表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/99

【Case:07 学校の怪談】2

もう3日ですね…。










 役所に戻らずに直帰し、朝もまっすぐに学校へ向かった。というか、脩は出勤するよりも母校である小学校に行く方が近い。レコーダーなどを回収して一度役所へ行く。今日は汐見課長がいるのだ。


「う~ん……」


 撮りまくった写真や音声データを確認してもらう。佐伯や神倉がいれば二人にも見てもらうのだが、二人も別件で不在なのだ。今頃怪現象が起こるというゲストハウスにいるはずだ。


「直接見てみないと何とも言えないけど、特におかしなところはない気がするなぁ」

「そうですか」


 千草ががっかりしたように息を吐いた。汐見課長は「気長にいこう」と慰める。


「機械を通すことでわかる怪異もあるけど、わからなくなる怪異もあるからね。千草さんや向坂君が見える人なんだから、そのうち何かは引っかかってくるよ」


 漠然としすぎている。そう思いながら聞いていると、汐見課長は脩を見た。脩は首をかしげる。


「向坂君は暖かい春の日差しのような人だからね。怪異が寄り付きづらくて、周囲では起こりにくいのかもしれないね」

「確かに彼は驚異的な運の持ち主ですけど」

「来宮君に分けてあげられるといいのにね」


 よく当たる占い師であるところの千草の言葉に、汐見課長がそうまぜっかえした。千草によると、そう言う『運』ではないらしい。なら、どういう運なのだろう。


「学校と言うのは基本的に閉鎖空間だ。しかも、霊的にも閉じていることが多い。そう言うところは霊的な現象は起きやすいんだけど……」

「手がかりがありませんからね。呪術の線も含めて調べてみます」

「超能力の可能性もあるね。僕も同行したいけど、これから出張なんだよ……」


 若干遠い目になる汐見課長。昨日も県庁で会議だったが、今回も保健所で会議なのだそうだ。会議が多すぎる。リモートにすればいいのに。

 と言うわけで、今日も昨日と同じ三人で小学校へ向かう。


「探し物、苦手なのよね」


 千草が言うので、占ってみればいいのでは、と言ったが彼女は首を左右に振った。


「自分にかかわりが深いものだと、自分の思いに結果が左右されることが多いの。つまり、今回は私の願望が強く出て、正確な結果が出ないというわけ」

「なるほど……俺がいつ結婚するか、とか、それくらいどうでもいいことじゃないと正確な結果が出ないんですね」

「向坂君もかかわりが深いから、正確かどうかはわからないけど、考え方としてはそういうこと」


 一応納得し、地道に探すことにする。と言っても、探して出てくるなら苦労はしない。そうして探している間に、脩は別のものを見つけた。

 小学校高学年と思われる少女だった。日本人にしては明るい髪と目の色。肌の色も、明らかにヨーロッパ系の血を引いている。人気のない廊下で椅子の上に乗り、ロッカーの上に手を伸ばしている。どうやらそこに乗っているものが欲しいらしい。


「これか?」


 女の子には届かないが、脩は普通に届く高さだったので取ってやる。見ると、国語の教科書だった。なんとなく、日本語がなじまなくて国語で苦労した、という俐玖の話を思い出した。


「あ、ありがとうございます。えっと……」

「どういたしまして。市役所職員の向坂です」


 お邪魔してます、と言うと女の子は戸惑ったように脩を見上げた。


「教育委員会の人?」

「いや、別の部署。少々調べものをしてる」

「ふうん……」


 女の子はうなずくと、五年二組の佐藤アリサだと名乗った。それからじっと向坂を見上げる。


「どうしてこんなところに教科書があるのかって、聞かないの?」

「聞いてほしい?」


 尋ね返すと、彼女はふるふると首を左右に振った。こういうことは、自分から言い出せなければダメな気がする。もちろん、フォローは必要だが。

 学校と言う閉鎖空間で流行するのは怪異だけではない。どうしても、同年代の少年少女が集まるといじめが発生する。その原因は様々なちょっとしたことであることが多い。太っているとか、貧乏だとか、ただ気に食わないとか、そう言うちょっとしたこと。アリサは日本人離れした外見が原因だと思われた。


「……授業、行ってきます。教科書ありがとうございます」

「ああ」


 手を振ってやると、アリサはちょっと笑って五年生の教室が並ぶ方へ向かっていった。そこそこ大きい小学校なので、一学年四クラスある。

 拠点に使っている会議室に戻ると、なぜか女の子がお茶を飲んでいた。この子も十歳程度に見える。


「おかえり。どうだった?」


 千草にさっくりと尋ねられ、少々口ごもる。何も見つけられなかったのだ。脩にしては珍しい反応に、千草は仕方なさそうに笑って肩をすくめた。


「こればっかりはねぇ。私も鹿野君も見つけられなかったから、仕方ないわよ」

「このメンツでは永遠に仕事が終わらない気がします。……というか、この子は?」


 脩に目を向けられて、お茶を飲んでいた女の子はびくっとした。千草が軽く女の子の肩をたたく。


「五年一組の森田もりた涼花りょうかちゃんよ」


 鹿野君が連れてきたの、と千草。さっきチャイムが鳴ったので授業中のはずだが、涼花は出ないようだ。まあ、無理して出る必要はないと思う。

 千草が涼花と話をしているので、脩はこっそり鹿野に尋ねた。


「鹿野さん、どうして彼女を連れてきたんですか?」

「さすがの俺も、思いつめた様子で屋上にいたら話しかける」

「屋上って、鍵かかってませんでした?」

「俺の時はかかってた。今は壊れてるみたいだな」


 なら封鎖しておけよ、と思わないでもないが、開いていたものは仕方がない。そして、鹿野が彼女を連れてきたのも仕方がない。この学校、今いじめが横行しているのだろうか。


「みんな、私のせいだって。私、何もしてないのに……!」


 鹿野との会話が途切れたところで、押し殺したような涼花の声が聞こえた。同時に、側にあったマグカップにひびが入った。涼花が小さく悲鳴を上げる。


「い、いつもこうなんです。私が怒ったりすると、ガラスにひびが入ったり、机が倒れたり。……だから」


 みんな涼花のせいだという。何を対象にして言っているのかわからないが、この案件なら対応策は簡単だ。


「よし。鞆江さんを呼びましょう」


 そのセリフ、入庁して半年の間に結構聞いた。




『無理。私今、峡谷にいるから』


 脩が俐玖を呼び出すべく電話を掛けると、疲れた声の俐玖がバッサリと切り捨ててきた。鋼メンタルと言われる脩も、これだけバッサリと拒否されると動揺する。


「峡谷って、県境の? なぜそんなところに?」

『県との合同国際イベントなんだよ……』


 うんざりしたように俐玖が言った。脩が聞いていたのは、市の国際イベントに多言語話者として駆り出されている、ということだったので、合同だと聞いて驚いた。


「千草さん、俐玖、今は県境にいるそうです」


 俐玖に待ってもらって千草にそう言うと、彼女は「あらら」とあまり表情を変えずに目をしばたたかせた。


「最速でいつ来られるか聞いて」


 と言われたので尋ねると、『今日は無理かなぁ』と言われた。最速で明日だ。まだ午前中なのだが。脩が返答に困ったのを見たのだろう。千草にスマホを取られた。


「わかったわ。明日でいいから来られる? ……ええ、よろしくね。決まったら連絡を頂戴ね、向坂君に。ええ」


 しれっと名指しされているが、俐玖が了承したのだろう。通話が切られてからスマホを返された。


「確認して連絡をくれるそうよ。代わりの要員が必要なら向坂君に行ってもらうって」

「えっ」


 脩も多少の英語は話せるが、通訳ができるほどではない。通訳に連れて行かれても困る。だが、俐玖が来られないのも困る。


「……わかりました」


 ぐっと覚悟を決めて言うと、千草は笑って「男前だねぇ」と言った。それから、涼花と鹿野を見る。鹿野は、涼花に彼女の持つ力について説明していた。寡黙な男だが、無口なわけではないし、口下手でもないのでこうして女の子相手でも丁寧に説明できる。


「おそらく、森田さんの力はPK……サイコキネシスと呼ばれるものだと思う。子供にはたまにある力だ」


 こうした能力は子供が持ちやすく、大人になるにつれ消えていくことが多いそうだ。その中でも能力が残ることもある。


「えっと……私、エスパーと言うことですか」

「そうだな……珍しいが、全くないわけではない。訓練すればコントロールできるようになる」

「本当?」

「ああ。俺も、できるようになった」


 そう言って鉛筆を持った鹿野は、その鉛筆を曲げた。折ろうとした、とも言う。力づくでギザギザに折れるのではなく、真ん中できれいな切り口で切れた。


「えっ。どう……?」


 手渡された鉛筆を、涼花はあちこちから眺めている。本当にきれいに真っ二つだ。脩たちは鹿野がサイコキネシスの持ち主だと知っているが、知らなければ何が起こったかわからないだろう。


「これに近い能力が、森田さんにはあるのだと思う。調べられる奴が明日来る。多分」

「多分なのね」


 ずっと顔がこわばっていた涼花が、鹿野の物言いにちょっと笑った。脩も千草もなんとなく安心する。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


超能力を調べやれる奴が、俐玖しかいないのです。

なお、なんちゃって調査です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ