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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第四章 『虚ろの魔王』編 前半

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第274話 『旧最終迷宮』④

 だが一方でそこは海の底なのである。


 確かに周囲に比べれば浅いのではあろうが、たとえ数メートルの深度であっても人魚ならざる人の身にはほとんど自由が利かなくなる『異界』でしかない。


 なによりも大前提として、呼吸ができなくなる。


 もしも水棲の魔物(モンスター)たちが湧出しているというのであれば、強い弱い以前に「戦い」が成立しない、人にとっては不利が過ぎるフィールドなのだ。


 そんな場所に本当に最終迷宮(ラスト・ダンジョン)があったとて、とても攻略などできようはずもない。


 ――本来であれば。


「じゃあアイナノア、お願い」


「♪~」


 しかし今のソルは自然を統べる『妖精王アイナノア・ラ・アヴァリル』をも己が配下としている。


 それはここが確かに『勇者救世譚(クズィ・ファブラ)』に記されている最終迷宮(ラスト・ダンジョン)であるのなら、今から千年前に実際に攻略を果たしたその主人公――『勇者』と同じ状況なのだ。


 空を自在に駆けることをすでに可能としている絶対者(ソル)にとって、海の底に存在している迷宮(ダンジョン)とてもすでに問題ではない。


 海の底、水中である事が自分たちにとって不利に働くのであれば、()()()()()()()よいだけのことに過ぎない。


 そしてそんな奇跡をすら苦も無く可能成さしめる『妖精王(アイナノア)』が、己が力を主の指示によって行使する。


「♪~♫~」


 御機嫌で歌いながらふわふわとソルたちの前に進み出たアイナノアが、そのままお遊戯をしている幼女のように空中でくるくると踊り出す。


 同時、アイナノアの足元を中心として、あたかも空中に顕れた光の舞台の如く、複雑精緻にしてそれ自体も緩やかに回転している、巨大な魔導光で描かれた巨大多重魔法陣が広がってゆく。


 それと連動するようにして、海面にも変化が顕れ始めた。


 最初は気付かれないほど小さな真円が海面に穿たれ、それが徐々に大きく広がっていく。

 初期段階でこそ視覚で捉えることは出来なかったが、その円形の穴が拡大していくに伴い、その内側が滝状に海水が下に向かって落ち続けている状態になっていることが分かるようになってくる。


 それは穴が拡大していくに伴って轟音と共に莫大な海水量になるのは当然だ。


 あっという間に直径が数百メートルにも渡る大さになった海面に穿たれた巨大な穴に落ち行く膨大な海水が発する轟音は、かなりの高高度に位置しているソルたちの耳ですら(つんざ)くようにして響きわたり始めている。

 

 水中に沈んでいた、巨大な塔のようにも見える切り立った巨大な巌柱が露わとなる。

 その周囲は地上には存在しないほどの落差を持った滝と化し、陽の光も届かぬ遥か海底の深淵に向かって落ち続けている。


 海面に突然顕れた巨大な穴。


 そんなものが自然現象として顕れるはずなどなく、これが『妖精王(アイナノア)』による魔力行使の結果であることは明らかだ。

 おそらくこの巨大な穴は、とんでもなく深い海溝のその底まで届いており、そこから生えているであろう巨大な巌柱――『最終迷宮(ラスト・ダンジョン)』を人の身にも攻略可能な状態にしているのだ。


 だがその魔力によって強引に穿たれた、周辺を無限に落ち行く海水で囲われた巨大な縦穴の広大な空間。


 そこに本来あるべき莫大量の海水はどこへ行ったというのか。


 それはほどなく、遥かな上空から無数の水柱となって周囲の海面に落ち(きた)る、海水だけで形成された滝もどきの群れが物語っている。


 要は魔力結界で強引に押し広げられた巌柱周辺の空間に本来あった海水は周囲へと押しのけられ、当然のこととして空いた穴へ向かって魔力壁を伝うようにして海底へと向かって落ち始めているのだ。


 そのままだとせっかく押し広げた空間が再び海水で満たされるだけなので、滝状に落ち続ける水を『転移』で上空へ放り出した結果、遥かな上空から水だけの滝のようにして無数の水柱を成立させているというわけである。


 そんなことを可能とする『妖精王』の無限の魔力があれば、魔法障壁を押しのけられた海水によって上昇する海面よりも上まで張ることなど児戯にも等しいだろう。


 だがそうはせず、現実とも思えない幻想的なこの光景を成立させた理由は、押しのけられた海水が津波となって大陸沿岸部へ被害を及ぼさないようにするためか、それとも己が主が好むであろう外連味に満ちたこの光景を現出させるためだけなのかはわからない。


「……………………豪快っスね」


 現在進行形でその様を我が目で見ていながらも、現実の光景とも思えない目の前のありさまを前にして、ファルラとしてはそうとしか言えない。


 魔力を用いた奇跡を魔法と呼ぶのだとは知識としては知っていても、一定の規模を超えられてしまうと理解が追い付かない。


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