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武装戦姫スクランブル  作者: 夢乃


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022 前衛と後衛

 マリナはリコとともに、遊歩道に沿って林の中を移動していた。2人はやや離れ、リコはマリナよりも遊歩道から奥まった場所を歩いている。

 昨日、遠距離狙撃を行なっていた参加者を倒したとはいえ、他にもいないとは限らないので開けた場所を堂々と歩く気にはなれず、しかし戦闘になるとある程度の空間が欲しいので、開けた遊歩道の傍、あまり奥まっていない場所を身を隠しながら移動している。


 リコが足を止め、両手で持っているレーザーガンの銃口を、空を突つくように動かした。歩きながらも常にリコを意識していたマリナは、リコの指す銃口の先に視線を向けた。

 しかし、マリナの視界には何も入らない。けれどマリナは、参加者がその先にいることを疑わない。マリナよりもリコのアーマードギアの方が、センサーのレンジが広いのだから、マリナに見えていない誰かを捉えていておかしくない。


 マリナは、目立たないように指でリコにその場での警戒を支持し、自らはそっと前進する。警戒は怠らないものの、木の幹に隠れたりはせず、木々の間を歩いてゆく。

 リコが銃口で指し示したのは上方だった。無駄に空を飛んでいるとも思えないので、マリナは木の枝を特に注意しつつ、林の中を歩く。


 しばらくは何もなかったが、マリナのセンサーがオーキス・リアクターの反応を捉えた。マリナのセンサーの有効距離は精々20メートル。障害物の多い林や森の中では半分以下でしか効力を発揮しない。つまり相手は至近距離だ。

 網膜に投影された方向に視線を上げると、木の枝から枝へと跳び移る人影を視界に捉えた。マリナは槍を相手に向け、レーザーを撃って牽制。


 そのマリナの上空から黒いアーマードギアが襲い掛かる。マリナの後方に着地した影が、2本の短剣を突き立てるより早く、マリナは身体を回転させて槍を横に薙いだ。

 相手は空中にジャンプして槍を躱し、動く槍を一瞬だけ足場にしてさらに跳び、マリナの後背を取る。

 槍を蹴られて体勢を崩したマリナは、攻撃を予期して振り返りながら横に飛び退き、遊歩道へと飛び出る。追って来ないなら林に戻らなければ、と考えたマリナだが、相手も歩道へと姿を見せた。


「2年E組の霧崎(きりさき)シノブ先輩ですね」

 マリナは、隙を見せないように油断なく槍を構えたまま言った。シノブも高ポイント所持者なので、マリナも名前を覚えている。さらに、昨夜エリカの遭遇した双剣使いが彼女ではないかと当たりを付けていた。エリカは断定を避けていたが。


「良くご存知ね。わたしも有名になったものね。そう言うあなたは、1年の茅吹(かやぶき)マリナさんかしら? ギアの色が違うけれど」

「バトルロイヤル仕様ですよっ」

 言うと同時に、マリナは一気にシノブとの距離を詰め、槍で相手の腹を突く。アーマードギアによって加速された動きを、しかしシノブは難なく避け、距離を槍の間合いから短剣の間合いへと縮め、剣をマリナに向けて振るう。

 マリナはすかさず槍を立てて柄で剣を防ぎ、もう一方の剣閃を後ろに跳んで避けると同時に立てていた槍を振り下ろす。


 シノブは両手の剣を交差させて槍を受け止め、剣を槍の柄に滑らせるようにして開いたマリナとの距離を詰める。マリナは槍を縦に回転させ、石突でシノブの顎をかち上げるように動かす。

 シノブは攻撃を中止、バックステップで距離を取る。


 シノブの足が地面につく瞬間、林の中からレーザーの射線が彼女を襲った。太腿に当たったレーザーは、電磁シールドに防がれてバチッと激しく音を立てる。


「えっ!?」

 その一瞬の隙をマリナはもちろん逃がさない。シノブに向けて踏み込み、槍での連続攻撃をかける。シノブは両手の剣で槍を逸らし、体捌きで槍を避ける。

 マリナはこの機に一気に畳み掛けるべく、攻撃の手を緩めない。体勢を立て直す前に攻撃に出られたシノブも、マリナの攻撃を防ぐのに精一杯で、反撃に出ることも引くこともできない。


(ここで決めるっ)

 マリナは攻撃の手を緩めない。この相手はここで逃すと厄介だ、と本能が告げている。歴戦の兵士というわけでもないので、その本能にどの程度の信を置けるのかは微妙ではあるが。

 膠着した状況を崩したのは、外からの横槍だった。


(っ!?)

 2条のレーザーの射線がマリナの脛を掠め、横腹に当たった。電磁シールドを弱めにしていたマリナは、吹き飛ばされこそしないものの、体勢を崩したために一度引く。


「他の人と組んでいるんですね」

「あなたと同じようにね」

 互いにフェイスプレートの内側で、不敵な笑みを浮かべる。


(とはいえ、協力者がいるのは厄介よね。それなら、リアクターの出力をちょっとだけ上げて、シールドに回すっ)

 そう決めると、マリナはそれをすぐに実行、同時にシノブへと踏み込んで攻撃を再開。

 林の中を移動したリコの援護もあって、先程と同じような展開に持ち込む。が、マリナが槍を突く瞬間、槍の穂先がガチッと開き、シノブの横腹を掠める。


 バチチッ。


「ぐっ」

 電磁シールドで防ぎきれず、シノブが顔を顰める。そこへマリナの左前方からレーザー攻撃。しかし、シールド出力を上げているマリナはそれを無視して攻撃を続ける。さらに襲い掛かるレーザーの光。


(はぁ!?)

 今度は右後方で、レーザーが弾けた。先程とはほとんど正反対。同じ人物による攻撃だとすると、いくらなんでも移動速度が速すぎる。攻撃の手を止めることなく、素早く考えを巡らせる。


(協力者が2人以上いる? あたしたちも4人で組んでるけど……いや、もしかして霧崎先輩が組んでいる人って!?)

 バトルロイヤルの参加者名簿を思い返し、多方向から銃撃できる参加者に思い至る。


(あの人だとすると、近接攻撃も考えられる。そうなったら、リコの援護があってもヤバいっ)

 レーザーは強化した電磁シールドでほぼ完全に防げても、質量も伴った斬撃や打撃は防ぎ切れるか判らない。ならばさっさと仕留めなければ、と攻撃の手をより一層激しくする。

 そして開いた槍先がシノブの左手の剣を挟んだ。


(今だっ)

 すかさず槍先を閉じ、さらに手元で槍を捻る。

 バキンッと音を立てて剣が折れた。マリナはそのまま攻撃を続ける。しかし、武器破壊でタイミングのずれたマリナの攻撃の隙を見て、シノブはマリナの胸元に飛び込んだ。剣先がマリナの胸を狙う。


「うっ!」

 咄嗟に後ろに飛び退いたマリナだったが、胸に衝撃を受ける。やはり、レーザーよりも実体のある武器の方が厄介だ。

 シノブはすぐに剣の間合いに飛び込み、2本の剣でマリナに追撃をかける。


(は? あれ? もしかして、予備?)

 どこから取り出されたのかも判らない左手の剣に、マリナは焦る。シノブはあと何本の剣を持っているのだろう?

 先程までとは逆に、今度はシノブが連続攻撃。マリナは両手で持った槍の柄でシノブの2本の剣を防ぐ。

 リコのレーザーが乱れ飛ぶ。それでも射撃時間は2秒程度。相手にも仲間がいる以上、1つ所に留まっていると危険が増すし、銃撃しながらの移動も同じだ。


 シノブもレーザーを無視することにしたようだが、オーキス・ブースターを持たない彼女のアーマードギアでは、レーザーの攻撃を完全には相殺できない。何発か当たったレーザーがギアに損傷を与えたらしく、シノブの右手の動きが精彩を欠いた。

 その隙を突き、マリナは槍の石突をシノブの鳩尾に叩き込む。


「うぐっ」

 かなり強く入った打撃に、シノブは思わず後退る。マリナはそこに追撃を連続で入れる。

 レーザーが飛んでくるがそれには一切構わない。ダメージを負ったシノブに続けて有効打が入り、よろめいた。


(今っ)

 マリナは槍でシノブの手を強く打つ。堪らず、シノブが剣をとり落す。続けてマリナはバガッと大きく開いた槍先で、シノブの胴体をしっかりと挟む。


「霧崎先輩、降参してください。捩り切りますよ」

 さすがにそこまでやるつもりはないものの、マリナは脅しも込めて警告した。


「はぁ、参ったわ。降参する」

 言葉だけでなく、シノブは運営にも脱落を連絡してみせる。


「それともう1つ」

「降参した相手に何を求めるの?」

「大したことじゃありません。先輩の相方、双潟(ふたかた)先輩ですよね? 双潟先輩にも降参を呼びかけて欲しいんですけど」

 ツルギの協力者を、マリナは1度闘ったことのある双潟ツルギと確信していた。多方向から攻撃してくるような武装を持った生徒が、そうそういるとも思えない。


「ツルギ先輩を知っているの? ああ、そういえばあなた1回、対戦してたんだっけ。でも無駄よ。どちらかが脱落した時点で協力関係は終わり、ってことにしてあるから。もうこの辺りにはいないんじゃないかしら?」

「……そうですか」

 嘘か本当かは判らなかったが、マリナはその言葉を信じてシノブの拘束を解いた。


「それでは先輩、失礼します」

「バトルロイヤル、頑張りなさいよ。わたしを下したんだから」

「はいっ」

 ニコリと笑うと、マリナは林の中へと入って行った。どこからともなく、リコが現れて合流する。


「大丈夫だったみたいね」

「隠れてただけだもん。マリナ強いね。先輩にも難なく勝っちゃうんだもん」

「いや、結構ギリギリだったよ。それに、リコの援護がなかったら勝てなかった」

 リコの射撃がシノブのアーマードギアの右手に不調を起こした。それがなかったら、良くて千日手になっていただろう。もちろん悪ければ、負けていた。


「でもいいのかな? わたしだけ楽して生き残ってて」

「それでいいの。リコが隠れて援護してくれないと、あたしが勝てないから」

「そう? なら、次も今と同じに」

「よろしく」

 話をしながらも、2人は林の中を進んで行く。

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