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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
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三十八話 転生したと思ってたけどそんな事なかった

 前世今世界問わず数多存在する創作物において、異世界に移動する形式は三種類だ。即ち、トリップ、転生、憑依。

 トリップというのは単純な異世界移動を指す。ワームホールを潜るとか、空間に穴を開けるとか、魔法でジャンプするとか。肉体や記憶はそのままに異世界に移動する。

 転生は生まれ変わり。前世で死亡し、記憶(場合によってはスキルも)を引き継いで異世界の赤子として生まれる。記憶はそのままでも肉体は移動先準拠。性別が変わったり、人間以外になったり、アホみたいなハイスペックボディだったり、パターンは色々ある。

 憑依は肉体の乗っ取り、あるいは共生、寄生。既にある程度成長した異世界の肉体に意識とか魂とか精神とかなんかそーいうモノ取り憑かせ、意のままに操る。完全に乗っ取り先住の意識を消すパターン、先住の意識と肉体を共有するパターン、何らかの原因で先住の意識が消えた肉体を使わせて貰うパターンなど、バリエーションに富む。

 トリップ、転生、憑依はそれぞれメリットデメリットがあるが、その話は置いておこう。

 俺の場合、入院中に刺殺され、気が付けば母乳を吸っていた。死亡後に赤子スタート。転生に分類される。しかしよくよく考えると、転生はほとんど憑依に含まれるのではないだろうか。

 転生するには赤子の肉体が必要だ。赤子の肉体は卵子が受精し、成長して作られる。魂がフラフラ女性の胎内に入り込み、赤子になるのではない。魂があるから肉体があるのではなく、肉体があるから魂がある。このへんは創作物によって異なるのだが……

 ……回りくどい言い方はやめよう。要するにだ。赤子として異世界に目覚めたとしても、赤子に自我が芽生える可能性を潰して異世界の記憶がインストールされただけで、本質的には憑依と変わらないんじゃね? と主張したいんだよ俺は。

 だってさ、異世界だろうがなんだろうが脳には新皮質があり、大脳辺縁系があり、魂(笑)などというファジー要素が無くても自我が芽生え、意欲的・創造的・情緒的行為ができるようにできているのだ。にも関わらず別世界の記憶があるという事は、生物学的に考えて当然獲得される筈の自我を蹴り落とし、脳を横取りしたという事に他ならない。おおエグいエグい。

 つまり、精子の役割を魂で代用した処女受胎で生まれたとか、魂の存在を前提とした肉体構造をしたビックリ生物として生まれたとか、そういう例外を除いて転生は全て憑依と言い換えられる。

 そして俺は両親がイチャコラした結果生まれた一般的人類だから、例外には当てはまらない。

 判決、黒。転生ではありません。憑依です。










 論理的に考えて俺は憑依、即ち赤子に記憶のインストールが行われて生まれた存在だ。ではそのインストールデータはどこから来たのだろうか?

 地球のソレとは星座は微妙に違い、大陸の形どころか面積も違う。第三次世界大戦か何かで一度文明が滅んだ未来の地球という線も考えたが、観測できる天体が変化するほど年月が経過しているのに人類が存在するのはおかしい。油田も探せばそこら中に未採掘のまま残っていたし、大陸面積がガタ落ちするほど派手にドンパチしたら生物なんぞ残っちゃいないだろう。エーリュシオンとガイアは別世界と考えた方が自然である。

 前世の記憶データが何かしらの理由で残っていて、長い年月が経過した後何かしらの理由で赤子に憑依した、というパターンは無い。すると記憶データが世界の壁を越えてやってきて、何かしらの理由で赤子にインストールされた、という事になる。では要素を三つに分解して確認してみよう。

 どうやって世界の壁を越えたのか。不明。

 どうやって赤子にインストールされたのか。不明。

 記憶データの保存形式。多分魔力。

 まさかUSBメモリに記憶を保存して赤ん坊の脳にぶっ刺してインストールした訳では無いだろうし、恐らく前世の記憶は魔力に保存されてやってきたのだ。魔力は物質の性質・情報を記録する性質があるから、ガイアの地球にも魔力が存在していれば、当然俺の体・記憶情報も記録される。それが……まあなんかモニャっとエーリュシオンに送られてきて……なあなあな感じで赤子にインストールされて……うん。細かい理屈は分からん。だが反証もない。

 この理屈だとガイアにも魔力が存在したという事になってしまうが、存在したんじゃないかと思う。ただし極薄い密度で。

 魔力の密度差は圧迫感を生むが、密度差が無ければ生まない。無機物の自然魔力帯性は0.11mp。ガイアの地球に存在する魔力量が非常に少なかった場合、その少ない魔力を星全体で共有する事になる。例えば星の魔力密度が0.00000000000000000000000000000000000000001mpしかなければ、いくら生物が高い魔力密度を獲得し易いとは言っても、そもそも魔力が無いのだから魔力密度を上げる事はできない。あまりにも星の魔力が少なければ、無機物の魔力密度も生物の魔力密度もほぼ等しくなるのだ。圧迫感なんて生まれるわけがない。だからガイアの人類は魔力密度の差を感じ取る事ができなかった。

 まあこんな感じで理論の補強はいくらでもできるのだが、魔力によって記憶が保存されていた、という事を証明する証拠はどこにもなく、妄想や仮説の域を出なかった。

 ……と思ったのだが、戯れにこの仮説を魔法塔の研究室に放り投げてみたところ、ルフェインがあっさり証拠を見つけてきて仰天した。曰く、

「虚空から沸いて出る魔力の塊あるじゃん? アレじゃね」

 アレだそうです。

 精霊・ウィスプとして世界中に散っていると分かるのだが、前触れも無く魔力の塊が出現する事がある。出現場所は空中であったり、水中であったり、地中であったり、完全にランダムらしい。

 魔力塊は握り拳大で、出現後二秒もしない内に周囲の魔力に溶けて消えてしまう。出現頻度も低く、数十万体で世界中に散っていてやっと時々観測できる程度のものだ。これは精霊システム開始当初から観測しつつも、何が起きているのか分からず放置されていた案件だった。

 さて、まずは魔力塊が握り拳大であるという事に着目しよう。人間が死ぬ時に出る魂っぽい何かも同じ握り拳大。すぐに周囲の魔力に溶けて消えるのも同じ。二つは同一か類似のモノであると考えられる。

 魂っぽい何かの正体は人間の形質魔力の中で脳の記憶や思考を記録している魔力鎖。他の情報を記録している魔力鎖よりも拡散しにくいため、他の魔力鎖が拡散してからもほんの少しの間だけ拡散せず残り、それが魂のように見える。事実人間の記憶や性格を記録しているのだから魂みたいなもんだ。

 ルフェインは各地に出現する魔力の塊を魂(偽)と仮定し、捕集した。魂(偽)はすぐに拡散してしまうので、予め一定地域にウィスプを大量派遣して網を張っておき、魂(偽)を認識し次第即座にアダマンティウムを転送、魂(偽)を封入する。アダマンティウム内では魔力の構造の変化が起きないから、魂(偽)を拡散させずに保管できる。

 魂(偽)入りのアダマンティウムはエルフィリアに輸送。存在鎖を挿入しながら魂を取り出す。魔力鎖は存在鎖の量が増えるほど拡散しにくくなるから、存在鎖を大量に挿入すれば魂(偽)も拡散しなくなる。

 捕獲した魂(偽)が本当に魂(偽)なら、この操作によってゴースト化するはずだ。ゴースト化には通常高い魔力操作技術が求められるのだが、今回は未熟な魔力操作技術を存在鎖の量で補填した形になる。

 魔法塔、空き研究室の片隅でとりだした魂(偽)が蠢くのをドキドキしながら観察していると、数秒で見事に人間の姿に変化した。ちじれた黒髪に、インド人っぽい顔立ち、そしてターバン。おお! す、すげえ! ルフェイン大当たりだ!

 俺はここ百年で最大級の興奮を感じながら最も通じる可能性の高い英語で話しかけた。

「Excuse me,can you speak English?」

「من أنت؟ أين هنا؟ كيف بحق الجحيم كنت! ؟」

 お、おお……何言ってるのか分かんねえ……なんだろう、ヘブライ語? アラビア語? そもそも地球の言語かこれ。仕方ない、まずは混乱しているゴーストをどうにかなだめて言語理解だ。なあに、六十万体の解析力をつかえば数時間で終わる。












 六時間で終わった。アラビア語だそうです。やっぱりガイアの地球からやってきた魂(偽)だった。あんびりーばぼー。すごいね、魂(偽)。

 と、いう事は、だ。

 赤ん坊というのは母の胎内から出たばかり。まだ脳が未発達で、形質魔力も生成・形成されていない。そこにガイアからやってきた形質魔力を突っ込まれる。ゾンビの場合は素体の形質魔力に創造者の形質魔力が混ざる形で支配力が発生するが、赤子にガイアの形質魔力の場合、形質魔力無しの所をまるまるガイアの形質魔力が占領する。支配力100%、憑依状態になる。ゾンビがOSとソフトが入ったパソコンにウイルスを入れて操作を乗っ取る。憑依がOSもソフトも入っていないまっさらなパソコンに独自のOSとソフトを入れる、と考えると分かり易いだろう。

 ランダムにガイアからエーリュシオンに転移してくる魂(偽)が、偶然生まれた直後の赤子の脳が存在する座標に表れる可能性=憑依が発生する可能性。天文学的ってレベルじゃねーぞおい。通りで転生者……じゃない、憑依者が俺以外いないわけだ。むしろ俺が存在するだけでも途方も無い奇跡。

 ううむ。転生……じゃない、憑依して四百年以上。ようやく憑依理由が判明したのだが……なんか凄く変な気分だ。これが何か超常的な存在が関わっていたとか、召喚魔法っぽい何かが暴走した結果だとか、そういうのだったら前世の知識にもあるしハイハイで済む。が、ただ単にそういう法則があっただけ、100%偶然の産物と来た。自然過ぎて逆にそこはかとない理不尽さを感じる。

 俺ってホント天元突破した幸運の持ち主だったんだなあ……普段は別に不幸でも幸運でもないが、致命的な所は切り抜けられるあたり何者かの作為が介在しているのではないかとすら思う。まあ英雄だから偉業を成し遂げたのではなく、たまたま偉業を成し遂げた一握りの者が英雄と呼ばれているのと同じように、何者かの作為なんて存在したないんだろうけど。主観で見るか、客観で見るかだ。

 ……よし! そろそろ転生憑依云々は隅に置いておこう! 言語解析は終わったし、ガイア地球の近況について聞きますか! 俺が死んでから四百年、どれだけ地球の科学が進んでいるのか正直気になって気になってしかたないぜ!



 タグが「転生」ではなく「転生?」になっている理由はここにある。「憑依」にするとネタバレになるから「転生?」で妥協した。

 以下本文中に挟めなかった補足。本編ではこの補足事項も判明している(少なくとも理論上はこうであるだろうとされている)ものとして進めていきます。




 dmは魔力鎖の形で情報を保存するが、ガイアの魔力密度は途轍もなく薄く、通常情報の保存に必要なdm数すら確保できない。偶然魔力帯性が非常に高く生まれついた生物(この時点で極小数の人間に限定される)はdmを吸引する力も強いため、なんとか情報保存に必要なdm数を確保できる。そのような生物が死亡すると真っ先に肉体情報を記録した魔力鎖が拡散し、次に記憶を記録した魔力鎖が拡散するのだが、拡散し始める最初の段階で「エーリュシオンに転移する法術鎖」の形態をとる。死体の中に封じられた形質魔力が不老効果を持つ法術鎖に変化するようなもの。そしてエーリュシオンに転移。エーリュシオンとガイアは非常に似た世界であるため、ガイアの地球で死んだ場合、エーリュシオンにおけるガイアの死亡位置に相当する場所に出現する。転移後は普通に拡散。

 遥か昔はガイアの魔力密度はエーリュシオンと同程度に高かったのだが、充分な魔力密度を持った生物が死亡するたびに魔力がエーリュシオンに転移していくので、どんどん魔力密度が下がっていった。逆にエーリュシオンの魔力密度はガイアから送られてくる魔力によって上がっている。

 エーリュシオンで生物が死亡した場合も魔力鎖は拡散し始める最初の段階で「エーリュシオンに転移する法術鎖」の形態をとるが、既にエーリュシオンに存在しているため、効果を発揮しない。

 エーリュシオンとガイアは物理法則も魔法法則も全く同じ。魔力密度さえ確保すればガイアでも魔法は使用可能。

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