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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
二章 蠢く者達
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三十話 祭り

 エルマーの剣術は凡そ四十年の歳月をもって完成した。本人はまだ研鑽の余地があると言っていたが、それはもう99%の完成度をいかにして100%に近づけるかという意味であり、まず完成したと言って良い。

 エルマーは元々あった剣の才がエマーリオの薫陶をうけて開花し、身体能力が絶頂期を迎える年齢でノーライフとなり衰えない体を手に入れ、スケルトンやゾンビを相手に技を磨き続け、第一次魔王城攻城戦の後から数年は帝国の精鋭のゾンビを相手に濃密な訓練を重ねてきた。今では元皇帝ババンバと精鋭隊の戦士二人、そしてリッチ一人を同時に相手取ってねじ伏せる事ができる。

 自身の周囲への魔力の侵入を防ぐ魔力結界の範囲も半径五ミールほどに拡大し、展開速度は一瞬で、強度も折り紙付(シルフィアでようやく拮抗、破れるのは俺だけ)。そしてエルマーは今この世界に存在する遠距離攻撃手段のほぼ全てを五メートルの距離があれば回避できてしまうため、魔法・精霊魔法を当てるのは不可能に近い。

 間違いなく大陸最強の剣士だろう。戦闘で殺すとしたら飽和攻撃で圧殺するぐらいしか思いつかない。スタミナ無限だし。剣筋が見えないなどというファンタジーに遭遇したのはエマーリオ以来だ。

 そんな稀代の剣士、エルマーに聞いてみた事がある。

「お前我流じゃなかったのか? 動きがなんか……こう……流麗過ぎる。我流の剣術にしちゃあ芯がしっかりし過ぎてるというか」

「なーに言ってんだロバートさん、世の中の剣術は元を辿れば全部我流なんだぜ?」

「そりゃそうだが」

「自分の体の構造と好みに合わせた最適な動きを追求すれば自然に『こうなる』もんだよ」

「……そういうもんかね」

 そのやり取りでやっぱり才能というか発想というかそういうものは大切だと再認識した。剣術もそうだし芸術もそうだし研究もそうだ。一個人の才能・発想が六十万の計算に勝る事がある。

 ふむ。そろそろ義務教育制度を導入しても良い頃合か? 里の人間の大多数が土地っ子に切り替わっているし、生活も安定していて目立つ問題は出ていない。義務教育を受けた世代が里の人口の多くを占めるようになったら今度は魔法を学ばせてみようか。一気に色々やると反発も歪みも大きくなるから段階を踏んでゆっくり事をすすめるのが肝要だ。

 魔法の秘匿という観点で見れば里の人間を魔力覚醒させるのは下策だろう。秘密を知る者は少ない方が良い。ゾンビならば命令して秘密を確実に守らせる事が可能だが、里の人間にはそうもいかない。東の森の奥にいる人間がどうやって森の外の住民に魔法の秘密を漏らせるんだって話だが、大抵そういう油断で秘密は漏れるもんだ。ありえないと思い込んでいた、とか、まさかそんな事があるとは思わなかった、とか。

 そういう「まさかの危険」を看過してまで里の人間を魔力覚醒させる計画を立てているのは、前述した通り新しい発想が欲しいからだ。

 ゾンビは一部俺だ。俺の命令に逆らわないし、俺とイメージを共有する。俺の形質魔力が混ざっているという事は、俺の精神性が混ざり、俺の考え方や論理展開の形式が一部とは言えゾンビを侵食しているという事と同義だ。

 まー極端に言えばゾンビにすると発想がちょっと貧困になるって事だ。ホント極端に言えばね。あと体質もデフォルト(にんげん)から変化するし。やっぱり研究の基準としては全てのノーライフ族の派生元である人間を据えたい所だ。

 多くの人間を自由に学ばせ考えさせて発想を貰い、面倒で手間のかかる作業や検証は俺が六十万の個体数にあかせてスキップで済ませる。こと魔法研究という側面から見た時、これ以上の高効率は望めないだろうと俺は信ずる。微かな危険ぐらいなら冒しても良いと思えるほど、人間をノーライフ化させず人間のまま魔力覚醒させる恩恵は大きい。

 最初は魔法研究とかメンドクセとか、魔法使えるようになればそれでいいやとか、エマーリオに義理で付き合ってやんよとか、そう思ってたんだけどなあ。ゴーストの考えも変われば変わ

 ん?

 ……またか。今度は南西部の沿岸……解せぬ。パターンがつかめん。

 法暦10年頃からちょいちょい確認されている現象なのだが、場所も時間帯もランダムに突然拳大の魔力の塊が現れる事がある。初めてその現象に遭遇した時は気のせいかと思った。しかし分裂して個体数を増やし、大陸中に広がってからは何度も遭遇し、今では正体不明の現象として扱っている。

 この現象が確認されるのは稀だ。六十万体の俺全てをひっくるめて、年に一回か二回遭遇する程度。突発的に魔力が現れ、一瞬にして消えるのでじっくり観測もできず、出現ポイントを記録していくぐらいしかできない。出現ポイントの規則性を解明し、次の出現地点を割り出せればそこで待ち伏せて実験・検証のしようもあるのだが、今のところ全くパターンを掴めていない。海中で海老を追いかけてきたウンディーネが遭遇する時があれば、屋根裏に潜んでいたウィスプの鼻先に現れる事もある。仮に星全体にランダムに現れるとしたらお手上げだ。

 別に唐突に魔力が現れて消えるからどうしたって事はないんだが、単純に気になる。電車の中でスーツ姿のサラリーマンが突然スクワットを始めたら一体何事かと思うだろう。感覚的にはそれと似たようなもんだ。多分。

 この現象の原因予想は二つ考えている。

 一つは世界全体の魔力の補充。世界に存在する魔力量は常に一定で、魔法で魔力が消費されるとその分どこからか魔力が補充され、それが突発的に各地に現れている魔力の正体だ、というもの。根拠? 特に無い。出現がランダム過ぎて検証できねーし。そういう考えでも成り立つかなー程度だ。

 もう一つは魔力の集積。なんらかの原因で魔力が一瞬集まって密度を増し、また一瞬で拡散している、というもの。密度が上がった瞬間に知覚できて、次の瞬間には拡散しているわけだ。これでも理屈は通っている。根拠? ねーよ。

 当面の間は地道にサンプル集めていくしかないんだろうなあ。別にいいけどさ、地道な作業は俺のライフワークだから。

 














 里では月に一度、満月の日に広場で祭りが開かれる。

 きっかけは木霊だった。毎月満月の日の夜になると仲間のプラント・ゴーストと共に里にやってきては踊り散らかしていく習慣は三十年近く経ってもまだ続いていた。

 最初はゾンビ達に踊りに合わせて、または踊りを導くように伴奏させるだけだった。曲のチョイスは前世の音楽から適当に。プラント・ゴーストもゴーストである以上は魔力覚醒していないと見えない。里の人間達にはゾンビが月夜の番に広場に集まり、音楽を奏でているように見えただろう。

 その頃は精霊魔法システムの稼動前で、ゾンビ達は里の守護者扱いだった。彼らが満月の晩に決まって執り行う音楽会を次第に里人も真似し始める。遠巻きに見ていた里人達は回を追うごとに段々と演奏するゾンビ達との距離を詰め、手や口笛で、あるいは膝を叩いてリズムを取り始め、貝殻や木の椀で即席の楽器を作りだし、踊る者も出て。

 ゾンビが里から去ってもその習慣は継続された。それどころか歌と踊りに加えて酒と料理もついて、いつしか月に一度の祭りと相成った。

 主婦達はこの日に競い合うようにして自作の新作料理を出す。美味しい料理、彩りの良い料理、栄養のとれる料理、手軽な料理。いずれにせよ良い料理を出せば他の主婦にレシピをねだられ鼻高々、そして家族以外の者に美味い美味いと食べてもらえるのも自尊心を満たす。連合国ができてから香辛料が少しばかり手に入るようになったので、少ない香辛料を生かした料理のレパートリーは増え続けている。

 そしてそのレシピを全て保管(記憶)しておく俺。創作料理は創造性の塊みたいなもんだ。せっかくできたレシピを失伝させる手はない。

 男達はこの日を楽しみに日々の仕事に精を出す。とっておいた酒を出して仲間達と酌み交わしたり、木箱の上で腕相撲をしたり、肩を組み声を張り上げて勇壮な歌を歌ったりする。過去に酔った勢いで積もった雪を使い雪像を作った奴がいて、それから冬の祭りは動物や人間や精霊の雪像が立ち並ぶ雪祭りになっている。雪像造りは自然に男の仕事……というか特権になっていた。女子供はダメで、雪像を立てていいのは大人の男だけという。文化ってのはちょっとしたきっかけから生まれるもんだ。

 子供達が一番楽しみにしているのは歌と踊りだ。金属資源が見つかってからは楽器のバリエーションに金管楽器が加わり、厚みを増した音楽に合わせ楽しげに踊る。少年は音楽の演奏を教え込まれたりするし、少女は母親が料理を作るのを手伝ったりもする。

 そんな感じで祭りには色々な側面がある。カップルが誕生するのも祭りの日が多い。男女が連れ添って輪から離れ、茂みに行ったらもう確定だ。

 本日もそんな祭りの日だ。日が暮れるやいなやぞろぞろと鍋や食材、薪を担いで里人が広場に集まり出す。その中にはシルフィアとエルマー、ラキの姿もある。俺(精霊)も当然いる。

「……随分賑やかになったものですね」

 広場の端で、豪華な革張りの椅子に優雅に座るシルフィアがぽつりと呟いた。その目は生き生きと薪を組んでキャンプファイヤーの準備をしている男衆に注がれている。

「祭りが? 里が?」

 隣に椅子をくっつけて座っていたエルマーがシルフィアの手に自分の手を絡ませながら聞く。

「両方です。ねえ大御祖父様?」

「産めよ増やせよだからなー、そりゃ増えるさ」

 毒性を持つ植物が繁茂し、人間を襲う肉食獣が跋扈し、冬場は積雪と寒さが物凄い事になる森だが、精霊と魔法のバックアップがあり、シルフィアに統制された里は全く問題なく人口を増やし続けている。森と作物の実りが悪くてもしっかり穀物を貯蔵しているから普通に乗り切れるし、海で魚を獲ってくればタンパク源は確保できる。イギリスではジャガイモが伝来してから百年で人口が二倍になったと聞いた事がある。安定した食料供給は人口増加に直結するって事だ。

「産めよ増やせよ、ですか……」

 シルフィアが自分の下腹部を触って少し寂しそうに言った。俺はなんとも言えない気分になる。ヴァンパイアは生体活動が停止しているから、濡れないし勃たないし勿論子供もできない。こいつらはもう何十年もご無沙汰な訳だ。それでも延々とイチャついてんだから二人の愛は本物なんだろう。キスはよくしているが。

「すまん、シルフィア」

「え? いやいいんですよ、肉欲だけが愛じゃないです」

「シルフィア……!」

「エルマー……!」

「うぜえ。向こうでやれ」

 人目を憚らず絡み合う美男美女に祭りの準備中の里人達の目が釘付けになっていた。そりゃ男にとっても女にとっても眼福だろう。見た目はな。性格はどっちもトチ狂ってるが、ベストカップルである事に疑いようはない。

 そのベストオブカップルの指に嵌っている御揃いの指輪、これも祭りと同じようにいつの間にか里に広まった結婚の証である。

 日本では江戸時代に既婚女性は歯を黒く塗ってそれを対外に示した。ヨーロッパでは結婚時に変わらぬ愛の証としてダイヤモンドを贈り、それを指輪に嵌めて身につけた。一口に結婚と言っても宗教や国によって儀式や習慣などが大きく違う。

 ビルテファ王国では結婚式は教会で挙げられるが、それだけで特に贈り物を贈ったりなんだりはしない。俺がいた辺境の村では教会がなかったから結婚式すらなかったし、いい加減なもんだ。苗字がないから名前が変わるわけでもない。戸籍上で夫婦になって、夫婦ですと名乗れば結婚完了。

 ナルガザン帝国では結婚時に夫が妻に鎧を贈る。それは「俺がお前を守る」という意思表示であると共に、「それを着て一緒に戦っていこう」という意味も持つ。逆に妻は夫に剣を贈る。これは逆に「守って下さい」であり、「それを持って一緒に戦っていきましょう」である。夫婦が戦士ではない場合は実物の武具ではなく剣の刺繍をした服とか、ミニチュアの鎧の置物とか、そういう物で済ませる。武人気質の帝国らしい習慣だ。

 エレメン教国は帝国の流れを汲むため剣と鎧式だが、最近では精霊の刺繍とか精霊の姿を彫ったメダルとか、そういう物を交換するカップルもいるようだ。

 ノーヴァー連合国は煩雑で特定の形式はない。近年複数の国家がまとまったばかりなので、風習がごった煮状態になっている。

 里はビルテファ王国の出なので、当初は特に結婚時に何かするという事はなかった。里長であるシルフィアの前で友人達に囲まれて「夫婦になります」と宣言して、それで終了。シルフィアとエルマーは俺の前でダダ甘の愛の宣誓をして結婚した。

 しかし少し物足りなさも感じていたらしい。シルフィアとエルマーはお互いの愛に絶対的な信頼を持っているが、だからと言って目に見える絆を欲しない事はない。俺がふとした拍子にポロッと結婚指輪についてこぼすと目の色を変えた。二人は話を聞いてからすぐさま魔法で揃いの指輪を作り、互いの薬指に嵌めて悦に浸っていた。

 そして里人達は永遠の恋人であり里長である夫婦の真似をして、結婚指輪の習慣が広がっていったのである。

 この結婚指輪、金属の指輪に何かしらの宝石を嵌めるのだが、指輪に嵌っている宝石は夫婦間で「全く同一」だ。つまり一つの宝石を魔法で複製したものである。単に同じ種類・同じ造りの指輪を嵌めているよりも、大きさも形も同一の宝石を使った方がよりロマンチックに感じられる。

 宝石ってのは粒が大きいほど価値が高いものだが、里では宝石の価値が下がっており、大粒の宝石がゴロゴロしている。複製魔法無双である。誰も彼も前世であれば目ン玉が飛び出るほどでかい宝石を結婚指輪にホイホイ使っている。別に宝石の複製ぐらい大した労力でもないし、一番大粒の100カラットを超えるような宝石でも一年働いて稼いだ銭で買える程度の値段で供給している。

 複製魔法は複製魔法でしかないから小粒の宝石を融合するのは無理だが、一粒でも大粒の宝石があれば、小粒の宝石を材料に複製魔法で複製できる。特にダイヤモンドは炭素が原料なので初期から多く出回らせた。ダイヤモンド以外の宝石の組成は記憶していなかったが、色々な材料で複製を試していき、成功したらそれがその宝石の組成である、という手法で割り出していった。

 余談だが王国でも宝石の複製は行われていたらしい。旧王国領周辺の金持ちが持ってる大粒の宝石には妙に形状や色合いが酷似してる物が多い。小粒の宝石を大粒にする方式の複製はある程度行われていたと見える。しかし流石に炭を材料にダイヤモンドを複製したりはしていなかったようだ。化学知識がなければ俺だって日常的に燃料として使っている黒い炭と透明に輝くダイヤモンドの成分が同じなんて思いもしない。むしろそんな事言ってる奴がいたら嘲笑う。

 いやあ、化学+魔法のチート具合はやっぱ凄いね。その気になればダイヤモンドをビー玉代わりにして遊ぶ子供の姿とか普通に拝めるからね。前世の世界の人間が見たら失神ものだよ。

 俺はキャンプファイヤーを囲んで輪になって踊る里人に紛れ、剣の舞の音楽に合わせて残像が残る超高速でステップを踏む木霊を見ながら更に魔法を研究して突き抜けた技術を手に入れてやろうと誓った。



 フラグ補強&二章終了。

 三章では残りの魔法関係の設定を全て放出します。

 三章にストーリーはあまり期待しないで下さい。ひたすら研究するだけです。三章では研究の話読むのメンドクセ、という方のために後書きにその話で判明した情報を纏めておきます。そこだけ読んでいれば進展状況は掴めると思います。逆に言えばそんなモノを用意するぐらい複雑化するという事ですので、覚悟しておいて下さい。

 三章のスタートまでしばらく間が空くと思います。

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