第094話 『妖精王解放』③
『馬鹿な!』
格好よく「終わるがいい」と告げて消えたにもかかわらず、再び『旧支配者』の光が顕れて、今起こっていることが自分たちの想定外である事をわざわざ伝えてくれる。
――ホント、この黒幕(笑)たち、ただ黙っているだけでも数段凄味というか怖さが増すのになー。
今の状況ひとつをとってみても、沈黙を維持されるだけで充分ソルたちへの重圧として機能する。
ソルたちは相手がゲームの盤上で勝てないとなれば、その盤そのものを破壊に出ることも想定内としてはいた。
だがそれに対して『妖精王』の復活という対抗手段を用意していたとはいえ、実際に今世界は人為的に起こされた大災害によって滅ぼうとしているのだ。
今の段階で沈黙を守られていればその対抗手段が正解なのかもわからないし、相手がさらなる手段を保有しているかどうかも不明のままだ。
それがこんな風に慌てられては、自分たちの対抗手段が正鵠を射ていると教えてくれるようなものである。
「なにが馬鹿な、なんです?」
ソルはもう、半ば以上可笑しくなって素直に問いかけてみた。
『枯れ果てた『世界樹』の復活はつまり『妖精王』の復活を意味する! イステカリオの皇族にかけられたもののみならず、幾重にも重ねられた『呪い』がすべて解除されることなどありえない!』
――ほんとに答えてくれた。
あるいは現時点でも進行し続けている『プレイヤー』による逆侵入によって、『旧支配者』はソルによる問いかけを無視することができなくなっているのかもしれない。
「ああ、なるほど。イステカリオの皇帝と連動していたもの以外は、僕が『プレイヤー』ですべて解除可能だったからですね」
『なん、だと……』
ソルが『囚われの妖精王』と初邂逅した際に、『妖精眼』を封じていた咒具と、全身を縛っていた呪糸は『解呪』によってあっさりと解除してしまっている。
どうやら『旧支配者』たちにとってはそっち二つの方が強力な呪いであったらしい。
まあ確かに言われてみればそれも当然なのかもしれないとソルも思う。
人造魔導器官によって時の皇帝に『魔導皇帝』とまで呼ばれる力を与えるとはいえ所詮人に過ぎず、妖精王の封印も兼ねていると露見すれば殺す手段などいくらでもあるのだ。
そんなものを最後の鍵とするとは確かに考えにくく、それを信じた妖精族がイステカリオの皇帝を手にかけてなお囚われたままであり、『妖精王』が覚醒しないままに報復として滅ぼされるよう仕向ける罠と見た方がよほど得心が行く。
事実、『プレイヤー』の『解呪』がなければ、咒具と呪糸をどうやって解除したものかなどソルにもわからない。
あるいは囚えて二度と解放しないつもりで仕掛けられた、鍵なき錠であったのかもしれない。
『旧支配者』にしてみれば詰んでいたはずの盤面、そのすべては『プレイヤー』が御破算にしたのだ。
まさに遊戯の規律を破壊するイカサマの如く。
確かにイカサマを行使するのは――できるのはいつだってプレイヤーなのだ。
「つまり『妖精王』――アイナノア・ラ・アヴァリルの復活によってこの滅びを止められるということは、仕掛けた側が保証してくださるというわけですね」
最後の手段、それも岐神と全竜の力ではどうにもできないことを確信しての滅びの発動だったのだ。
それはたとえ『妖精王』の身柄がソル陣営にあったとしても、けしてすべての呪いが解かれることはないという前提に立っている。
つまりソルが破顔して口にしたとおり、『妖精王』が復活してしまえば今進行している世界の終焉は止めることができるのだと、『旧支配者』が保証してしまったようなものなのだ。
『くっ……』
そのとおりですと同義の一言を残し、今度こそ完全に『旧支配者』を示す光が消失する。
すべての仕掛けを力技で食い破られた以上、今この瞬間にも続いている『プレイヤー』からの侵入を防ぐことに総力を挙げることにしたらしい。
もはやなんの抵抗を受けることもなく、『妖精王』の開放と『世界樹』の再生が進む。
それは二つで一つともいえる現象である。
エルフの里にある朽ちた世界樹の樹洞に魔力の光が満ち、巨大な幹が絡まり合いながら雲海を突き抜ける高さにまであっというまに成長する。
だが地表で起こっているそのとんでもない現象よりも、地下で世界樹の根が起こしている現象の方が実はものすごい。
地表に近い部分では龍脈に沿ってその根を伸ばし、すべての龍穴をその支配下に取り戻している。
エルフの里の直下に向かってはもっとも深い迷宮の最下層よりもなお深くその根を伸ばし、星の中核にまで届いてその源から膨大量の外在魔力を吸い上げて地表へと汲み上げる。
それを放出するべく地上へ生い茂った枝葉はとんでもない距離を伸びて、未だ宙に浮いて目覚めぬままの『妖精王』の周囲を覆い、天空の舞台の如く形を整える。
地上から見れば神話の光景にしか見えないだろう。
エルフの里の方向から雲を突き抜けて伸びる巨木の連なりが生まれたかと思えば、その枝葉が自分たちの直上まで伸びてきたのだ。
現代に生きる人間たちにはにわかに理解などできないのだ。
本当ではないと信じていた神話に語られていた世界樹の姿が、なんの誇張もなく「宙にまで届き、世界全てを覆うことも可能な大樹」と記されていたそのままだったということなど。
あるいは天上まで届くといわれていた『勇者救世譚』で語られている『塔』もまた、この世界樹を人の技術が模倣して生まれたものなのかもしれない。
その天空の舞台の上で、『妖精王』は千年の囚われから解放される。
星の中核から汲み上げられた膨大な外在魔力が枝葉を通じてその小躰に注ぎ込まれる。
その背後には魔法光によって巨大な生命の樹の象徴図が描かれ、基礎から一つ一つ座と小経へ魔力が満ちてゆく様子が示されている。
星の鼓動に合わせるように波を伴って注ぎ込まれるその魔力に伴い、『妖精王』の黒く染まっていた肌と髪が本来のエメラルド・グリーンの輝きをとりもどしてゆく。
白を基調とした衣装に刺繍された金色の細工文字がすべて輝き始め、己が身長よりもなお長く伸ばされ、ツインテールに結えられた髪がまるで意志を持った生き物のように本体を護って空へ螺旋を描く。
純白に戻った肌も気のせいではありえない輝きを発し始め、『妖精王』の全身が星から吸い上げられた魔力を伴って光り、魔力による無数の花弁を生み出して空中を色とりどりに染めてゆく。
そして光が最大限に達し、背後の生命の樹の象徴図が示す10の座と22の小経そのすべてに魔力が満ちると同時。
ゆっくりと、千年間閉じられたままであったその美しい瞳が開かれる。
髪と同じエメラルド・グリーンを基に、金の光が瞬くようなその瞳。
開かれたその瞳が世界を映した瞬間、すべての滅びはぴたりと制止した。
妖精王アイナノア・ラ・アヴァリルの瞳に映る世界が、終り征くものであっていいはずがないとでも言わんばかりに。
次話 『妖精王解放』④
12/30(木)投稿予定です。
さてそろそろ第二章の着地点も見えてまいりました。
年末年始休みのうちに辿り着ける予定です。
第三章はソル王国興国+死せる神獣編になりそうです。
毎日投稿で駆け抜けられるよう頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。
第四章 虚ろの魔王編
第五章 呪われた勇者編
先は長いですが頑張ります。
誤字・脱字を指摘、修正してくださっている方々、本当にありがとうございます。
本当に助かります。毎日投稿でチェック甘くて申し訳ありません。
毎日最低1話投稿頑張ります!
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
ほんの少しでもこの物語を
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひともお願い致します。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をスマホの方はタップ、PCの方はクリックしていただければ可能です。
何卒よろしくお願いいたします。




