を狙う。


 2人を素早く観察したマリナは、対策を考える。しかし、考える間もなくリコの無数のレーザーがマリナに迫る。

 リコの攻撃ならばシールドで完全防御できる。ならばとリコの攻撃は無視、フェイス・プレートの照度を落とし、リコの後方に注視しつつ、槍を構えて突進する。

 槍でリコを攻撃しようと突き出した瞬間、リコの後ろから姿を現したナオコによるレーザー攻撃。マリナは咄嗟に槍の軌道を変え、槍で弾くようにしてレーザーを躱す。しかしレーザーは、槍に装着されたウィングの一部を破損させた。


 マリナの攻撃が逸れた隙に、リコがレーザーライフルの先に銃剣を伸ばし、マリナに向けて突く。マリナは後方に跳び退いて躱し、距離を取る。


(この前までは銃剣なんてなかったよねっ!?)

 そう考えている間にも、リコはレーザーの弾幕を張り、マリナを牽制する。マリナは先程と同じように突進、しかし途中で槍のウィングを開き、穂先も開いて鋏モードに。超伝導ブースターを起動、先の攻撃の破損でバランスはれていたが、一気に増速してリコに接近する。

 バトルロイヤルでマリナの戦闘を何度も見ていたリコは、後ろに倒れるようにしてマリナの攻撃を回避。後ろで銃を構えたナオコが引き金を絞る。


 直撃すれば大ダメージを喰らいかねない高収束レーザーを、マリナは地面を蹴……ろうとしてリコの腹を蹴り、上に避ける。そのまま突進の勢いでナオコに突っ込み、角度の変わった鋏でナオコの高収束レーザーライフルを挟み込む。

 着地したマリナはグイッと槍を捻ってナオコの手を武器から離そうとする。しかしナオコも銃をしっかりと握って離さない。


 マリナは咄嗟に自分の武器から手を離し、自分の腹に押し当てようとされていたリコのスプリットレーザーライフルに腕を絡み付け、リコの銃と腕を捕らえたままリコに肉薄、その後ろに回り込んで後頭部に肘を叩き込む。

 バチッと電磁シールドが反応したものの、それはマリナの肘の電磁シールドで相殺され、リコは後頭部に強い衝撃を受けて昏倒した。


 ナオコは、ライフルをガッチリ咥え込んだマリナの槍を外すことが出来ず、重荷を付けたままの銃でマリナを狙う。しかし、そんな不安定な銃でアーマードギアで強化されているマリナの動きを捉えることなど到底出来ず、後ろに回り込んだマリナに首を絞められて、意識を落とす前に降参した。アーマードギアを着ているので、衝撃ならともかく絞め上げて失神させるのはまず不可能だったろうが。



「1A11芹澤ナオコおよび1A10志津屋リコ対1A6・茅吹マリナ、芹澤ナオコの降参および志津屋リコの失神により、茅吹マリナの勝利。茅吹マリナは996ポイント獲得。現在2100ポイント」

「え? 996ポイント? 2人合わせても660点くらいじゃなかったっけ?」

 審判ドローンの裁定に、マリナは首を傾げた。


「マリナ、アタシたちの点数、対戦前に見なかったの? アタシは663ポイント持ってるよ」

 ナオコが、倒れているリコを抱え起こしながら言った。マリナも慌ててリコに駆け寄る。幸い、リコはフェイスプレートの上から2、3度軽く叩いただけで、意識を取り戻した。


「663ポイント? いつの間に倍に……って、そっか、リコとナオコで対戦したんだね」

「そうだよ。実はさ、マリナとエリカの手助けしようと思って、2対1の対戦を考えたんだよね。トップランカーになっても、わたしたちじゃすぐに抜かされるだろうからって、ナオコが」

「せっかくなら、知り合いに優勝して欲しいしさ、それならアタシたちのポイントもあげようと思って。そしたら、先にアタシとリコで対戦しとけば、さらに上乗せできるねって、リコが言って」

「あ、協力しようからって、手は抜いてないよ? わたしたちもガチで闘ったから」

「2対1でもアタシたちに勝てないようじゃ、本戦出場も覚束ないだろうからね」

 負けたのに嬉しそうに言う2人に、マリナの心に喜びが込み上がって来た。こんなに応援してくれる親友がいるんだから、是が非でもセイジくんとの交際権を獲得しなきゃ、と。


「2人ともありがと。あたし、頑張るよ」

「うん、頑張って」

「それよりリコは、急いで頭を診てもらわないと。5時から次の対戦だから」

「次? 次も予約してるの?」

「うん。次はエリカと。エリカにも頑張ってもらいたいからね」

「そっか。そうだよね。なら、早く医務室に行こう」

「いいよ、アタシが連れてくから。まだ対戦する時間あるよ」

「今日は今ので終わりにする。2人とエリカの対戦も見たいし」

 そうして、3人は一旦、医務室へと向かうのだった。




 その後、17:00から行われたナオコ&リコとエリカとの対戦で、エリカは無事にナオコとリコを下してポイントを獲得した。



 ××××××××××××××××××××××



 翌朝、男子争奪戦のて予選のルールに、次の1文が追記された。


 ・対戦は、1対1の個人戦とする。

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