三話 グブレイシアンの性質
法暦34年になって確信した事がある。グブレイシアンは密度19.2までの魔力しか受け付けない。
俺の魔力密度は現在19.7なのだが、この魔力をグブレイシアンに押し込んでもグブレイシアンから感じ取れる魔力密度は19.2以上にならない。密度19.7の魔力を無理やり押し込もうとしてもグブレイシアンに入る魔力密度は勝手に薄まって19.2になり、量的に入らなくなった分の魔力は侵入を拒まれる。密度19.2の魔力を一杯まで保有しているグブレイシアンの密度を魔力圧縮で上げようとしても上がらない。
魔力密度19.2だの10.0だのというのはあくまでも人間の平均を基準にして俺の主観によって判断される単位なので多少の誤差がどうしても出てしまう。だから最初は気のせいかなー、と思っていたんだが、流石に魔力密度0.5も差があれば気のせいという事は有り得ない。間違いなくグブレイシアンが保有できる魔力密度には明確な限界が存在している。そう、明確な限界が存在しているのだ。
俺は狂喜した。これでようやく明確な魔力密度と量の基準が作れる! 魔法や魔術の基礎となっている魔力を今まで目分量で測っていたなんて正気じゃない。よくもまあここまでなんとかやってこれたもんだ。
俺は今まで使っていた密度を主観密度とし、グブレイシアンが保有できる最大密度を新しく統一密度1.0として定めた。
魔力の体積と密度は反比例するので、統一密度1.0の魔力を倍に希釈すれば正確に統一密度0.5の魔力が得られる。密度不明な魔力があったら、圧縮してグブレイシアンに入れ、グブレイシアンが魔力を受け付けなくなるまでに入った魔力量から密度を正確に出す事ができる。ダイヤモンドがグブレイシアンに変化する密度は統一密度と等しかったので、統一密度に達しているかどうかだけが知りたいならダイヤモンドを魔力で触ってもいい。
統一密度以上の魔力密度でも計測は可能だ。例えば一立方メートルの体積の魔力Xと一立方メートルの体積のグブレイシアンがあったとして、0.5立方メートルしか魔力を入れる事ができなければ魔力Xの統一密度は2.0。いくらでも測れる。
今まで使用していた主観密度1.0≒統一密度0.052となる。小数点割るとなんとなくしょっぱい数値に見えるんだよなあ。いや低くはないんだけどね。ちなみにシルフィアは0.221、エルマーは0.263だった。魔法発動に必要な最低密度は0.167。エマーリオは多分0.55ぐらいだったと思う。
統一密度ができた所で話はグブレイシアンが出している火の事に移る。グブレイシアンの火はどうやら魔力を消費して燃えているらしい。
魔力操作で内包する魔力を無くしたグブレイシアンを真空中に入れると、火が消える。真空中は事実上完全に魔力が無い。その状態で火が消えたという事はグブレイシアンの火は魔力を燃料に燃えていたと推測できる……が、真空中で消えただけだと、真空になったせいで消えたのか魔力が無くなったせいで消えたのか判別がつかない。
そこで魔力操作によって0.001立法メートルの完全固定の無魔力空間を作り、その中に追加で作って増量したグブレイシアン100gを入れてみた。
完全固定も不完全固定の先にある技術であるから、観測はできないが微妙に魔力が漏れる。無魔力空間とは言っても観測できないだけで魔力は存在している。グブレイシアンが魔力を消費して燃えているなら、その観測できない魔力を使って燃えるだろう。実際、完全固定の無魔力空間に入れたグブレイシアンは普通に火を出していた。
しかし「完全」固定なだけあって、漏れる魔力量は非常に少ない。少なくとも魔力感知による主観的な観測が不可能なレベルの量だ。グブレイシアンがどの程度の効率で魔力を燃やしているのか分からないが、グブレイシアンの魔力消費速度が完全固定の魔力から魔力が漏れ出す速度を上回れば、無魔力空間内の魔力は減っていき、やがて無魔力空間内の魔力がゼロに近くなり、火は弱まるか消えるはずだ。そうなればグブレイシアンは魔力を消費して火を出しており、真空である事は火が消えた事と無関係であると分かる。
しかしこの実験には幾つか不安な点もあった。第一に魔力が漏れるペースがグブレイシアンの魔力消費ペースを上回っていた場合、例えグブレイシアンが魔力を消費して燃えていたとしても永遠に燃え続け、火が弱まる事も消える事も未来永劫ない。第二にグブレイシアンの魔力消費速度が魔力が漏れるペースを上回っていたとしても、その速度の違いが僅差であった場合、グブレイシアンの火が弱まるか消えるかするまで下手をすると何十年もかかる。第三にそもそも魔力ではなく物質を無差別に燃やして(?)いるだけで魔力の有無は関係なく、真空で火は消えるが周囲に物質が存在する状態であれば燃え続けるという可能性も十分に考えられる。
まあ実験というものはそういうもので、結果が分かっているものはただの確認実験だ。結果が分かりきっているならわざわざ実験なんてしない。という訳で長丁場を覚悟して実験を始めた。「いつまでも結果が出ない」という結果が有り得る実験なので、平行して別の方法でグブレイシアンの火の性質を探れないか考える。
が、幸い約四十八時間で結果が出てくれた。でかいロウソクの火ほどの大きさだったグブレイシアンの火が急に表面を微かに舐める程度の大きさになったのだ。その状態でしばらく観察してもそのままだった。完全固定の魔力から漏れた魔力を燃やしているのだろうと考え、完全固定を解いてみると、無魔力空間内に魔力が流れ込み、グブレイシアンの火は再び燃え上がった。
やはりグブレイシアンは魔力を燃料にして燃えていたのだ。正確に言えば火のような見た目の光を出していたのだ。火は対流のせいでああいう細長い形になっていると聞いた事があるし(宇宙空間で火は球になる)、グブレイシアンが燃やしている魔力にも対流が起きているんだろうか? 魔力が対流を起こす性質を持っているのか、グブレイシアンによって燃焼? している魔力だけが限定的に対流を起こすのか、それは分からない。第一対流が起きた起きないって事が何を意味するかと言われても知らんしさ。対流のせいで火のように燃えてるのかも断言できんのだ、確認方法も思いつかないから対流については放置の方向で。
グブレイシアンの魔力的性質で分かった事は、というか確認しておく事なんだが、もう一つ二つ。
別にグブレイシアンは自然状態で統一密度1.0を帯びているわけではない。あくまでも魔術によって上げれられる密度が1.0なのであり、魔力操作をしなければ帯びる魔力は大気魔力密度(0.1774)と変わらず、また、一度1.0まで上げても魔力操作を止めるとすぐに保有魔力を吐き出して大気魔力密度に戻る。
ダイヤモンドを材料にしてグブレイシアンを複製するのは不可能だ。やろうとしても魔法は発動しない。まあこれは分かる。ダイヤモンドが魔力を吸収してできたのがグブレイシアンなのだから、「ダイヤモンド+魔力=グブレイシアン」なのだ。魔法に魔法をかけたり、魔力に魔法で干渉したりはできても、魔力を材料に複製魔法を使うのは無理。例え使えたとしても結局グブレイシアン24gに俺五万体分の魔力が必要であるという事に変わりはないから、複製しても作成方法がちょっと変わっただけで意味は無い。
次は科学的性質を見てみよう。
俺は複製魔法チートと化学知識のおかげで王水を作れる。王水は銀以外の全てを溶かす激烈な酸化力を持った液体だと記憶している(※)。グブレイシアンを塩酸に入れても溶けなかったので王水をかけてみたんだが、グブレイシアンはケロリとしていた。反応、無し。つえええええ! いやダイヤモンドにかけても溶けなかったんだけどね。でも燃やしてやろうと酸素を吹きつけながら業火に晒してみても熱を帯びるだけで全く燃えなかった。ダイヤモンドならこの方法で燃えるんだが。酸に溶けず燃えもしない、根本的にダイヤモンドとは違う物質なんだなと再確認した。
グブレイシアンは明らかに炭素ではないからもしかすると融点と沸点があるかと思い、と釜に入れて魔法の炎で加熱してみたりもした(魔法の炎は普通の炎よりも温度を高くできる)。で、一応融解してドロドロにはなったんだけども、何℃で融解したのか分からん。温度計が300℃までしか測れないのが悔やまれる。目盛り振り切りやがった。300℃以上で融解する物質って言うと……いや分からんわ。物質の融点なんていちいち覚えてないし、覚えていたとしても候補が多すぎる。それに魔力を燃やす物質なんてグブレイシアン以外に存在しないだろ。そんな物質が存在したら「常に熱くない火を出す不思議な物質」としてとっくに祭り上げられてるわ。神秘性抜群だもんな。
グブレイシアンは既存の物質とは全く違う何かなのだ。魔力をたんまり吸収してるしさ。ゾンビが継続的に「腐敗しない」という物理を超越した状態を保っているように、グブレイシアンも魔力の吸収によって継続して物理の範囲からつま先を越えた状態になっているのだろう。言わば魔法物質。
この状態がいつまで続くのかは分からん。ゾンビの腐敗防止機能はもう一度死ねば切れるが、グブレイシアンには死ぬも何もない。砕いても性質は変わらない。
仮に魔力を消費して火のようなものを出す、という性質が吸収した魔力を使って起こされているとしても、24gにつき俺56892体分という莫大な量の魔力を吸収しているのだから、吸収した魔力を使い切るには相当の年月がかかるだろう。
まあ吸収した魔力を消費してるって可能性はないとは思う。吸収した魔力を消費してるんだったら真空中でも火を出すはずだから。ダイヤモンドは魔力を吸収してグブレイシアンという魔法的性質を持つ魔法物質に変化したと考えた方が自然だ。
魔法物質かあ……
ミスリルとか。オリハルコンとか。ファンタジーの定番金属。グブレイシアンはそういう有名所と違ってあんまり強そうな魔法物質ではないが、大気魔力の密度でも灯りに使えるレベルで光るって所は便利だ。街灯ほど明るくは無いが、ロウソク程度には使える。グブレイシアンランプを作ってみるのもいいかも知れない。
※
間違っています。詳しくはWikipedia先生にお尋ね下さい
統一密度なんて言ってますが、次話か次の次の話でサラッと別の単位にとって代わられるので覚えなくていいです。
三話まとめ:
・グブレイシアンは密度19.2までしか魔力を保有できない。この密度を統一密度1.0とした。
・グブレイシアンは魔力を消費して火のような見た目の光を出す
・グブレイシアンは複製魔法で複製できない。
・グブレイシアンは燃えないし酸に溶けない。エイリアンにゲロ吐かれても余裕です
ちょっとモガの村に行ってくるので、次回からの更新は二~五日置きになると思います




