第264話 『王佐の在り方』④
「お互いにですね。新規メンバーが加わったことですし、ちょっと腰を据えて攻略より育成に軸を置くつもりなので、冒険者ギルドには定期的に顔を出すつもりです。ガウェインさんには彼女らの通常装備も揃えてもらわないといけませんしね」
そんなスティーヴの特徴を理解できているソルは苦笑いである。
自分もほどほどにすることを明言することで、スティーヴにも過ぎた無理はしないように釘を刺している。
どうしたって無理する者に、一切無理をするなといっても無駄なだけなのだ。
その上でスティーヴの希望にもこたえる形で、定期的に確認に行くことも伝えておく。
肩を竦めてそれを聞いているスティーヴにはそのあたり、ソルが言外に込めた意味はきちんと伝わっているらしい。
「任せとけ。神話に謳われている『最終迷宮』の魔物素材が揃うんだ、従来メンバーの通常装備も更新させてもらうつもりだ。『固有№武装』も強化拡張できるだろうし、複数保有も今じゃ可能だろうしな……」
お互いある程度セーブすることの重要さも理解できているソルとスティーヴは、ソルの言葉の最後の部分に興奮状態になっている、この中での最高齢者を半目で見ることしかできない。
確かにこれからソルたちが攻略を進める最終迷宮は『勇者救世譚』では最高難易度とされており、当然そこに湧出している魔物や階層主の強さは突出しているはずだ。
そして強い魔物から得られる魔物素材から創り出される魔導装備群が優れていることは当然だ。
階層主に至ってはいかな禁忌領域主とはいえ、所詮は地上の魔物支配領域の主とは比べ物にならないだろう。
つまりは現状の最強装備である『固有№武装』を遥かに凌駕する武器を、己が手で生み出すことができるのだ。
そのために生きていると言って過言ではないガウェインに、それで興奮するなといってもまあ無理だろうということはソルはスティーヴも理解できてはいる。
「あんまり無理しないでくださいよ」
だからといって倒れられても困るのだ。
もちろんソルたち『解放者』に規格外の武装を準備してくれる者にいなくなられては困るという、実際的な理由もありはする。
だがソルはこの下手をすれば精神年齢はこの中で一番若いかもしれない、やんちゃ小僧のような爺様と呑むことを、ことのほか気に入っているのも事実だ。
その理由を問わず、絶対者とは自分が気に入ったものが失われることを厭い、そうならないように他者に強制させられるからこその絶対者でもある。
「そもそも儂は老い先みじけーんだ、全力疾走してもまあ持つだろ」
だがそう言ってにやりと笑われてしまえば、ソルにはこれ以上ガウェインに強く言うことができなくなってしまう。
確かにガウェインにしてみれば穏やかに天命を迎えて豪華なベッドの上で死ぬよりも、自分の工房で無理をした結果、前のめりにくたばった方がよほど幸せなのだろうなと思えてしまうから。
「……まあ、俺がみはっとくよ」
「……ホントお願いしますね」
そんなソルに苦笑いを浮かべつつ、爺様の世話は若者よりはまだ歳の近いおっさんに任せとけと、スティーヴが請け負った。
ソルとしてはもう、そうお願いするしかない。
あるいは人間の精神年齢とは、スティーヴあたりを境に若返り始める、言い換えれば世間の柵に必要以上に囚われなくなり、自由になっていくものなのかもしれない。




