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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第四章 『虚ろの魔王』編 前半

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第270話 『王佐の在り方』⑩

 よって今日はまずフレデリカたちが余裕を持って最終迷宮での育成に望めるように、充分にマージンを取ったレベルまで全竜無双で引っ張り上げることが急務となるのだ。


「……私やルクレツィアじゃなくて、フレデリカさんたちの育成なんスか?」


 「レベル」や「スキル構築」という単語は理解できなくても、まずは自分たちがエリザやフレデリカの強さに追いつく必要があることくらいはさすがに理解できる。

 同じパーティーのメンバーとして選ばれたのだから、いつまでも足手纏いのままでいていいはずもないからだ。


 だからこそ自分やルクレツィアの育成を最優先するという事であれば理解もできるのだが、ソルとフレデリカが話している内容はどう聞いてもそうは聞こえない。


 だからこそファルラは素直にそう問うたのだ。


 ちなみに後輩同期であるファルラとルクレツィアは、お互いをファーストネーム、尊称無しで呼び合うことにしたらしい。

 もちろん先輩方に対しては様付けを続行する所存である。


「ああ、2人にももちろんみんなと同じくらいのレベルにはなってもらいます。それがルーナとアイナノアによる高速レベルアップってやつですね。ただ僕とフレデリカが言う()()は、そうなった上で迷宮(ダンジョン)魔物(モンスター)を相手にして、みんなにルクレツィアやファルラのような魔力の使い方を身につけて欲しいってことなんだ」


「?」


「私たちのような?」


 本来、自身の強化とは年単位を必要とするのが常識である。


 事実、『黒虎(ブラック・タイガー)』時代のソルたちが一桁レベルのままに過ごした年月は、本格的に冒険者としての活動を始めた時点からでも2年、王立学院時代も含めれば5年もかけて『プレイヤー』の示すレベルで言えば一桁止まりだったのだ。


 だからこそルクレツィアもファルラも、絶対者がそう言うからには確かに世の冒険者などと比べれば超がつくほどの高速ではあるにせよ、それが1日や2日で終わるものとは思っていない。


 だがそれ以上にすでにしてとんでもない強さであるソルたちが、鎧袖一触可能な自分たちからなにを学ぼうというのかがまるで理解できない。


「それがソル様が先ほどの模擬戦で確認された、「すごい」ことなのですね」


 だがフレデリカには、ソルの言わんとしていることがおぼろげながらも理解できるようである。


「そゆこと。言葉で言われてもまだピンと来ないとは思うけど、亜人種(デミ・ヒューム)獣人種(セリアンスロープ)は、僕たちとは根本的に魔力の使い方が異なっているんだ。僕たちにもそれと同じことができるかはまだ分からないけど、とりあえずやってみようと思ってる」


 『プレイヤー』という能力を持っていなければ本当の意味では理解しがたいであろうとはソルとても思っている。

 だが可能なのであれば、今の時点で少なくとも自身を含めた1stパーティー・メンバー全員に同じことをできるようになってほしいとも考えているのだ。


 それはリィンやフレデリカたち人間だけには留まらず、『全竜(ルーナ)』や『妖精王(アイナノア)』、『神獣(アヴリール)』といった『怪物』たちですら例外ではない。

 

 そのために時間が必要だというのであれば、最終迷宮(ラスト・ダンジョン)を完全攻略することによる『魔大陸』への到達、その入手も後回しでもかまわないと判断している。


 最終的にそうすることこそが一見遠回りに見えて近道、どころかソルの夢を叶えるための唯一の正解だとすら考えているのだ。


 つまりソルは自身の『プレイヤー』も含めた人が12歳になる年の1月1日に神様から与えられるとされている能力は、何者かに奪われる可能性がある事を前提とし、それを警戒しているということである。


 与えることができる能力なのであれば、奪う事もまた可能だと考えるべきなのだ。


 一度その考えに至りさえすれば至極当然のことに過ぎないのだが、ソルとても神様と同じようなことができる能力『プレイヤー』を自身が得ていなければ、そんな考えには至っていなかっただろうこともまた間違いない。


 現時点で、大陸中からまさに無敵だと思われているのがソルだ。


 そのソルにとって「敵」たれる存在がいるというのであれば、それは大国だの世界宗教だのではなく、もちろん裏社会など話にもならず、『旧支配者』たちですら前座の域を出ることは叶わないだろう。


 神の御業に似た力を与えられた者の敵たれるのは、元より神の敵対者である『悪魔』か、あるいは――それこそ『神様』そのものしかありえない。


 もとより悪魔とは堕天した神の使徒だという解釈も存在している。

 正式には聖教会はその解釈を認めてはいないとはいえだ。


 だがその解釈次第によってはソルは神様の力を模倣した、あるいは盗んだ『悪魔』として神敵とされる可能性も否定できない。

 たとえそれが神様自身が仕組んだものであったにせよだ。


 もう一つの可能性もあると言えばあるのだが。


 とにかくその最終闘争、あるいは神殺しに臨む直前に『プレイヤー』をはじめとしたシステム化された能力を奪われでもすれば、現状のソルたちでは詰む。

 切り札である『怪物』たちであれば機能するのかもしれないが、その意志によらずその切り札をこそ没収される可能性すら否定はできない。


 というか神様とやらの性格がひん曲がっている――あるいはソルに()()()ものであれば、ソルが自分だったらそうするだろうと予測できることをそのまま実行するだろう。

 あるいはソルが考えることなどお可愛らしく思えるほどに、悪辣な手段があるのかもしれないが。

 

 別にソルとて、今の時点でそれを確信できているというわけではない。


 だが千年前の真実を歪めて今に伝えているのは間違いない偽書『勇者救世譚(クズィ・ファブラ)』の存在や、勇者とその仲間(妖精王と神獣)ラスボス(魔王)裏ボス(邪竜)のような立ち位置であった者たちが千年の長きに渡って人知を超えた力で封じられ、今になってソルの力となるよう配されていることから、ソルが「あり得るかもしれない」と想像しているに過ぎない。


 だが気付きを得たのであれば、備えるべきなのだ。

 どうしても己の夢を叶えたいのであれば、時に巧遅は拙速よりも優先される。


「まあ今日はまずレベルを最終迷宮(ラスト・ダンジョン)()()()()()。詳しい話は今夜にでも説明するよ。ルクレツィアとファルラは、すぐにでも僕がなにを言っているのかを理解できると思う」


 そして魔力とその行使には確実に規律(ルール)がある。


 人が神様から与えられている、いわば簡易化され外部補助を大前提としているシステムともいうべきものと、ルクレツィアやファルラのように己自身で魔力を使役する差はあれどその本質は同じものであることは間違いない。


 そしてより膨大量、強大な魔力を行使可能になるための素体、器、受け皿を強化するのが個々のレベルアップだとするならば、そこは俄かには動かしがたい大前提だとソルは判断している。


 そこさえも自在にできる敵だというのであれば、ソルを含めたこの世界に存在する者はすべて神とやらの「おもちゃ」に過ぎず、壊そうと思われた時に成す術など初めからありはしない。


 そうではないと信じたいし、たとえそうであったとしても今できる備えを放り出す理由にはならないのだ。


「それと……ルクレツィアとファルラには先生……師匠ポジションの人はいる? いるのであればこの島にぜひ招きたいんだけど」


「鬼人族にはそういう立ち位置の人はおりませんね……親から教わるのが定石ですので」


「銀虎族も同じっスね」


 そしてその効率をより上げるために、外在魔力(アウター)が復活してからそう時がたっていないにもかかわらずあそこまで魔力を自在に行使できるルクレツィアとファルラに師のような存在がいるのであれば、その招致も考えていたソルなのだが、2人の返事はあまり芳しいものではなかった。


 親から子に伝えられる相伝のようなものであれば、その習得は難しいを通り越して不可能である可能性すらもあり得る。

 ソルとしては亜人種や獣人種の中では体系化された伝授方法がある事を期待したのだが、さすがにそう甘くはなかったらしい。


「そっか……となるとルクレツィアとファルラに僕たちの師匠をお願いすることになるね」


「ソル様、妖精族(エルフ)たちにも確認してみては如何でしょうか?」


「……確かに。妖精族(エルフ)は全員が魔法使いみたいな感じだったし、師匠ポジの人がいてもおかしくないよな。うん、そうしよう」


 だが『妖精王(アイナノア)』がいるためにソルの意識からは外れがちだったが、妖精族(エルフ)こそが魔法において亜人種(デミ・ヒューム)筆頭の存在なのだ。


 そして『妖精王(アイナノア)』救出の任に就いていた2人の実力から見ても、それは与太話の(たぐい)ではないだろう。


 全員が魔法使いであることを当然としている妖精族(エルフ)たちであれば、フレデリカのいう通り、ソルの期待する体系化された魔力操作の教育方法が存在することにも期待できるだろう。


「よっし、じゃあ行こうか。ルーナ、アイナノア、今日はよろしく」


 どちらにせよ、まずは最終迷宮の適正攻略レベルに自分たちを合わせることが最優先だ。


 ゆえにソルはそう宣言すると同時、すでに把握している最終迷宮(ラスト・ダンジョン)の入口へ向かって歩き始めた。


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