24.先代魔王じゃけど、何か?
エルフの里は馬車で1週間ほどの場所にある。
ほとんど、王国の辺境といった場所と言って良い場所だ。
エルフの里は、やはり広大な森の中にあり、森全体がエルフの生活圏と言って良い。
人間との国交は皆無ではないが、最低限と聞いている。
というわけで、
「何者だ!」
「人間がくる場所ではないぞ! 引き返せ!!」
「でなければ、エルフの矢がお前たちを串刺しにする!!」
こういう歓迎の言葉が出迎えることもある程度予想していた。
さて、どうしようかな、と思っていると、先代魔王リリちゃんが前に出て、
「頭が高い。儂は先代魔王であるぞ」
「ま!??!?!?!!」
「魔王!?!??!?!?!」
「先代魔王!??!?! 独りで一国すら相手にするという、膨大な力を持つ魔王がどうしてこんなところに!?!?」
エルフさんたちもさすが固まってしまう。
そりゃ、どうしていいか分からないだろう。
先代魔王という証拠はないが、彼女の額には小さな角があり、魔族であることは分かる。そして、纏う魔力が膨大であることも見張り役のエルフには分かっているだろう。
「せ、先代魔王様……」
「なんじゃ?」
「その、魔王とエルフ族とは不可侵条約を締結しています。なので、今回はお引き取りを」
その言葉に、リリちゃんは嗤う。
「魔王の座は既に退いた。ゆえに、ただリリと呼んでも良いぞ? くくく」
「うっ!? い、いえ。そのようなことは!? 魔王様……」
「リリで良いぞよ? ん?」
こういうの場面を見ると、さすが魔王をやっていただけあると思う。
見張り役のエルフに、元とはいえ、魔王と呼ばせるか、ただの一魔族として対応させるかで、関係性が全く違うのだ。
魔王ならば同盟相手だが、ただの一魔族ならば、もはや無関係の相手だ。
前者ならば、安全だが無下にはできず森に入れる必要がある。後者ならば無関係となり森に入ることは拒めるが、一人で一国を相手にできる地上最強の存在の一角である事実は変わらないのだ。それはそれでややこしい。対応を誤れば、エルフ族自体の未来に大きな傷跡を残すかもしれない。
でもまぁ、ここはリリちゃんの演技にのっておくのが得策だろう。フードを少し深めにかぶったミューズさんにもこっそりそう耳打ちする。
「ふふふ、魔王様は既に退位したのですから、自由に振る舞われてもいいのではないですか?」
「そ、そうですよ、リリ様。もはや誰にも指図されるいわれはないのですから、ふ、ふふふー」
そう言って、ちょっと怖い顔をしているリリちゃんの後ろで軽く私たちも微笑む。
とんでもない団体を相手にしている! と相手を震えあがらせるには十分だろう。
案の定、
「ぐっ!? わ、分かった。すぐに取り次ぐので待っていてくれ!」
「あまり待たすでないぞ? 我が誰が心得ておるな?」
「ひっ!? は、はい……先代の魔王様、です」
よし。
ちゃんと認知させた。
魔王は王族の扱いとなる。
こうなれば無碍な扱いは出来ない。
そして、
「ミューズさんの顔も隠していたおかげで、分からなかったようですね」
「魔王さんの登場でそれどころではないでしょうからね~」
「リリちゃんお手柄ですね」
「うむ! もっと褒めるのじゃ! なでなでも忘れるでないぞよ?」
「はいはい。二人きりの時にしましょうね」
「むふー」
しばらくすると、中に入ってよい、という回答を持ち帰った見張りが戻ってきた。
私たちは、とにもかくにも、エルフの里へと侵入することに成功したのだった。




