021 強敵との遭遇
「昨日の脱落者は大した数ではないかしらね。今日は積極的に狩っていきましょう」
神峰ミコトは、木々の間から射し込む朝陽を受けつつ、行動方針を定めた。白と紫の美しい意匠のアーマードギアが朝陽に映える。
(昨日の感じ、厄介そうなのは、狙撃してきた子と空を飛んでいた子ね。飛んでいる最中にも狙撃されていたようだから、2人はぶつかったと思うけれど……。相討ちになってくれていると楽なのだけれど)
そう思いつつも、ミコトもそこまでは期待していない。どちらか1人が脱落していればいい方、最悪の場合は2人が同盟を結んでいる可能性もある。
狙撃手が遠方からターゲットを定め、飛行手がそこへ直行し、狙撃手の援護の元で攻撃されたら、自分も危ないだろう、とミコトは思う。
その危険性を踏まえた上で、ミコトは敢えて開けた場所に出た。障害物の少ない遊歩道を選んでのんびりと歩く様子は、無防備の極みだ。もちろん見かけだけで、ミコトはセンサーだけに頼らず、神経を研ぎ澄ませている。
(……いるわね。左右に2人ずつ)
遊歩道の左右に立ち並ぶ木の陰に、ミコトは気付いた。センサーのお陰もあるが、木の疎らな場所を選んでいるので、完全には隠れていない身体が見えてしまっている。
(左右に分散している内にこちらから攻めるか、それとも先に攻撃させてカウンターを狙うか。……手っ取り早く、こっちから行こう)
しかしミコトのその判断よりも一瞬早く、4人は行動を起こした。遊歩道の左右の疎らな林から、4人が武器を振り被って飛び出してくる。ミコトは両手に、剣を抜いた。
「「やっ」」
「えいっ」
「……」
ドガッ。
槌と斧が地面を穿ち、剣と薙刀の刃が空を切る。しかしミコトはすでにその場にいない。攻撃が当たる寸前で歩道を蹴って避け、薙刀を持った少女の後背に回り込んでいる。
「一撃でも大ダメージなんだから、4人で1箇所同時攻撃は非効率よ。面攻撃か波状攻撃にしないとね」
次の瞬間、剣を持った拳で後頭部を殴り付け、意識を刈り取る。間髪を入れずに斧を持った少女に斬りかかるも、持ち上げられた斧で防がれる。
「はっ」
「やっ」
剣が上から、槌が下からミコトに襲い掛かるがミコトはもう一方の剣で剣を弾き、脚で槌を蹴り飛ばす。
斧でミコトを押し込もうとしていた少女は、ミコトが片脚を上げたと見るや、パッと後ろに引いて斧を振り上げる。バランスを崩したミコトが体勢を整える前に、振り被った斧を振り下ろす。
ミコトは脚の超伝導スラスターを一瞬だけ起動、50センチほど移動して斧を避けると同時に体勢を立て直し、相手の斧を持つ手に斬りかかる。
バチッ。
「あっ」
電磁シールドが反応して手首の切断は免れたものの、少女は斧を取り落とす。手から離れた武器に意識が逸れた瞬間を見逃さず、ミコトは相手に向かってジャンプ、膝で顎を蹴り上げた。斧の少女は仰向けに地面に倒れて動かなくなった。
「てやっ」
「……」
剣と槌を持った少女がミコトの両側から襲って来る。ミコトは両手の剣を交差させ、槌の少女の攻撃を掻い潜って彼女に肉薄、2本の剣で相手の胴を薙ぐ。
バチバチバチッ。
「ぐうっ」
剣が電磁シールドを破ってアーマードギアに傷を付け、さらに押されて少女が吹っ飛ぶ。それでも武器を手放さなかったが、遊歩道傍の木に勢い良く背中をぶつけて地面に崩れ落ちた。
その結果を見るまで待たずミコトは振り返り、両手で振り下ろされる大剣を最小の動きでさっと避ける。振り下ろされた剣の軌道を横薙ぎに変えて攻撃する少女。しかしそれはミコトが逆手に持ち替えた剣によって防がれる。
同時にミコトはもう一方の剣で袈裟斬りの攻撃。少女は後ろに飛んでその攻撃を避ける。
ミコトはすぐさま追いすがり、両手の剣で連続攻撃。相手は大剣1本でミコトの激しい攻撃を凌ぐ。
しかし、数で劣り速度でも劣っていては、いつまでも持ち堪えることは不可能だ。
「はっ」
「ああっ」
頃合いを見計らったミコトが双剣で斬りあげた攻撃を押さえることは出来ず、大剣が宙を舞った。
相手の顔が空に向いた瞬間、ミコトは相手の懐に飛び込んで肘で腹部を強打。相手の少女はその場に崩折れた。
「ふぅ。この程度の相手しかいないなら、楽でいいのだけれど。そうもいかないわよね」
呟いたミコトは剣を納めると、大会本部に4人の脱落を連絡した。
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(いた。あそこに2人)
次にミコトが見つけたのは、2人組の少女たちだ。2人はやや距離を空けて、木々に身を隠しながら移動している。向こうもミコトに気付いているはずだが、2対1の優位があるにも関わらず、無防備(に見える)ミコトに攻撃を仕掛けてこない。逆に、ミコトから徐々に離れるように動いている。
自分たちではミコトに敵わないと判断したのか、それとも最初から逃げの一手でとにかく最後まで生き残る作戦か。
(前者ならともかく、後者なら大した相手じゃないわね。倒しても大したポイントにはならないだろうけど、ここは狩っておくっ)
ミコトは双剣を抜くと、遊歩道から林の中へと飛び込む。相手の2人もすぐに反応した。
「エリカっ」
「慌てないでっ」
ミコトがターゲットに選んだ2人は、エリカとナオコだった。小銃を装備したナオコは武器を構えてミコトから離れる方向へと後退り、剣と盾で武装したエリカはナオコの盾になるようにミコトと対峙する。
ミコトは突撃した勢いのままにエリカに斬りかかる、と見せて直前で左に回り込み、エリカの右側から攻撃をかける。しかしエリカもミコトの素早い動きに対応し、向きを変えて攻撃を盾で受ける。
バギンッ。
エリカは盾を横に捌いて、受けたミコトの剣を弾き、逆に自分から斬りかかる。ミコトはやや体勢を崩されたものの、エリカの攻撃を左手の剣で難なく逸らし、そのまま攻撃に繋げる。
エリカは後ろに飛び退ってそれを躱し、すぐさま左前に跳んでミコトの右から斬りかかる。ミコトもそれを剣で受けるが、エリカはすぐに引いてまた攻撃。ミコトの攻撃を盾で受け、逸らし、剣でひたすら斬りかかる。
一進一退に見える攻防が続くものの、2人には最初からずっと、ミコトが優位であることは解っていた。ミコトは余裕を持ってエリカの攻撃を捌き、対してエリカはギリギリのところで辛うじて凌いでいる。
(このまま、押せるっ)
ミコトがそう思った時、少し離れたエリカが盾を装備した左手を素早く振った。ミコトに向かって短剣が飛ぶ。
ミコトが飛んでくる短剣を弾いた時、エリカは横に少し離れている。そして、ミコトの眼前にはレーザーライフルを構えたナオコの姿。
(ヤバッ)
ナオコはフルオートでレーザーを連射した。ミコトはレーザーを剣で弾き、出力を上げた電磁シールドで受ける。
そこへ横からエリカが攻撃を仕掛け、ミコトはレーザーと剣の二重攻撃を辛うじて凌ぐ。
(ここは一旦引いて、射手を先に倒すっ)
そう決めたミコトが、少し太めの木に隠れ、再攻勢に出ようと反対側から飛び出すと……。
「は?」
ミコトが引いた一瞬の隙を突いて、エリカとナオコは戦場から離脱していた。慌ててセンサーを確認するも、すでに反応はない。
「あそこまでやって、逃げる?」
と言いつつも、逃げられては仕方がない。センサーの外に出てしまっては、今から追いかけても追いつけないだろう。
「はぁ、逃げの一手って感じではなかったけど、自他の実力差を把握している感じね。アレは梃子摺るわね」
頭を軽く振ったミコトは、気持ちを切り替えると、次の獲物を探すために歩き出した。
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「逃げ切れました、ね?」
公園内の大きな岩の陰に隠れて、エリカはホッと息を吐いた。
「うん、追ってくる様子もないね」
ナオコも同意して、銃口を下げた。
「でも、あのままやってたら勝てたんじゃない?」
「いえ、おそらく無理でしょう。最初にナオコに離れてもらったから、それでわたくしが抑えてナオコを逃したものと思ってくれたのでしょう。あの方が最初からわたくしたち2人を相手にするつもりでいたら、隙を作ることも無理ですよ」
「そんなに実力差あったのね。アタシじゃそこまで判らないよ。強いことは判るけど」
「マリナとリコも一緒でしたら、いい勝負はできたかも知れません」
「それでも『いい勝負』なんだ……。さすがは最高得点者」
エリカもナオコも、バトルロイヤル参加者の情報は開始前にチェックしている。装備を変えていたら断定は難しいものの、ミコトはバトルロイヤル前と同じ装備だったし、現時点で最も優勝に近い参加者なので、2人ともしっかりと覚えていた。
「まあ、強敵を相手に生き延びたのですから、今はそれで良しとしましょう」
「そうだね。アタシたちの目的は、最後まで生き残ることだもんね」
「ええ。少し休んだら、次を探しましょうか」
「うん」
2人は緊張を解し、喉の渇きを癒すと、再び歩き出した。




