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武装戦姫スクランブル  作者: 夢乃


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23/41

023 2つの戦闘

 シノブの敗北を確信した瞬間、ツルギは戦場から遠ざかる方向へと走った。


(ギアの色は違ったけど、アレは1年生の茅吹(かやぶき)マリナさん。お友達も一緒みたいだし、今闘っても多分勝てない)

 ツルギは一度、1対1でマリナに敗れている。圧倒的敗退ではなかったので、再戦しても今度は勝てるかも知れない。しかし、それも前回と同じ1対1という条件下でのこと。こちらが1人になった今、相手に協力者がいる状況では分が悪い。このバトルロイヤルは、とにかく生き延びなければ意味がないのだから。


 生身では出せない速度でしばらく走ったツルギは、適当なところで足を止め、木の陰に隠れて周囲を窺った。


(……大丈夫、追われてはいない)

 ホッと息を吐いたツルギは、フェイスプレートを開いて収納から取り出した水を1口飲んで渇いた喉を癒し、次の戦闘に向けて歩き出した。


 2~3歩足を踏み出したツルギは、パッとその場を跳び退いた。


 ドガッ。


 ツルギがさっきまでいた場所に、大きな斧が振り下ろされる。


「そのギア、その武器。2年の竜胆(りんどう)スミレさん?」

「あ、ご存知でした? 双潟(ふたかた)ツルギ先輩ですよね。ここで退場してもらいますよっ」

 地面に突き刺さった斧を降り上げながら、スミレはツルギに突進する。ツルギはすかさず後ろに跳んで、紙一重で振り上げられる斧を躱し、さらに後方へ飛んで木の陰に隠れる。


 スミレは振り上げた斧のベクトルを変えつつ身体を回転させ、その勢いを乗せてツルギを追撃。ツルギの隠れた木の幹を1撃で斬り飛ばす。

 スドォッと倒れる木の向こうに、しかしツルギの姿はない。代わりに、右手前方の木の陰から、2条のレーザーがスミレを襲う。

 スミレは斧に電磁シールドを纏わせレーザーを防ぎつつ、レーザーの発射された方へと向かって斧を振るう。2本、3本と木が倒されていく。しかし、ツルギには届かない。


 逆にツルギは木々の間を走り回り、姿を隠しながらスミレに銃撃を加えていく。右からと思えば左から、前からと思えば後ろから、アーマードギアを装備していてもあり得ない移動速度に、スミレは苛立ちを貯めてゆく。

 今のところすべて電磁シールドで防いでいるのでスミレにダメージはない。それでも、障害物の後ろに隠れながらの攻撃に、スミレのイライラは募ってゆく。


「そっちがコソコソ隠れてるならっ」

 スミレは斧を腰だめに構えると、力一杯振り回した。同時に、斧に仕込んだ超伝導スラスターに点火、コマのように回りながら周囲の木々を薙ぎ払う。

 そこへ飛ぶレーザーの線。それを目印にスミレは方向を調整、回転しながらツルギを追い詰めるべく、移動する。

 そんなスミレに、今度は丸太が襲い掛かる。ツルギの体格だけ見れば彼女の仕業とは思えないが、アーマードギアにより強化された膂力を使えば、スミレの倒した木を投げることも不可能ではない。

 さらに、飛んでくる樹木に混じってレーザーの射線も伸びる。

 スミレは斧の重量と回転力を使って、飛んで来る木々を粉々に砕き、レーザーを弾き飛ばした。


 かなりの広範囲に渡って林を切り拓いたスミレは、斧の超伝導スラスターを逆噴射させて、停止した。半径50メートルほどの木々が切り倒されている。


「どこ行ったっ!?」

 スミレのセンサーはマリナと同じくオーキス・リアクターに反応する。相手の場所をかなり正確に把握できるが、探知範囲が狭いこととリアクターの出力が絞られていると探知しにくいことが欠点だ。

 木を切って広くなったここなら、センサーの有効範囲は20メートル前後。それでも見つからないということは、オーキス・リアクターの出力を押さえて倒れた木に隠れ潜んでいるか、離れた場所からこちらを狙っているか、あるいはすでに逃げたか。


 斧を構えてしばらく周りを警戒するスミレ。やがて警戒を解いて、斧を肩に担いだ。

 その瞬間、近くの倒木が吹き飛び、ツルギがスミレに向かって突進する。両手に持った銃を交差させ、銃口から銃把まで伸びる刃で後ろからスミレに斬りかかる。

 敢えて隙を見せていたスミレも、即座に振り向きながら斧を振り被り、振り下ろしかける。しかしツルギの動きが予想より速く、双銃の刃を斧の柄で受けることになった。


 ギンッ。


 2本の刃が斧の柄に喰い込む。


「やっ」

「くっ」

 跳び掛かった勢いに、さらに地を蹴って運動エネルギーを追加して、ツルギはスミレを押し込む。スミレも斧をしっかりと持ち、押し負けないように全身に力を込める。

 スミレのその判断が命取りになった。斧の柄に喰い込んだ刃はさらに傷を広げ、それを見て取ったツルギは機を見て地を蹴りジャンプ。斧の柄に頭突きをかました。


 ベギッ。


「あっ」

 鈍い音を立てて、ツルギに傷付けられた場所から斧は折れた。2人のバランスが崩れる。

 ツルギは斧を折った勢いのままに交差させた双銃の刃でスミレの首元を狙う。スミレは咄嗟に身体を捻ってツルギの刃の軌道から逸れ、さらに横へ跳ぶ。

 ツルギはズザッと足を踏ん張り、右手を横に振って握っていた武器を離した。

 スミレからやや外れて飛んだ銃は、ツルギと繋がったロープによりその軌道を変え、弧を描いてスミレの身体に巻き付いた。


「くっ」

 拘束したロープを引き千切ろうとオーキス・リアクターの出力を上げるスミレ。しかし、ツルギがその余裕を与えない。

 スミレを拘束すると同時に一息でスミレに肉薄、フェイスプレートの上から顔を掴んで地面に押し倒した。倒れたスミレに馬乗りになると、その首筋に左手の銃の刃を押し当てる。


「チェックメイト」

「……はぁ、負けました」

 スミレは敗北を認めて運営に連絡し、ツルギは武器を引いて立ち上がり、スミレの拘束を解いた。


「それにしても、ツルギ先輩、武器を握ると性格変わりますね」

「そ、そうかな?」

 あれほど激しい戦闘をした人物とは思えないほど、フェイスプレートの奥の表情を柔らかくしたツルギ。普段は引っ込み思案なだけに、ほかの生徒に比べると、戦闘中との差が顕著だ。


「でも、ツルギ先輩と闘えて良かったです。コトナとの再戦がバトルロイヤルの後になったのは残念ですけど」

「コトナ?」

「2Bの西剛(さいごう)コトナです。昨日、闘っている最中に横槍を入れられて、中途半端になっているんですよね」

「西剛コトナ……大きな腕での打撃戦闘の子、ですね」

「その子。先輩、コトナには負けないでくださいね。私を負かした先輩がコトナに敗れちゃったら、不戦敗になっちゃう」

「うん、気を付ける」

「応援してますよ。最後まで勝ち残ってくださいね」

「うん、ありがとう。頑張る」


 柔らかく微笑むと、意識を次の戦闘へ向けた。



 ××××××××××××××××××××××



「エリカっ、上から来るっ」

「上っ?」

 ナオコの警告に視線を上げると、上空に黒い点が見えた。それが見る見る大きくなり、2人の元へ降って来た。


「回避っ」

「うんっ」


 ドッゴォッ。


 エリカとナオコが飛び退いたそこへ、巨大な腕がクレーターを作った。


「上手く避けたね。でも、逃がさないよ」

 巨大な2本の剛腕を構えたのは、西剛コトナ。コトナが両拳を打ち合わせると、巨腕もガギンッと打ち合わされる。


「ナオコっ、倒すよっ」

「うんっ」

 エリカはすぐ様剣を抜いて構え、ナオコはエリカを盾にして後方に下がり、開けた場所から林の中へと姿を消す。


「あら? 相方は逃しちゃうの?」

「さぁ、どうですか、ねっ」

 エリカは先制するため、剣を構えてコトナに向かって突撃する。コトナもただ待ち受けることなく、振りかぶった拳をエリカに向けて振り下ろす。

 エリカは左腕を上げて盾で拳を受け流しつつ、コトナの懐に飛び込んで胴体に向けて剣を振る。

 剣がバチッと電磁シールドに当たる。しかしそれ以上のダメージを受ける前に、コトナの振り下ろした左腕がエリカにヒット。ダメージを受けながらも、左右の巨腕に挟まれる前にエリカは身体を落として回避、後退して距離を取る。が、左腕に殴られたダメージはそれなりにあったようで、片膝をついた。


 その機を逃すまいと、コトナは追撃。振りかぶった両腕の拳が上方からエリカに襲い掛かる。その攻撃が当たる前に、エリカの後方からナオコによるレーザーの射撃。フルオートで発射された何本ものレーザーを、コトナは巨腕で防ぎつつ、エリカへの攻撃は続行。

 レーザーを防ぐために僅かに攻撃が遅れたお陰で、エリカは左に跳んで窮地を脱する。


(あの腕は厄介ですね)

 すぐさまコトナに向けて飛び掛かり、横から巨腕を支えるアームに狙いを定めて剣を振り下ろす。コトナは右腕を上げて剣を防ぐ。


 バチッ。


 電磁シールドでエリカの剣戟は完全に防がれる。

 エリカは即座にコトナから離れる。コトナは今度はすぐには追わなかった。


「お仲間、逃げたんわけじゃないんだ。1対1は怖い?」

 挑発するようにコトナは口の端を上げる。


「それは怖いですよ。そんな兇悪な腕を見せられたら」

「レーザー剣は使わないわけ? あれなら間合いも伸びるし楽なんじゃない?」

「ご存知なんですね。ですがアレ、燃費が悪いので」

「そう? でも出し惜しみしてると負けちゃう、よっ」

 最後の言葉と同時にコトナは巨腕を振り被って、エリカに吶喊する。

 エリカは、振り下ろされる巨拳を盾で流しつつ掻い潜り、最初と同じようにコトナに接近する。林の中からレーザーが乱れ飛ぶ。


 コトナは片腕をレーザーの防御に使い、その隙にエリカはコトナの太腿に剣を突き刺す。と見せかけ、腕を掻い潜って上空にジャンプ、剣を振り下ろす。

 コトナは右腕を素早く上げてエリカを牽制、それによってエリカの剣はコトナの肩を軽く掠るに留まり、迫る巨腕を蹴って離脱する。


(くっ。これは後先考えている場合ではありませんねっ)

 仕方がない、とエリカが覚悟を決めた時、コトナの巨腕が脱力した。ズドンッという音と共に地面に落ちる。


「……どうかなさいました?」

 これも罠かも知れない、とエリカは警戒しつつ問いかける。


「ああ、水切れだよ。あんたのレーザー剣と一緒で、燃費が悪いんだよ」

「それはご愁傷様。ですが、それなら予備を用意していたのでは? 長丁場になることは判っていたのですし」

「してたよ。だけど、持ち込んだコンテナを昨日壊されてさ」

 エリカは、昨日自分たちが行なっていた行動を思い返す。いくつか、隠されたコンテナを破壊したが、その中にコトナの物があったのか、それともマリナ&リコ組が破壊したか。それとも、エリカたちと同じことをしていた別の参加者がいたのかも知れない。


「それでは、西剛先輩はここで脱落ですか」

 完全には警戒を解かずに、エリカは聞いた。コトナは苦笑いで応えた。


「もう警戒しなくていいよ。後は予備バッテリーで運営に連絡するしかできないから」

 それを聞いて、エリカはやっと剣を納めた。


「はぁ、ここで終わりか。あんたとはバトルロイヤルの後でもう一度やりたいね」

「わたくしは御免ですよ。見た目よりずっと、厄介極まりません」

 疲れたように言うエリカに、コトナはニヤリと笑い掛けた。



……あれ? 展開が予定と違う……

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