三十四話 我が腕の中で息絶えるが良い(キリッ)
第一次魔王城攻城戦から約百六十年が経った。万死の長城ができた帝連領土戦争から数えても百年以上経っている。この百年、マホウ大陸は大きな諍いも飢饉もなく、概ね平和だった。そうなるように影に日向に調節してきたのだから当たり前と言えば当たり前なんだけども。
しかしそろそろちょっと一戦かまさにゃならなくなってきたようだ。最近連合国と帝国が中心になってなにやら画策してるんだよねこれが。精霊とウィスプを通してまるっとお見通しだから画策とは言えないが本人達は画策しているつもりだ。
連合国はちょいちょいアンデッドと取引して美味い汁吸ってる強かな連中なのだが、やっぱり彼らにとっても魔王は消えて欲しい存在だ。一番嫌がられているのは万死の長城。
万死の長城は連合国と帝国の間にある長城で、常時アンデッドが詰めている。近付けば攻撃され、強行突破も不可。死霊教と癒着している商人ならばコッソリ通すが、通行料をそれだけで足が出るほどガッポリ頂戴する。多額の金銭であったり、生贄であったり。
連合国は大陸南西にある国で、他国と交易するためには北東へ行かなければならないのだが、万死の長城が長々と横たわっているせいで一々大きく迂回せざるを得ない。はっきり言ってものすごーく邪魔だ。万死の長城のせいで陸路での交易ではほとんど利がでず、実質海運頼りになっている。
魔王が消えれば万死の長城に詰めているアンデッドも消える。そうなれば陸路が使えるようになり、交易はそれまでと比較にならないほど活発になり、更にアンデッドが消えた長城を 帝国に対する防壁として再利用もできる。
従って連合国が魔王討伐を目論むのは当然の帰結と言えるだろう。
帝国の場合、第一次魔王城攻城戦でコテンパンにされ、万死の長城に攻め込んだ時もフルボッコにされ、魔王軍に全敗中だ。雪辱は帝国人の悲願である。
また、帝国では祖霊信仰が根強く残っていて、名誉の戦死を遂げ安息の眠りについた死者を無理やり起き上がらせ、捨て駒のように使う魔王に対する反感は強い。
帝国は第七十七代皇帝(シモンの息子。実質的にはその鬼嫁)以来コツコツ農地を拡大し、武具の生産に力を入れ、兵力の充実を図ってきた。生活水準は向上し、人口は増え、特に戦略・戦術・武装の技術の発展には目を見張る物がある。
期は熟せり。雌伏の時を経て、帝国は大きく動こうとしている。八十一第皇帝ゼノビアの治世の下、帝国民の反魔王の士気は高い。
教国は言うに及ばず臨戦態勢だ。教国は魔王城がある北山脈に国土が面しているため、頻繁にアンデッドが現れてちょっかいをかけていく。最早アンデッドとの戦いは日常で、連合国と帝国との合同作戦と言ってもいつもの延長線に過ぎない。
つまり全面戦争の予感! ざわ……ざわ……!
……いや止めてくれよ。人類の発展や利益がトータルでプラスになるように調節してるんだから、人死にが大量に出たらその分揺り戻しのプラス要素をドカンと増やさにゃならぬ。やめてよね、アンデッドが本気出したら人類が勝てる訳ないだろ。
……なんか戦争になるたびに同じような事考えてるような。
全面戦争に突入してしまうとかなりの死者を出さざるを得ない。そりゃあ手加減しまくって、死者数人! 重軽傷者十万人! なんて事も可能だが、アンデッドが生者を憎んでいるという設定上不自然極まりない。
という事で最早恒例、犠牲を少なくする方向で行く事にした。前回と同じ少数精鋭の戦いになるように工作をする。マッチポンプを始めて百年以上、俺は既に人間社会に空気のように違和感無く、かつ致命的に蔓延っている。状況操作は容易い。
裏に表に動き回った甲斐あり、三国連合はこちらの思惑通り少数精鋭でもって電撃的に魔王城に攻め込む事になった。
大規模に軍を動かせば市政に潜むアンデッドやウィスプに感付かれる。少数精鋭部隊は第一次魔王城攻城戦では敗北したものの城の入口までは到達した実績がある。そのあたりが少数精鋭で納得させられた理由だ。
作戦の概要としては次のようになる。
まず連合国軍と帝国軍が南北から同時に万死の長城を攻める。これは魔王軍の注意を万死の長城に惹きつけ、魔王城から目を逸らせるための陽動であり、魔王城を攻める本命部隊が挟み撃ちに遭わないようにするための足止めである。これは陽動なので本腰を入れて攻める事はしない。陽動だと悟られない程度に、かつ犠牲を抑えて戦う。
陽動をかけている間に三国精鋭部隊が魔王城に集合。集合には風属性Lv3スペル、テレポートを使う。
Lv3スペルは最近解放したばかりで、使い手は九人しかいない。精霊と追加契約し、魔質製の指輪(※)に精霊を宿らせる事によって使用可能となる(という設定)のだが、肝心の指輪の供給を絞っている。指輪は表向きは精霊の力の結晶という扱いにしてあるから、あまり一気に供給しても、精霊ハッスルし過ぎだろ……となってしまう。
ちなみに精霊魔法は大雑把に言うと、
Lv1スペルが「生活にちょっと役立つ。頭使えば一応戦闘にも使える」
Lv2スペルが「標準戦闘用。単体攻撃・防御」
Lv3スペルが「複数攻撃・防御。大火力」
Lv4スペルが「マップ兵器」
となっている。Lv4は未実装だが。
Lv3スペルを解放したのは主に科学兵器の発展を妨害するためだ。精霊魔法は万死の長城に無効化されるが物理的な攻撃なら無効化されないため、連合国は物理攻撃でなんとかしようと思ったらしく、投石器の改良がされ、その果てにチャチな大砲ができてしまった。湿気に弱く連発できず射程が短く威力はたかが知れていて量産もできない大砲だが、大砲は大砲だ。性能は上がっていくだろう。
こちらで掌握できない(し難い)兵器が発達していくのはマッチポンプの性質上好ましくなく、「大砲よりこっち使えよ!」とLv3スペルを解放した形になる。Lv3スペルは万死の長城に無効化されず、かつ現状大砲とは比べ物にならないほど強力。射程は及第点で、そこそこに連射ができる。量産についてはこれからに期待。
思惑通り燃え上がりかけた大砲開発は鎮火したので結果は上々だ。
話が逸れた。
テレポートはLv3スペルが使える風精霊使い同士の間でしか使えず、Lv3風属性使いは三人。三人の内一人が北の山脈の麓で待機し、帝国と連合国に散った二人が二国から兵と物資を転送する。教国は集合地点に近いので転送は使わず人目を避け出来る限りの隠蔽をしながら集合。Lv3精霊使いの残りは土属性二人、火属性二人、水属性二人。内、土属性の一人はカモフラージュとして万死の長城を攻める。火属性の一人は教国で待機。残り七人は攻城戦に参加、となる。
集合した戦力で迅速に魔王城前まで進軍。魔王城前で休憩、一気に落とす。大体そんな作戦。ぶっちゃけ前回とあんまり変わらん。
前回より手強くはなっているようだが、残念ながら彼我の実力差はますます開いている。前回が戦闘力50vs1000だったとすると、今回は200vs530000ぐらいある。200の内130ぐらいは貸し出し戦力だし。まーほどほどにやられたフリして華持たせてから追っ払うつもりです。
さて、三国連合に対する魔王軍(笑)だが。
せっかくなのでエルフィリアで開発された兵器系発明品の数々の実験をさせて頂く事にした。いや実験というか面白半分に近いものがある。人命を面白半分に弄ぶというのも外聞が宜しくないが、全く必要の無い過程を踏んで殺すならそれは面白半分なのではないだろうか。苦しめて殺す訳ではないんだけどさ。
具体的に言うと、まず超変換タキオン弾を使った魔導銃が挙げられる。
超変換というのは法暦178年に錬金術分野で発見された現象だ。
タキオンやグブレイシアン、フェンリウムなどの「ダークマター、オドをなんらかの物理的出力に変換する」もしくは「物理的エネルギーをダークマターに変換する」魔質は、通常その変換速度に上限が存在する。1gあたりで考えた時、ラピュタイト・フェンリウム・ムスペリウムなら最高10^14dm/s、グブレイシアン・タキオンなら10^7dm/s。エンハンサイトを使って性質を強化しても、変換効率が上昇するだけであり、変換速度が上昇するわけではない。
しかし超高濃度のエーテル存在下では、変換速度の上限が観測できる限りでは無限大になる事が分かった。ダークマターがあればあるだけ、熱エネルギーを与えれば与えるだけ、即座に全て変換し尽くすのである。
例えば1gのタキオンに38638655.9mp、即ちマナ結晶にならないギリギリの密度の魔力を与えると同時に運動ベクトルを与えてみた所、衝撃波を撒き散らしながら超加速して一瞬で見えなくなった。たった1gの物質に対して118817196925J≒1.2×10^11J(※タキオンの密度が水と同じであるものとして計算してあります)ものエネルギーが注ぎ込まれた事になるのだから、当然こうなる。余裕で太陽系から脱出して今頃宇宙のどこかで星になっているだろう。ヒヒイロカネでコーティングしておいたから多分燃え尽きてもいない。
同様に1gのグブレイシアンに38638655.9mpの魔力を与えれば瞬時にグブレイシアンの火は火柱もかくやという大きさに燃え上がり、dmを変換して約0.001gの物質を生産していた。物凄く効率は悪いが、入手が難しいレアメタルの採掘に頼らない生産が可能になった。本当に効率悪いからやらんとは思うが、できるというだけで違うもんだ。
そんな超変換を使って放たれる弾丸、タキオン弾。内側からタキオン+フェンリウム、ブルーメタル、パリスチール、トラペゾヘドロン、ヒヒイロカネの五層構造になっており、発砲後弾丸が銃身から離れるのとほぼ同時のタイミングでパリスチールがブルーメタル内部にdmを押し込み、タキオンを加速させる。込めておくdm量にもよるが、仮にフル充填すれば雷数百発分のエネルギーをぶち込まれる事になる。命中したモノは肉片どころか血煙と化す事だろう。回避? できるわけないだろ何言ってんの? しかも発砲後に加速するから、反動も運動ベクトルを与えるためのほんの少しのものしかない。子供でも撃てる。魔導で発砲するから火薬も要らない。トラペゾヘドロンを組み込んであるから発砲後に弾丸の回収もできる。最外部がヒヒイロカネ製だから勿論弾丸は変形しない。中心部に微量あるフェンリウムのおかげで発射後に弾丸が空気摩擦で温度が上がり過ぎたりもせず、プラズマ化する事もない。
銃の方は弾丸と同一のトラペゾヘドロンと転移魔導を組み合わせて、発砲した弾丸を自動回収し、フェンリウムで吸熱してからマガジンに戻す仕組みにしてある。更に賢者の石を使った魔力集積システムも組み込んであるため、dmが空になった弾丸には勝手に魔力充填が行われる。
つまり! 残弾数は常に無限の! 凶悪性能魔導銃だったんだよ! 薬莢? ごめん何言ってるのか分からない。薬莢なんていらないから。魔導銃ナメんな。
そんな魔導銃(恐)だが、唯一の難点は命中精度だ。道具は完璧でも使う側がね。あ、いや、道具は完璧ってのも言い過ぎだった。
あんまり連射してもdm充填が追いつかずしょっぱい威力の弾しか撃てないからペース考えて撃たなきゃならんし、撃つ瞬間は止まっていないと弾丸に変な運動ベクトルが加わって明後日の方向に飛んでいってしまう。使いこなすのは結構難しい。故にゾンビに実戦で使わせ、経験を積ませて改良案を出していく予定だ。
次に挙げるとすればリビングアーマーだろうか。
一度『杖』としてマスターを持った魔核は、マスターの死後ほとんどの場合次のマスターを持つのを嫌がる。もし次のマスターを選ぶとしても前マスターの息子か娘を選ぶ。魔核は身持ちが堅いのだ。
で、未亡人ならぬ未亡核は『杖』から離れるわけだが、いつまでもむき出しの魔核のままでコロコロしている訳にもいかない。魔核はバットでフルスイングすれば割れる程度の強度しかないし、いちいち魔法を使って移動するのも面倒臭い。そこで造られたのが対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、通称リビングアーマー。
ドヴェルギウム製のスリムな素敵フルプレートアーマーボディに、スライミウムを使った魔導筋肉。頭部のバイザーから覗く魔核(本体)がモノアイのようだ。ナイトブレイザー、あるいは四次バーサーカーを想像すれば分かり易いだろう。
リビングアーマーは魔核が魔力操作によって体の各部を駆動させて動く。超変換タキオンも組み込まれていて、クイックムーブも可能だ。慣れない内はよく地面に突っ込んだり壁にめり込んだりするが、慣れると恐ろしく俊敏に動く。ラピュタイトも組み込んであるから重さも自由自在で(軽減無しだと200kg)、その気になれば空も飛べる。魔力補給は賢者の石によって迅速に行う。
更には個体によっては掌に小型魔導砲仕込んでたり、一発限りの超威力パイルバンカーを装備していたり、目から魔導ビームが出たり、腕にヒヒイロカネとミスリルの合板製サバイバルナイフを格納してあったり、何を血迷ったか自爆機能付けてる奴もいる。
多分ロマンに走るようになったのは俺とエルマーの影響なんだろうなあ……魔核の教育係俺だし。エルフィリアでは真面目に兵器開発するまでもなく十分兵力は充実しているから、どうしても武装がロマンに傾きがちになる。いいんだけどね。ロマン好きだし。
今回の戦いではまーなんかそういう兵器系発明品を使わせていただきます。健闘をお祈りしています。
※
トラペゾヘドロンをヒヒイロカネでコーティングしたリングにグブレイシアンの珠をはめたもの。精霊の指輪と呼ばれる。Lv3以上のスペルは魔力消費が激しいため、Lv3以上のスペルを唱えた時は精霊が指輪のトラペゾヘドロンを通してエルフィリアに設置された魔力保存用巨大アダマンティウムから魔力を引き出している。表向きは精霊の力の結晶(笑)であり、魔力の増幅(笑)器とされている。




